外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年2月15日(水)

外交・安保カレンダー (2月13-19日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


お約束通り、今週は「オフレコ破り」論議の続きを書こう。官邸の事務総理秘書官がLGBTQ+関連「オフレコ発言」問題で更迭されてから10日ほど経ったが、あのニュースについてはどうしても腑に落ちない不可解な点がある。おっと、誤解のないように正確に申し上げるが、筆者が理解し難いのは某秘書官の発言内容ではない。

あの種のLGBTQ+差別発言は公言すれば一発レッドカードで、弁護の余地はない。もしあの発言が日本社会一般の感度の低さを象徴するのであれば残念だが、今回筆者が理解し難いと思うのは、同秘書官の「オフレコ発言」が「オンレコ扱い」になった経緯である。事件が報じられた当時、海外にいた筆者は正直、半信半疑だった。

帰国してようやく事実関係の詳細が見えてきた頃、先週ご紹介した元国連広報担当事務次長を務めた赤阪清隆大使の批判的小論を読んだ。これで、それまでモヤモヤしていた筆者の疑問は明確になった。筆者の問題意識はLGBTQ+差別に止まらず、日本のジャーナリズムの「質」に関わる。改めて赤阪氏の主張を3点に要約しよう。

①毎日新聞は「首相秘書官の人権意識を重大と判断したが、実名報道はオフレコという約束を破るので、同秘書官に実名で報道する旨を事前に伝えた上で」実名で報じたというが、事前通報に対し同秘書官がどう応じたかを毎日新聞は説明していない。

②オフレコを解除することについて同秘書官が同意しなかったか、返答する機会がなかったのであれば、毎日新聞は「オフレコ破り」をしたことになる。

③仮に「発言内容が社会的に重大であり、より大きな公益にプラスとなる場合はオフレコ破りが許される」というのなら、そうした議論は国際的に通用しない。

この結論には筆者も全面的に同意する。筆者の論点とコメントは次の通りだ。

①実名で報道しないという「オフレコ」の約束はどの程度効力があるのか?

筆者の知る限り、成文による合意はない。となると、「オフレコ」の約束は口頭もしくは慣例となるが、仮に文章になっていなくても、約束自体は民法上有効である。

②毎日新聞は総理秘書官に何を伝えたのか?

「実名で報じたい」と伝えれば民法上は契約解除要請となり、特段の定めがない限り、解除は両当事者間の合意に基づくはずだが、秘書官がこれに同意した形跡はない。

③総理秘書官に実名報道を拒否する権利はあるか?

当然あるが、拒否したかどうかは不明だ。いずれにせよ、口頭による「オフレコ」約束に「発言内容が重大である場合は一方的に契約解除できる」権利は含まれない。

④毎日新聞が総理秘書官の同意がないまま実名を報道する権利はあるのか?

民法上、解除には法定解除と約定解除がある。法定解除権は債務不履行や納品物の瑕疵などの場合認められるが、今回はそれに該当しない。また、同秘書官のオフレコ発言が如何に不謹慎でも、「公序良俗」に反する「不法行為」とまでは言えない。

⑤総理秘書官はなぜ損害賠償を請求しないのか?

不明である。人によっては告訴を考えるかもしれない。

⑥この種の「オフレコ破り」は日本以外でも行われているのか?

途上国の記者ならともかく、欧米先進国のジャーナリストで毎日新聞の行動を支持する者はいないだろう。そんな記者は自分がジャーナリストでないことを公言するに等しいからだ。

なぜ、かくもクドクドと書くのか、と訝る向きもあるだろう。「オフレコ破り」については筆者も昔似たような経験を持っているので、どうしても一言モノ申したいのだ。もう40年近く前の出来事だが、「オフレコ」約束の上で話した内容を、ある記者が「これはオフレコにできない」と言い出して、大騒ぎになったことがある。詳細は「オフレコ」だが・・・。

それ以来、筆者は日本人記者との間では「オフレコ約束」が成り立たないことを悟り、漏れても良い内容しか喋らなくなったという意味でも、悲しい体験だった。

要するに、約束を守らない記者、つまり信用できない人には「事実を伝える必要はない」と思うようになったということだ。日本人の記者の少なくとも一部はこの40年間、もしくはそれ以上の期間、全く進歩していない、ということなのだろうか。これ以上書くと関係者から嫌われるのでもう止めるが、筆者は決してそうだとは思いたくない。

ジャーナリズムの本質は「事実を伝える」ことであり、「権力をチェックする」ことは、その副次的効果に過ぎない。このことを理解しない日本の一部の記者は、後者を優先するあまり、前者を蔑ろにしていると思う。事実を引き出すためには情報ソースとの信頼関係が不可欠だが、「オフレコ破り」はその信頼を根本から破壊する行為だからだ。

