キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年2月1日(水)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
今週も「大きな国際ニュース」は少ない。その証拠に、政務の総理秘書官の閣僚への「お土産購入」問題が日本では大ニュースになっている。野党側からは、「くだらすぎる。・・・感覚が異様である」といった厳しい批判から、「民主党政権時代にも似たようなことはあった」という意外に正直なコメントまで、様々な反応があった。
官房長官は「それぞれの方々のお気持ちの問題であり、個々人が判断すべきもの」「政治家としての首相の土産物の購入も、本来業務に含まれうる」と述べているが、この「感覚」が「異様」だと断罪する感覚の方が異様ではなかろうか。筆者の在外勤務中、日本の政治家で「お土産は不要」と言った人に出会ったことは一度もない。
誤解を恐れず申し上げるが、40年前に大臣秘書官だった筆者の記憶でも、当時から国会議員の外遊の際に「秘書や議員本人が公用車を使ってネクタイ100本買いに行った」なんて話をよく聞いたものだ。恐らく、まだやっているのでしょうね。という訳で、今週はニュース枯れのようだが、そんな中で筆者が注目したニュースはこれだ。
日本では1月30日、こんなニュースが流れた。「テネシー州で警察官による交通違反の取り締まり中、黒人男性が乱暴に地面に押さえつけられ、足にはスタンガンを突きつけられた。警察官から暴行を受けたこの男性は3日後に死亡、全米各地で警察に対する抗議デモが起き、暴行した5人の警察官は殺人の罪などで起訴された。」
これだけだと、また無実のアフリカ系米国人(いわゆる黒人)男性が「白人警察官の人種差別的な過剰取り締まりで死亡した」と思ってしまうのだが、実はこの5人の警官は全員同じアフリカ系アメリカ人である。少なくともこの事件は人種差別事件やヘイトクライムの類ではない。多くの読者はその点を理解した上でこんなコメントを書いた。
「この問題は差別問題と言うよりも、銃社会に起因する警察官の質の低下によるものだと思う。」「今回は警官も黒人だし被害者が白人やアジア人でも同じように報道するのか?何故警官はそこまで暴力を使ったのか?」等など。たが、中には首をかしげるようなコメントもあった。例えば、
「警察官のなり手を確保することが困難になっている・・・結果、チンピラのような警察官が増え、警察への信頼や人気が低下して、どんどんならず者化していっている」・・・だが、これは今回の場合、必ずしも正確ではない。この5人の警察官は現地警察署自慢の「スコーピオン部隊」という犯罪撲滅特別チームのメンバーだったからだ。
CNNによれば、このスコーピオン部隊を創設したのはアフリカ系女性の警察署長で、同部隊は取り締まりに大活躍し現地の犯罪減少に貢献していたという。つまり、この5人の警察官はエリートではなくても、それなりに結果を出してきたチームの同僚のようだ。このニュースを聞いて筆者は「恐らく今回はやり過ぎたのだな」と感じた。
事実関係は今後公判で明らかになるだろうが、この事件は人種差別でもヘイトクライムでもなく、地域のアフリカ系悪人による犯罪を減らすため、それを熟知するアフリカ系の警官が、不幸にもアフリカ系容疑者を誤認捜査して死に至らしめてしまったことが、警察官のボディカメラ録画画像で明らかになった、という実に悲しい事件のようだ。勿論、それで5人の刑事責任がなくなる訳ではないのだが・・・・。
〇アジア
ミャンマー国軍のクーデターから2月1日で2年となる。国軍は民主派による武装抵抗が続く現状を「異常な状況」としているが、民間人の死者は約2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超えるらしい。国際的非難は続くだろうが、残念ながら国軍は意に介さない。All politics is localという格言は世界共通のようだ。
〇欧州・ロシア
ウクライナ外相はNATOからの戦車供与につき「第1弾として120両から140両が到着する」と述べ、米「エイブラムス」、独「レオパルト2」、英「チャレンジャー2」など12カ国から主要戦車の早期受け取りを見込んでいるそうだ。うーん、問題はこれに戦闘機を加えるかどうかである。加わればロシア勝利の可能性は遠のくのだろうが・・・。
〇中東
ブリンケン国務長官が中東を訪問している。イスラエルとパレスチナの暴力の応酬に深い懸念を示した上で、ユダヤ人入植地の拡大に強く反対すると強調し、パレスチナに対し強硬なイスラエルのネタニヤフ政権にくぎを刺したとNHKは報じたが、日本は勿論、中東でも大きなニュースにはならない。昔なら考えられなかったことだ。
〇南北アメリカ
昨年8月にトランプ氏が米ニューヨーク州司法長官に対し宣誓供述を行った際の動画が今週公開されたが、その中でトランプ氏は合衆国憲法第五条(黙秘権)を連発し、質問への具体的回答を全く行わなかった。黙秘権公使は犯罪を推定するものではないが、潔白なら堂々と反論すれば良いではないの。賞味期限が切れ始めたか?
