外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年3月7日(火)

外交・安保カレンダー (3月6-12日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


先週は超駆け足でマレーシアとフィリピンに出張してきた。珍しいことに外務省からは、「講師派遣」事業の一環で両国に出張しFOIP(自由で開かれたインド太平洋)推進等をテーマに現地シンクタンク・大学等で講演するだけでなく現地メディアのインタビューも受けよ、とのご下命があったのだ。体力的には限界に近かったが、同時に得るものは多かった。

例えば、今回久し振りでマニラに戻って痛感したのは、米比関係が劇的に改善したこと、及び、ごく数年前までなら夢でしかなかった、日米比三か国による安全保障協力というアイデアが具体化しつつあることだ。へーーっ、1991年の在比米軍撤退を知る者にとっては、文字通り、隔世の感がある。

1991年の在比米軍撤退が南シナ海に「力の空白」をもたらし、人民解放軍の活動を活発化させたことは間違いない。だが、南シナ海に「力の空白」が生じたのは1991年が初めてではないことも、今回現地に来てようやく実感できた。筆者の計算では、第二次大戦以降既に6回も「力の空白」が生じているようだ。

中国は南シナ海で戦略的な「力の空白」が発生する度に、同海域への海洋進出を、段階的かつ慎重ながらも、確実に実施してきた。流石のフィリピンも漸く「目覚めた」のだろうか。昨年6月に発足したマルコス政権は、米比同盟を重視する従来の外交政策に明確に回帰しているようだ。

昨年9月のNYでの米比首脳会談、11月のハリス副大統領来比、本年2月2日のオースティン国防長官来比と最近の米国はフィリピン重視が際立っている。米国防長官は米比防衛協力強化協定(EDCA)に基づく米軍の活動拠点追加を発表した。フィリピンについては今週のJapanTimesにコラムを書いたので、ご一読願いたい。

一方、マレーシア訪問も久し振りだった。これまで何度か訪れたが、どれも総理訪問同行ばかりで、じっくりクアラルンプールの街を見る機会は皆無。その意味でも今次訪問は有意義だった。例えば、マレーシアの非同盟外交は事前に勉強してきたつもりだったが、実際マレーシアの知識人と話すと、そんな単純な話ではないらしい。

マレーシアは人口3260万人、マレー系が70%だが中華系も23%もいる多民族国家であり、イスラム教徒が64%のイスラム系社会でもありながら、しっかり民主主義を実践している。これって、凄いことだよな、と現地に来て初めて分かった。考えてみれば、ASEAN民主主義実践国はフィリピン、マレーシア、インドネシアしかない。

いずれも島嶼国で、そのうち二つがイスラム系多民族国家というのは偶然の一致なのか。それとも、何か特別の秘密があるのだろうか。昔インドネシアに出張した際も同様の感慨を持ったが、この疑問は未だ解明されてない。

最後に日韓関係についても触れておきたい。日本のマスコミは、「3月6日、韓国政府がいわゆる「徴用工」訴訟問題で、日本企業の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする解決策を正式発表した。これを受け林外相は、植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した日韓共同宣言の継承を表明した」と報じた。

多くの日本メディアは「日韓最大の懸案解決で両政府が事実上、合意した。両国は尹錫悦大統領の3月中旬来日と岸田文雄首相との会談へ向け調整に入った。2019年から日本政府が始めた半導体関連材料の対韓輸出規制強化についても、解除に向けた協議を開始する。」と報じている。

この件では、先ほどシンガポールのTVでZoom生出演させられて往生した。「これで問題は解決するのか」「日本政府は謝罪しないのか」等々聞かれ、「慎重ながら楽観的だが、悪魔は詳細に宿るので、再びゴールポストを動かされないよう、状況を見る必要がある」などと歯切れの悪いコメントしかできなかった。日韓関係が「90%国内問題」から、「90%国際問題」となるのは一体いつの日のことだろうか。

〇アジア
中国が全人代で新たな国務院総理を選出する。朝日新聞が李克強現総理に関する興味深い記事を書いていた。自民党でいえば、李総理を含む共青団(共産主義青年団)は、叩き上げの党人派というより、霞が関エリート官僚集団であり、習近平は二世、三世世襲議員の代表ということなのだろう。党高官低という点では日本と同じなのか。

