外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年12月21日(水)

外交・安保カレンダー (12月19-25日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今年ももう残り2週間となった。筆者が歳をとったせいなのか、それとも、日本中がそうなのか分からないが、とにかく今年一年はウクライナに明け、ウクライナに暮れた気がするのは筆者だけではないだろう。あと二週間、最後まで頑張っていくしかないので、今週もよろしくお願い申し上げる。


それにしても、この感覚はもう言葉に表せない。外務省勤務時代には不可能だったことが、これから実現するのだから・・・・。敵基地攻撃能力、GDP2%・・・・・、今回の安保「3文書」は間違いなく戦後の日本で最も重要な文書となるだろう。これを纏めるために努力された政官界を含む多くの方々に深甚なる敬意を表したい。
今週は現在執筆中の原稿が最終段階にあり、執筆が遅れてしまったので、先週金曜日にニッポン放送のOKコージーupで述べた3文書に関するコメントをコメンテーターの独断で再録させて頂く。これ以上でも以下でもないので、ご理解いただきたい。


・・・・
宮家)安全保障をやって来た者にとっては、夢のような文書です。ひと昔前までは、いまおっしゃった通り二本立てで、防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画だけだったのですけれど、そこには「戦略」がなかったですね。
飯田)戦略がなかった。
宮家)防衛計画の大綱を読んでいると、防衛力の整備と維持と運用の基本方針……つまり防衛力の整備だから、どういう兵器を買うか、どう維持するか、それをどう運用するか、その基本方針しか書いてないのです。でも、それは違うだろうと。国の防衛なのだから、最初に考えなくてはいけないのは、「国益は何か」であるべきですよ。
飯田)何を守るべきかと。
宮家)その上で、「脅威認識」と言いますが、脅威はどこから来るのかを考える。国益がわかって脅威がわかれば、今度は必要な手段が見えてきます。
飯田)手段が。
宮家)その手段をどうするのか。防衛議論というのはそういう方向で流れていかなくてはならないのに、2013年までは国家安全保障戦略がなかったから、戦略なしに防衛政策がつくられていた。しかも中期防を読んでいると、「5ヵ年間の経費の総額(の限度)」と書いてある。要するに、「どうやって限度をつけるか」ということですよ。
飯田)キャップをどうはめるかですね。
宮家)防衛力は増やさない、増やしてはいけないのだと。だからきちんとタガをはめるのだよ……という内容なのです。「こんなことをやっていたのか」と、いま昔の文書を読み直してみると、がっかりします。
飯田)防衛力は増やしてはいけないと。
宮家)逆に言えば、やっと日本にも「戦略」ができたということです。すなわち国益が決まり、脅威認識もできました。いままでの手段は外交と防衛だけだったけれど、当然のことですが、今後は経済安全保障やサイバーまで入ってきて、総合的にやるということです。当然の話です。それがあって、今度は国家防衛戦略を……。
飯田)いまおっしゃったのは国家安全保障戦略。
宮家)これまでは国家安全保障戦略の話です。そして、これを具体化するものとして国家防衛戦略があり、今度は防衛の目標を設定する。以前は防衛の目標も明確には設定していなかったのですから。
飯田)防衛計画の大綱のなかには目標がなかった。
宮家)少なくとも目に付くところには書いてありません。
飯田)パラグラフにとっていなかった。
宮家)3つ目の防衛力整備計画は、「中期」がとれてしまっているけれど、実際にはこれが昔の「大綱」に相当します。何を保有すべきなのか、10年間でどうするのか、5ヵ年計画でどうするか、等々が書いてある。今までは最後の「防衛力整備計画」しかなかった、というか、つくっていなかったということです。
飯田)よくメディアでは、「防衛計画の大綱は名前を変えて国家防衛戦略にします」とか、「中期防の名前を変えて防衛力整備計画にします」などと言われていたのですけれど、まったく概念が違いますね。
宮家)日本もやっと普通の国になったのです。普通の国の、普通の国家安全保障戦略ができて、その安全保障戦略に基づいて国家防衛戦略、国防戦略ができて、整備計画ができる。その上で来年(2023年)どうするのかが決まっていくのです。
飯田)普通の国になった。
宮家)いままでこうはやれなかったのです。2013年に国家安全保障戦略はできましたけれど、当時はとにかく国家安全保障会議(NSC)をつくったあとですから。2013年の段階では、「どうやって日本のNSCを運用するか」ということで精一杯だったのでしょう。
飯田)NSCをどう運用するかで。