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
1月
<今週以前から続く会議>
16日‐2月3日 子どもの権利委員会、第92回会議(ジュネーブ)
16日‐2月3日 ICAO、委員会フェーズ、第228回会議(モントリオール)
16日‐3月17日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)
23日‐2月1日 非政府組織委員会 定例会(ニューヨーク)
23日‐2月3日 人権理事会 普遍的定期的審査作業部会 第42回(ジュネーブ)
23日‐3月10日 大陸棚の限界に関する委員会、第57回会議(ニューヨーク)
23日‐3月31日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)
23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)
<1月30日‐2月5日>
30日 ニュージーランド2022年12月貿易統計発表
30日 WTO紛争解決機関会合
30日‐2月3日 国連開発計画 (UNDP) / UNFPA/UNOPS理事会、第1回定例会(ニューヨーク)
30日‐2月3日 国際麻薬取締委員会 第136回会議(ウイーン)
30日‐2月3日 責任ある行動の規範、規則、原則を通じた宇宙の脅威の削減に関するオープンエンドの作業部会、第3セッション(ジュネーブ)
30日‐2月7日 WHO、理事会、第152回会議(ジュネーブ)
31日 22年10月~12月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
31日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 ブラジル2022年12月全国家計サンプル調査発表
31日 経済社会理事会、パートナーシップフォーラム(ニューヨーク)
31日‐2月1日 ブラジル中央銀行、Copom
31日‐2月1日 米国FOMC
31日‐2月3日 女子差別撤廃委員会、女子差別撤廃条約の選択議定書に基づく通報作業部会、第55回会議(ジュネーブ)
2月
1日 インド2022年暫定予算案発表
1日 香港2022年通年GDP成長率(速報値)発表
1日 台湾2023年1月小売統計発表
1日 ユーロスタット、2022年12月失業率発表
1日 ミャンマーのクーデターから2年
1日 FOMC最終日
1日 Starlink Group 5‐3・ファルコン9Block5号、SpaceX(ケネディー宇宙センター)
1日‐2月2日 経済社会理事会 調整セグメント(ニューヨーク)
1日‐2月3 軍縮問題諮問委員会 第79回(ジュネーブ)
2日 金融政策(フランクフルト)
2日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会
2日 欧州委員会委員団、ウクライナ訪問
2日 欧州委員団、キーウ訪問
3日 米国2023年1月雇用統計発表
3日 ブラジル2022年12月鉱工業生産指数発表
3日 EU首脳とウクライナ大統領が会談(キーウ)
5日 日本維新の会党大会
5日 キプロス大統領選
5日 Amazonian Nexus・ファルコン9Block5号、SpaceX(ケープカナベラル空軍基地)
<2月6日‐2月12日>
6日‐2月10日 拷問禁止委員会、拷問その他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会 第49回会議(ジュネーブ)
6日‐2月10日 子どもの権利委員会、会議前作業部会、第94回会議(ジュネーブ)
6日‐2月10日 核軍縮の進展における検証の役割を検討する政府専門家部会、第3回会議(ジュネーブ)
6日‐2月10日 人権理事会、強制的または非自発的失踪に関する作業部会、第129回会議(サンティアゴ)
6日‐2月10日 人権理事会、人権問題及び多国籍企業及びその他の企業に関する作業部会、第34回会議(ジュネーブ)
6日‐2月10日 UNCITRAL、作業部会II (紛争解決)、第77回会議(ニューヨーク)
6日‐2月15日 社会開発委員会、第61回会議(ニューヨーク)
6日‐2月17日 宇宙空間平和利用委員会 科学技術分科会 第60回会議(ウイーン)
7日 米国2022年12月貿易統計発表
7日 米大統領、一般教書演説
7日 メキシコ2023年1月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 メキシコ1月CPI発表
9日 ブラジル2022年12月月間小売り調査発表
10日 インド2022年12月鉱工業生産指数発表
10日 メキシコ2022年12月鉱工業生産指数発表
10日 ロシア中央銀行理事会
10日 英国2022年第4四半期GDP成長率(速報値)発表
10日 1月の中国CPI(国家統計局)
10日 22年10‐12月期と12月の英GDP速報値(国民統計局)
11日 国民民主党大会
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問