外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年1月18日(水)

デュポン・サークル便り(1月18日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、年明けからこの2週間、内政に外交に大忙しです。日本では日米外務・防衛閣僚会合(通称22)と日米首脳会談が大きく報じられていると思いますが、ワシントンの政治状況は、正直、それどころではありません。というのも、お正月休み明け早々、共和党の内紛の火ぶたが切って落とされ、さらに、バイデン大統領の大チョンボも発覚し大騒ぎになっているからです。

13日、米連邦議会では新会期が招集され、下院は共和党が多数党、上院は僅差で民主党が多数党を維持という「ねじれ議会」がスタートしました。新会期第一日目は、下院議長の選出から始まります。通常は、前年の選挙で多数党となった政党の指導者が、多数党議員の圧倒的支持を得て下院議長に選出され、新会期が本格的に始動します。現在、下院で過半数を持っているのは共和党ですから、本来であれば、前会期で共和党下院院内総務だったケビン・マッカーシー議員が、共和党議員のほぼ満場一致で下院議長に選出され、新しい会期が始動するはずでした。

ところが、なんと、会期明け早々、下院議長選出に1週間近くかかってしまうという大番狂わせが生じてしまったのです。下院議長に選出されるためには218票が必要です。ところが、20名余りの共和党議員が、アンディ・ビッグス下院議員(アリゾナ州選出)やジム・ジョーダン下院議員(オハイオ州選出)、バイロン・ロナルズ下院議員(フロリダ州選出)といった候補に投票。結果、マッカーシー議員が下院議長になるために必要な218票を獲得するために、本会議場での投票計15回、下院議長選出までに4日近くかかり、その間、議会が空転するという異常事態が起きてしまったのです。

下院議長選出にこれほど時間がかかるのは、異例です。このような異常事態の前例は今をさかのぼること約180年前、1856年。当時、下院議長を選出するまで、なんと計133回の本会議投票、約2か月を要しました。

これほど前例がない事態を招いた原因は、上記の20名余りの共和党議員の造反。彼らはいずれも、トランプ前大統領を支持する党内の強硬右派。マッカーシー議員は、彼らの支持を取り付けるために妥協に妥協を重ね、その結果、下院の議事規則の改正の中に、「一人の議員が、下院議長の席は『空席』であると宣言できる」という実質「一人の議員が下院議長不信任案を発議できる」という規則が含まれたパッケージが多数決で通過、第118会期がようやく19日に始まりました。ですが、会期が始まってはみたものの、下院議長の権限が著しく低下した状態での会期スタートに、早くも下院議事運営の混乱の可能性が懸念されています。

共和党内の分裂が下院議長選挙での混乱という形で表面化する中、バイデン大統領にも新たな政治的危機に発展する可能性がある事態が勃発しました。昨年11月に、バイデン大統領の名を冠した非営利団体であるペン・バイデン・センターから、本来、国立公文書館に引き渡されるべきだったオバマ政権時代の書類が見つかり、その中に機密文書が含まれていることが分かったのです。さらに事態は、12月にデラウエア州のバイデン大統領の私邸のガレージから機密文書が入った箱が見つかったことでさらに深刻化。112日に司法省が、ロバート・ハー前メリーランド州連邦検察官をこの事件の特別捜査官として任命することが、ガーランド司法長官から発表されました。

ドナルド・トランプ前大統領が、大統領職を離れた後も、私邸に機密文書を保有していた疑惑で、司法省検察官が劇的な立ち入り検査をしてから約半年。バイデン大統領側にも似たような疑惑が持ち上がったことで、法的な議論はさておき、国民目線でいえば「トランプもバイデンもどっちもどっち」的なイメージになってしまいました。民主党内で「バイデン勇退論」が浮上する可能性を大きくはらんだこの事件、今後の展開に要注目です。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員