〇アジア
世界中で中国のスパイ気球もどきの話が報じられているが、全てが中国のモノと決まったわけではない。それよりも、気になるのは近年中国が高度12万メートルの高度での情報収集活動を本格化させているという事実である。アメリカは漸くその問題に対処し始めたに過ぎない。高度2万メートルでの米中露などの戦いは続くだろう。

〇欧州・ロシア
ロシアとウクライナが第一次大戦型の長期消耗戦を戦う中で、アメリカは第二次大戦型の機動力による決着を目指している、といった分析が最近NYTに載っていた。消耗戦であればロシアが勝つ可能性も出てくるからだが、決着を急げば今度はロシアが暴発する可能性も高まる。戦争は新たな段階を迎えつつあるようだ。

〇中東
トルコ南西部とシリアの北西部の大地震による犠牲者が4万人を越えそうだ。心から哀悼の意を表するが、それだけでは被災者は救われない。特に、今も内戦が続くシリア側の状況は最悪だ。アサド政権が本気で救出活動をしようとするとは到底思えないだけに、心が痛む。

○南北アメリカ
ニッキーヘイリー元国連大使が2024年の大統領選に名乗りを上げた。副大統領候補狙いだと思うが、トランプ政権入りするまでは州知事を務めたこともあり、良い政治決断だったと思う。問題はトランプ氏の支持率が共和党内で今も47%あり、このままでは共和党が割れる可能性すらあること。困ったことである。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

116日‐317日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)

123日‐310日 大陸棚の限界に関する委員会、第57回会議(ニューヨーク)

123日‐331日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)

123日‐55日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)

6日‐217日 宇宙空間平和利用委員会 科学技術分科会 第60回会議(ウイーン)

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213日‐219日>

13日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)

13日 非政府組織委員会 定例会(ニューヨーク)

13日‐214日 UN-Women、理事会、第1回定例会(ニューヨーク)

13日‐217日 UNCITRAL、作業部会I(零細・中小企業)、第39回会議(ニューヨーク)

14日 米国20231CPI発表

14日 フランス2022年第4四半期失業率発表

14日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)

14日‐215日 IFAD、理事会、第46回会議(ローマ)

15日 米国20231月小売売上高統計発表

15日‐217日 独立監査諮問委員会 第61回(ニューヨーク)

16日 植民地国及び植民地人民への独立の付与に関する宣言の実施に関する状況についての特別委員会、組織委員会(ニューヨーク)

17日 フランス1CPI発表

17日‐219日 ミュンヘン安全保障会議(独ミュンヘン)

220日‐226日>

18日 社民党第13回全国代表者会議

19日 埼玉県吉川、兵庫県丹波篠山、佐賀県鳥栖、大分県国東各市長選投開票

19日 立憲民主党大会(午後、都内)

19日‐220日 リオのカーニバル(リオデジャネイロ、ブラジル)

20日 大統領の日(米市場休場)

20日 EU外相理事会(ブリュッセル)

20日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表

20日 ユーラシア経済委員会評議会(ロシア・モスクワ)

20日 大統領の日(米市場休場)

20日 軍縮委員会、組織委員会(ニューヨーク)

20日‐224日 第25回開発政策委員会(ニューヨーク)

20日‐224日 人権理事会諮問委員会 第29回会議(ジュネーブ)

20日‐317日 平和維持活動特別委員会及び同作業部会 実質的な会合(ニューヨーク)

21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)

21日 メキシコ202212月小売・卸売販売指数発表

21日‐310日 フランス東部ブザンソンの黒崎愛海さん不明事件でセペダ被告の控訴審

22日 米FOMC議事要旨(131日、21日開催分)(FRB

23日 ユーロスタット、1CPI発表

23日 米国2022年第4四半期および2022年年間GDP発表(改定値)

23日 OECD2022年第4四半期G20貿易統計発表

23日‐225日 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議(インド・ベンガルール)

24日 メキシコ2022年第4四半期GDP発表

24日 ロシアのウクライナ侵攻から1

24日 1月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)

25日 ナイジェリア大統領・議会選

26日 Crew-6Falcon9Block5号・SpaceX(ケネディー宇宙センター)

26日 自民党大会

227日‐2月末>

27日 WTO紛争解決機関会合

27日 メキシコ1月貿易統計発表

27日‐228日 EU農水相理事会(ブリュッセル)

27日‐32日 国連WFP、理事会、第1回定例会(ローマ)

27日‐317日 ICAO、理事会フェーズ、第228回会議(モントリオール)

28日 インド2022年度第3四半期GDP発表

2月中 ロシア投資フォーラム(ロシア・ソチ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問