外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年12月13日(火)

外交・安保カレンダー (12月12-18日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


ワシントン出張から昨日帰国した。東京を出る直前あたりから、日本ではいわゆる安保「3文書」の概要が一斉に報じられるようになった。なるほど、これは文書作成が仕上げの段階に入った兆候だなと思い、過去数か月間の関係者の最後の努力と苦労に思いを馳せた。誠にお疲れ様である。

今回ワシントンでは政府関係者との接触を最小限に止め、いつもの定点観測を淡々と続けた。出張の第一目的はキヤノングローバル戦略研究所とスティムソンセンターが共同で開催した日本外交に関するウェビナーで喋ることだったが、タイミングが良かったので、報じられたばかりの「3文書」の解説に多くの時間を費やした。

日本メディアの論調は厳しかった。例えば、朝日新聞社説は「先の戦争への反省を踏まえ、日本自身が脅威にはならないと堅持してきた方針を空洞化させることが、賢明だとは思えない。国民への説明も決定的に不足しており、このまま拙速に結論を出すことは許されない。」と書いた。しかし、当然ワシントンではこんな批判は聞かない。

詳細は今週のJapanTimesのコラムをお読み頂きたいが、少なくともウェビナーでは「専守防衛の形骸化」を懸念する質問は一切出なかった。そもそも「専守防衛」とは何なのか。「純粋に防衛的な安全保障政策」「専守防衛的な防衛態勢」と説明されるが、神学的トートロジー(同語反復)に過ぎず、筆者には未だに理解できない。

とにかく今回の「3文書」には画期的な部分が少なくない。各種報道をまとめれば、以下の通りかなり踏み込んでいるようだ。

〇周辺国に対する認識
中国=対外的な姿勢や軍事動向等は我が国と国際社会の深刻な懸念事項でありこれまでにない最大の戦略的な挑戦 

北朝鮮=従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威 

ロシア=中国との戦略的連携強化の動きもあいまって、安全保障上の強い懸念

〇敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を明記

〇安全保障関連経費を2027年度に現在の国内総生産(GDP)の2%に達することを目指す

大変結構なことである。

最後にワシントンでのウェビナーで出た質問だけご紹介しておこう。的を射た良い質問ばかりだが、筆者の回答はJapanTimesを読んでほしい。

Q)日本の防衛力を進化させようという機運が、政治的な障害にもかかわらず高まっている。政治・官僚の惰性に比べ、世論はどのような役割を果たすのか。

Q)先日の日中首脳会談で、習近平はこれまでより融和的なアプローチをとったように見えた。日中が対立を回避するために協力できる分野は何か。

Q)近い将来、日韓関係が改善される見込みはあるのか?

Q) 日本は英国、イタリアと共同で次世代戦闘機を開発するというが、この決定の背景にはどのような配慮があるのか?

Q)台湾周辺の安全保障は緊迫している。台湾は日本に近い。台湾危機をウクライナ危機と同様に考えているのか?

Q) 日本がロシア制裁に迅速に参加しながらも、サハリンガスと石油プロジェクトを維持した。他のG7諸国はこのことを懸念しているのか?

〇アジア
共同通信は「中国のゼロコロナ政策が12日までに事実上崩壊した」と報じた。北京では「当局発表の感染者数が減少傾向、政府は実態把握を放棄」したという。習近平指導部の看板政策が「大きく傷ついた」というが、本当か?元々ゼロコロナは「医療目的」ではなかった、このことが明らかになっただけではないのか。

〇欧州・ロシア
G7首脳がウクライナ情勢をめぐりオンライン協議し首脳声明では、破壊されたインフラ施設の復旧に向けて「ロシアが最終的に支払う必要がある」と連帯を表明したそうだ。うーん、これでは戦争の早期停戦は難しそうである。「始めるのは簡単だが、終わらせるのは実に難しい」のが戦争ということか。

〇中東
日経新聞社説が「中国とサウジの接近は座視できない」と書いた。「サウジは米国との強固な関係が揺らいでいる。その隙を突いた中国の影響力拡大が、国際社会の分断を広げることになりかねないことに警戒が必要」という。正しい指摘だが、両国の接近が本当に戦略的なものかどうかはしっかり吟味すべきだろう。

〇南北アメリカ
中間選挙の最終結果が出て、早くも24年の大統領選挙が始まったようだが、今回は例年以上の星雲状態である。トランプについても、起訴は近い、逮捕収監されても出馬は可能、今も岩盤3割の支持で再選されてもおかしくない、バイデン以上にハリスの評判が悪く、正副大統領は揃って不出馬表明するしかない…、等々どこの国でも選挙は大変である。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

1月5日‐1216日 軍事参謀委員会、2022年の会議(ニューヨーク)

28日‐1216日 細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び備蓄の禁止並びにそれらの破壊に関する条約締約国再検討会議、第9回会議(ジュネーブ)

7日‐1219日 国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)(カナダ・モントリオール)

10日‐1212日 萩生田光一自民党政調会長が台湾訪問

12日‐1218日>

12日 EU外務理事会(ブリュッセル)

12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表

12日 ウクライナ第3四半期GDP(速報値)発表

12日 インド10月鉱工業生産指数発表

12日‐1215日 欧州議会本会議(ストラスブール)

12日‐1216日 UNCITRAL、作業部会V(破産法)、第61回会議(ウイーン)

13日 ウクライナ支援に関する国際会議(パリ)

13日 ウクライナ11月CPI発表

13日 米国11月CPI発表

13日 EU理事会、総務審議会(ブリュッセル)

13日‐1214日 米国FOMC

13日‐1215日 米アフリカ首脳会議(ワシントン)

13日‐1215日 IFAD、理事会、第137回会議(ローマ)

14日 ロシア第3四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表

14日 EUと東南アジア諸国連合(ASEAN)が首脳会議(ブリュッセル)

14日‐1217日 エコ・エキスポ・アジア2022(香港)

15日 米国11月小売売上高統計発表

15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

15日 11月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)

15日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)

15日‐1216日 欧州理事会(ブリュッセル)

16日 ロシア中央銀行理事会

16日 ユーロスタット、11月CPI発表

17日 チュニジア総選挙

19日‐1225日>

18日 れいわ新選組、代表選開票

18日 佐賀県知事選投開票

20日 ウクライナ1~10月貿易統計発表

20日 WTO紛争解決機関会合

20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表

22日 米国第3四半期GDP発表(確定値)

23日 メキシコ11月貿易統計発表

23日 11月の米PCE物価指数(商務省)

25日 宮崎県知事選投開票

12月中 中央経済工作会議(北京)

12月中 ASEAN+3財務・中央銀行次長会議AFCDM+3)

12月下旬 次年度(暦年)予算発表(サウジアラビア)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問