宮家)つくったはいいけれど、防衛戦略もなかった。その意味では、日本もようやくしっかりとした戦略ができて、それを具体化する手段が出てきているという意味では、画期的なことですよ。
飯田)体系立ったものが見えてくること自体が、そもそもなかった。
宮家)頭のつくり方が普通の国になった。当然のことながら、これで各国といろいろな協議ができます。「形式的に名前を変えただけ」と言われる方がいらっしゃるかも知れませんが、ちょっと違うような気がします。
これまでは「どこまで歯止めが効くのか」というような議論ばかりだった
飯田)かつては基盤的防衛力という話がありました。
宮家)いろいろな呼び方がありました。ただ、当時のように「空想的平和主義」が強かった時代は、いま私が申し上げたようなことをやろうにも、とてもそんな雰囲気ではなかったわけです。
飯田)安全保障に関わってきた人たちには危機感があり、何とかしなくてはいけないと思っていた。
宮家)「どこまで歯止めが効くのか」というような議論ばかりだったから、結局は中期防のようなものでお茶を濁してしまったのだと思います。その意味では今回の作業は画期的であり、本当によくやったと思います。
飯田)安保3文書は戦後、最も重要な、そして画期的な文書であると。
宮家)我々がつくりたくてもつくれなかったものが、ようやく連立与党のなかでも、また野党との議論もあると思いますけれど、理解が進んだという意味ではよかったと思います。
飯田)これまでできなかったものが。
宮家)先ほど申し上げた通り、最も重要なことは「国益は何か」ということです。国益について3文書は、独立の維持や領域の問題など、普通のことが書いてあります。次の問題はやはり脅威認識ですね。脅威認識については既に報道されていますけれど、中国については「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と書かれていますし、実際に私もそう思います。
飯田)中国に関しては。
宮家)北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」としています。また、ロシアについては、「中国との連携も相まって安全保障上の強い懸念」と、それなりに書き分けているのです。それ以外で重要なことは、いわゆる反撃能力を持つということです。報道ではここにばかり関心が集まりましたけれど、それは全体のごく一部だろうと思います。
飯田)反撃能力はごく一部。
宮家)あとは「GDP比2%論」ですね。これも3文書の中に書き込んであるのですが、とにかく全体が膨大な文章なので、これら以外の各論が長いし、おそらく防衛省中心でつくったであろう防衛戦略の方はもっと細かい。整備計画に至っては更に細かく書いてあります。
飯田)日本の国家としての意思を明確に示すということですね。

今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

19日‐1225日>

19日 社会保障審議会介護保険部会(東京都港区)

20日 ウクライナ1~10月貿易統計発表

20日 WTO紛争解決機関会合

20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表

20日 EU理事会、環境会議

21日 EU理事会、コレパーI

21日 米議会襲撃を巡り下院特別委が報告書発表

22日 米国第3四半期GDP発表(確定値)

23日 メキシコ11月貿易統計発表

23日 11月の米PCE物価指数(商務省)

25日 宮崎県知事選投開票

27日 ウクライナ1~9月雇用統計

28日 衆院小選挙区を「10増10減」する改正公職選挙法施行

28日 メキシコ11月雇用統計発表

28日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表

28日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表

30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP統計(速報値)発表

30日 ウクライナ1~11月鉱工業生産指数発表

31日 12月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)

12月中 中央経済工作会議(北京)

12月中 ASEAN+3財務・中央銀行次長会議AFCDM3

12月下旬 次年度(暦年)予算発表(サウジアラビア)

1

1日 ロシア、年金基金と社会保険基金をロシア社会基金に統合する法律が発効

1日 スウェーデンがEU議長国に就任


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問