〇欧州・ロシア
ウクライナ大統領がバフムトにつき「防衛作戦を継続し態勢をさらに強化する」と確認したそうだ。他方、戦略的に重要でない同地からウクライナ軍は徐々に撤退していくとの観測もある。戦場の状況は正直分からないが、どこからが正確な情報で、どこからがプロパガンダ情報なのかをしっかり見極めないと、えらい恥をかくことになる。

〇中東
イラン各地で女子学生が窒素ガスなどによる攻撃を受けているらしい。昨年イスタンブール空港のラウンジで会ったイランの女子高校生たちは意気軒高だったが、彼女たちを狙うなんて何と卑劣な連中だろうか。イラン・シーア派の一部狂信的グループの仕業かどうかは未だ不明だが、子女を狙うなんてイスラムとは程遠い話だ。

〇南北アメリカ
ワシントンで開かれたCPACの会合を見る限り、トランプ人気はまだ衰えていないようだ。副大統領候補を狙うニッキ―・ヘイリーとは異なり、デサントスなど賢い連中はトランプとは「真正面で戦わない」戦術を続けている。正しい手法だとは思うが、これが吉と出るか、凶と出るかは、まだ分からない。

〇インド亜大陸
あるインドの友人が、日本企業、特に中小企業がインドに投資してくれないと嘆いていた。投資を躊躇する理由は様々あるだろうが、中国との関係がこうなった以上、日本企業には東南アジア以外に新たな市場や製造拠点が必要ではないのか。インドの投資環境も改善していると聞く。今年は対インド投資の研究をしてみたい。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

1月16日‐3月17日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)

1月23日‐3月10日 大陸棚の限界に関する委員会、第57回会議(ニューヨーク)

1月23日‐3月31日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)

1月23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)

2月20日‐3月17日 平和維持活動特別委員会及び同作業部会 実質的な会合(ニューヨーク)

2月21日‐3月10日 フランス東部ブザンソンの黒崎愛海さん不明事件でセペダ被告の控訴審

2月27日‐3月17日 ICAO、理事会フェーズ、第228回会議(モントリオール)

2月27日‐3月24日 第137回人権委員会(ジュネーブ)

2月27日‐4月4日 人権理事会、第52回会議(ジュネーブ)

3月5日‐3月9日 国連後発開発途上国会議 第5回会合(ドーハ)

3月

<3月6日‐3月12日>

6日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表

6日‐3月7日 WTO一般理事会

6日‐3月10日 経済的・社会的及び文化的権利に関する委員会、予備段階作業部会、第72回会議(ジュネーブ)

6日‐3月10日 情報通信技術の安全保障と利用に関するオープンエンド・作業部会 2021-2025 第4回会合(ニューヨーク)

6日‐3月10日 IAEA、総務委員会(ウイーン)

6日‐3月17日 国際海底機構 法務・技術委員会(第一部)(キングストーン)

6日‐3月24日 障害者の権利委員会、第28回会合(ジュネーブ)

7日 中国1~2月貿易統計発表

7日‐3月8日 EU非公式国防相会合

8日 ユーロスタット、2022年第4四半期実質GDP成長率発表

8日 EU理事会、政治会議コレパーI

8日 EU理事会、政治会議コレパーII

8日 米国1月貿易統計発表

9日 WTOサービス貿易理事会

9日 ロシア2月CPI発表

9日 メキシコ2月CPI発表

9日 UNEP、第161回常設代表委員会(ナイロビ)

9日 中国2月CPI発表

9日 米国大統領予算教書

10日 インド1月鉱工業生産指数発表

10日 米国2月雇用統計発表

10日 ドイツ2月CPI発表

10日 ブラジル2月拡大消費者物価指数(IPCA)発表

13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表

13日 ウクライナ2月CPI発表

13日‐3月23日 ILO、運営組織とその委員会、第347回会合(ジュネーブ)

13日‐3月24日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、第16回会議作業部会B及び非公式・専門家会合(ニューヨーク)

<3月13日‐3月19日>

14日 米国2月CPI発表

14日 英国労働市場統計(2022年11月~2023年1月)発表

15日 米国2月小売売上高統計発表

15日 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

15日 フランス2月CPI発表

15日 米国国際貿易委員会(ITC)の米国通商拡大法232条および1974年通商法301条に基づく対中追加関税の米国産業に対する影響に関する報告書の議会提出期限

16日‐3月17日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会

17日 ユーロスタット、2月CPI発表

17日 ロシア中央銀行理事会

17日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表

17日 CIS経済理事会

17日 米国国際貿易委員会(ITC)の米国のアフリカ成長機会法(AGOA)に関する報告書のUSTRへの提出期限


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問