外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年1月10日(火)

外交・安保カレンダー (1月9日-1月15日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


年末年始はあっという間に過ぎた。歳のせいだろうか、昔の24時間は今よりもっと長かったような気がする。新年早々収集分析すべき情報は山ほどあるが、特に、今週は岸田総理が欧米に出張する。気の早い日本のメディアは「5か国歴訪“7日で地球1周” 狙いは?」などと書いた。あーあ、また始まったのかぃ!

「ヨーロッパ各国の最大の関心事はウクライナです。第二の目的が広島サミット成功に向け岸田総理が各国のトップに直接、協力をお願いすることです。内閣支持率が低迷する中で、2023年、岸田総理にとってサミットの成功をぜひとも求心力復活につなげたいわけで、今回の訪問はサミット成功に向けた不可欠な準備にあたります。」

失礼ながら、相変わらず、報道ぶりはこんな具合だ。この記事には早速ネット上で多くのコメントが寄せられた。「今岸田総理の頭の中にある最大の課題は低迷する支持率の回復だろうが、防衛費増額、少子化対策に関わる増税の問題を国民にしっかり説明する等内政を優先する方が先決だと思うが…」 何が問題なのか、分からないって?

筆者がいつも思うことは、日本首相の海外出張関連記事の大半が、外交記事というよりも、内政、特に政局記事であることだ。それは恐らく官邸記者クラブの政治部記者が書くからだろう。中には初めて政府専用機に乗り「総理外遊」を取材する方々もいる。優秀な人々だから直前にしっかり勉強して、それなりの記事は書いている。

でも、彼らの最大関心事は「内政的に厳しい首相が海外出張で存在感をアピールし、支持率を上げ政権浮揚ができるか」であって、日本の中長期的対外利益ではない。もしそうだとすれば、「サミット成功を求心力復活に」などという、恐らくは憲政史上ほぼ一貫する、陳腐な報道などしないはずだ。

こんな記事ばかり読んできたからだろうか、読者からは「岸田総理になってから国会会期前に外交が何故か多く感じ取れる」「7日で5か国を訪問するような強硬スケジュールで何をアピールするつもりなのだろうか。お金のバラマキに終わるのはやめてもらいたい。ロシアと中国に対しての対応と国連をどのように改善してくのかしっかり議論してもらいたい。」といった辛口のコメントが続々と投稿される。

しかし、勘違いされては困る。総理が国会会期前に海外出張するのは、会期中の出張が極めて難しいからであって、これは岸田内閣になって始まったことではない。また、総理の海外出張は外交であって単なる宣伝アピールの場ではない。それでも、読者のコメントにはそれなりの価値がある。

もっと困るのは素人ではないかと思われる報道ぶりだ。例えば「ただ、強行日程だけにドタバタする面も見えます。通常、首脳会談は個別に行うケースが多い中、今回のフランスでは夕食会と同時に行うという、やや異例の日程になっています。」どの国でも多くの首脳出張は強行日程であり、ドタバタはつきものだ。

しかも、夕食会が「ワーキングディナー」なんて良くあること、異例でも何でもない。また、「慌ただしい訪問で、各国からどれくらい具体的な協力を引き出せるかがポイントとなります。」と報じているが、G7サミット議長としての訪問の目的は明確であり、焦点がロシアと中国であること、G7の協力の必要性なことぐらいどの首脳も知っている。

昨年のカレンダーを読み返してみたら、2022年1月第二週の回ではこう書いていた。「それにしても、プーチン大統領は何と傑出した政治指導者であることか。勿論悪い意味で、であるが・・・。このような人物は欧米は勿論、中国にもいない。・・・そのプーチンにとって、1990年代以降のNATO東方拡大という「新常態」は、1941年にナチス・ドイツが西欧、東欧、北欧の各国とともにソ連(当時)に侵攻した「大祖国戦争」の再来と映るのではないか。プーチンの野望は決してウクライナだけでは終わらないだろう。」恐らく来年の今頃もこれと同じ趣旨を書いているかもしれない。

〇アジア
ゼロコロナ政策が終了した中国で事実上海外旅行が解禁され、1月21日から始まる春節では多くの中国人が日本を訪れるという。但し、中国国内では爆発的感染が続いており、コロナに感染していない人が飲食店などへの入店を断られる逆転現象も起きているそうだ。やれやれ、変な国だね、それにしても。

〇欧州・ロシア
英国がNATO標準の主力戦車「チャレンジャー2」をウクライナに供給することを検討しているそうだ。仏独にも同様の動きがあり、米国も含め、これまで控えてきた重火器の一部が解禁されるらしい。そうなると、①NATOは絶対にロシアに勝利させない、従って、②戦争は当分終わらない、ということである。

〇中東
ドバイ首長国が30%の酒税と、観光客や外国人居住者に求めていたアルコール飲料購入許可制度を一年間、試験的に廃止するそうだ。外国人労働者や訪問客の誘い込み競争の一環だそうだが、その一方でイスラム教徒には引き続き購入を禁じている。こんなダブルスタンダードで大丈夫なのかね。

〇南北アメリカ
ブラジルの首都でSNSを通じて集まったボルソナロ前大統領の支持者が暴徒化し、大統領府、国会議事堂などが一時占拠され、逮捕者は400人以上、彼らはルラ大統領の逮捕を求めたという。大統領選挙後のブラジルで選挙結果を否定する動きが出ないか心配していたが、これでアメリカのトランプ支持者たちは大喜びだろう。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<1月9日‐1月15日>

9日 メキシコ2022年12月CPI発表

9日 ユーロスタット、11月失業率発表

9日 日仏首脳会談(パリ)

9日‐1月15日 岸田文雄首相がフランス、イタリア、英国、カナダ、米国歴訪へ出発

9日‐1月20日 犯罪目的のための情報通信技術の利用に対抗するための包括的な国際条約を策定するための特別委員会、第4回会議(ウイーン)

10日 日伊首脳会談(ローマ)

10日 ブラジル2022年12月IPCA発表

10日 カンボジア2022年12月輸出入および貿易収支発表

10日 「全国旅行支援」内容見直して再開

10日 国連開発計画(UNDP/UNFPA/UNOPS)理事会、事務局選挙(ニューヨーク)

10日 国連女性機関(UN-Women)、事務局、事務局選挙(ニューヨーク)

10日 ユニセフ、事務局、事務局選挙(ニューヨーク)

11日 ブラジル2022年11月月間小売り調査発表

11日 メキシコ2022年11月鉱工業生産指数発表

11日 日英首脳会談(ロンドン)

11日 EU理事会、コレパー II

11日 日米安全保障協議委員会(2プラス2)(ワシントン)

12日 インド2022年11月鉱工業生産指数発表

12日 オーストラリア2022年11月貿易統計

12日 元徴用工問題で公開討論会(ソウル)

12日 日加首脳会談(オタワ)

12日 日米防衛相会談(ワシントン)

12日 林芳正外相が国連安全保障理事会公開討論に出席(米ニューヨーク)

12日 22年通年と12月の中国新車販売台数(中国自動車工業協会)

12月 22年通年と12月の中国CPI、卸売物価指数(PPI)(国家統計局)

12月 22年12月の米消費者物価指数(CPI)(労働省)

13日 日米首脳会談(ワシントン)

13日 22年通年と12月の中国貿易統計(税関総署)

13日 フランス12月CPI発表

14日 岸田首相が内外記者会見(ワシントン)

15日 台湾与党・民進党主席(党首)選

15日 イスラエル12月CPI発表

<1月16日‐1月22日>

16日 ユーログループ(ブリュッセル)

16日 キング牧師生誕記念日で米市場休場

16日‐18日 ワールド・フューチャー・エナジー・サミット(アラブ首長国連邦・アブダビ)

16日‐19日 欧州議会本会議(ストラスブール)

16日‐20日 世界経済フォーラム(ダボス会議)(スイス・ダボス)

16日‐20日 人権理事会 女性と女児に対する差別に関する作業部会 第36回会合(ジュネーブ)(未定)

16日‐27日 偶発的所有設備の償還に関する作業部会(ニューヨーク)

16日‐2月3日 子どもの権利委員会、第92回会議(ジュネーブ)

16日‐2月3日 ICAO、委員会フェーズ、第228回会議(モントリオール)

16日‐3月17日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)

17日 英国労働市場統計(2022年9~11月)発表

17日 ドイツ12月CPI発表

17日 北朝鮮の最高人民会議招集

18日 英国12月CPI発表

18日 ユーロスタット、12月CPI発表

18日 米国2022年12月小売売上高統計発表

18日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)

19日 愛知県知事選告示(2月5日投開票)

20日 メキシコ2022年11月小売・卸売販売指数発表

1月上旬 パキスタン2022年12月統計月報発表

1月上旬 パキスタン2022年12月物価統計発表

1月上旬 パキスタン2022年12月貿易統計発表

1月上旬 中国2023年の主要統計の発表日程公表

1月上旬 中国2022年通年貿易統計発表

1月中旬 中国2022年通年経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問