外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年12月8日(木)

外交・安保カレンダー (12月5-11日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週も掲載が遅れてしまった。今は未明のワシントンの定宿で、遅ればせながらこの原稿を書いている。先々週はモルドバの首都キシナウからセルビアの首都ベオグラードを訪れたが、今週の出張先は慣れ親しんだワシントン、しかも、今年二度目の出張なので、大きな変化はなかろうと思ってやって来た。ところが、おっとどっこい、どうやら2024年に向けて大きな動きがありそうな予兆がいくつか見え始めている。


第一は、ジョージア州選出上院議員選挙決選投票で民主党現職がトランプ系共和党候補に勝利したことだ。米国のリベラル系メディアは手放しの大喜び、まるでジョージア州でドナルド・トランプ氏が敗北したかのような報道ぶりだった。これに対し、保守系フォックスニュースは殆ど報じていない。夜の討論番組でも、選挙結果は「大したことはない」「選挙とはこんなもんだ」などと他人事のような扱いだった。裏を読めば、共和党内、特にトランプ支持者にはかなりのショックだった、ということだろう。


第二は、トランプ企業集団(法人)に対する税金詐欺ほか17件の容疑でニューヨーク州最高裁が有罪を宣告したことだ。あくまで不正の容疑は「法人」に対するもので、トランプ氏やその家族「個人」に対するものではない。しかし、こうした税金詐欺等の不正については、いずれ「個人」の刑事責任も問われる可能性があり、その場合政治的ダメージは決して小さくないだろう。


第三は、米国下院の1月6日議会襲撃調査特別委員会がこれまでの調査結果をもとに司法省に対してcriminal referral を行うと発表したことだ。ある記事では「刑事告発」と訳されていたが、この委員会に刑事「告発」する権限があるかどうかは現時点では分からない。あくまで「参照」なのかもしれないが、いずれにせよ、トランプ氏個人を「referral」の対象とするか否かが焦点となる。尤も仮に対象になっても、トランプ氏が闘いを止めることはないだろう。また、この下院特別委員会は共和党が多数を占める次期議会では廃止または活動しなくなる可能性が高いと思われる。


要するに、今回ワシントンに来て感じたことは、以前書いた通り、トランプ氏の政治家としての賞味期限が切れ始めているのではないか、ということだ。ジョージア州上院選の共和党候補は有名なアフリカ系スポーツ選手だったが、「候補者」としてはあまりにも弱かったと思う。そんな弱い候補を担ぎ出したのはトランプ自身だが、結局トランプ系候補は激戦州では勝てないのではないか、こんなことで共和党は2024年の大統領選挙に勝てるのか、という本質的な疑問が党内に噴き出ているのだ。


どこの国も政治もそうだが、勢いを持っている政治家は批判されないが、一度勢いを失うか、勢いを失い始めたと思われた途端、政敵はその政治家の足を引っ張り始めるものだ。来年はトランプ氏の政治家としての力量が試される年になるだろう。政治とは何と薄情なゲームなのだろう。


もう一つ、今回ワシントンに来て今更ながら感じたのはアメリカとサウジアラビアの関係の悪さだ。両国間というよりは、バイデンとムハンマッド皇太子の個人的確執というべきなのだろうが、両者の関係はもはや修復不能になりつつあるのかもしれない。このままでは、アメリカはともかく、バイデン政権はサウジアラビアを失うことになりかねない。今日は習近平がサウジアラビアを訪問するというニュースも流れていた。バイデン政権の皆さん、上手にやって下さいよ、と言いたいところである。


ちなみに、ワシントン行き機上にて、サッカーW杯でモロッコがスペインに勝利したというニュースに接した。これはアラブ世界にとって大ニュース、しかも、モロッコはベスト8に残った最初のアラブ国家だそうだ。ワオ、「昔はアラビア語でギリシャローマ文明を教えてやったあの後進スペイン」、でも「最近はアラブを見下す欧州スペイン」に、あろうことか、隣国のモロッコが勝ったのだ・・・。サウジ皇太子のアメリカ観にも通ずる、このアラブ人の複雑で微妙な高揚感と優越感が行間から感じられた。いやはや、ワールドカップでは凄いことが起きるものである。

〇アジア
予想通り、先週末中国では「異変」の再来は起きなかった。行きの全日空便で見たCNN(何と最近は飛行中にCNN生番組が見られる)によれば、中国当局は徐々にゼロコロナ政策を緩和しつつあるそうだ。本当かね?不必要と思われるような過度な措置が廃止されただけではないのか?希望的観測の報道は止めた方が良いのだが。

〇欧州・ロシア
ドイツ連邦検察庁が、連邦議会襲撃など国家転覆を狙った容疑でテロ武装組織の構成員ら25人を逮捕したそうだ。おお、ドイツよ、お前もか!議会襲撃といえば昨年1月6日の米議会襲撃の例もある。ドイツでは全容解明に向け全土で大規模な一斉捜査が始まったという。他国に波及しないと良いのだが・・・。

〇中東
カタルのワールドカップが日本では大盛り上がりだったが、中東屋の端くれでもある筆者からすると、W杯でもない限りカタルが脚光を浴びないのはちょっと寂しい。それにしても、よくドーハでワールドカップが開催できたものだと感心する。不愉快なことは多かったに違いないが、日本からのサポーター各位は無事帰国してほしい。

〇インド亜大陸
 特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

1月5日‐1216日 軍事参謀委員会、2022年の会議(ニューヨーク)

28日‐12月6日 危険物輸送専門家分科会 第61回(ジュネーブ)

28日‐1216日 細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び備蓄の禁止並びにそれらの破壊に関する条約締約国再検討会議、第9回会議(ジュネーブ)

12

5日‐1211日>

5日 先進7カ国(G7)とEU、豪州がロシア産原油に上限価格を導入

5日 EUがロシア産原油の海上輸入禁止

5日‐128日 アフリカ系の人々に関する常設フォーラム、第一回会議(ジュネーブ)

5日‐129日 先住民族のための国連自主基金、理事会、第36セッション(ジュネーブ)

5日‐1210日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議、第21回会議(デン・ハーグ)

6日 メキシコ11月自動車生産・販売・輸出統計発表

6日 中国の江沢民元国家主席追悼大会(北京)

6日 米ジョージア州で上院選決選投票

6日 米国10月貿易統計発表

6日‐127日 ブラジル中央銀行、Copom

7日‐1219日 国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)(カナダ・モントリオール)

7日 中国11月貿易統計発表

8日 メキシコ11月CPI発表

8日 ブラジル10月月間小売り調査発表

8日 WTOサービス貿易理事会

8日 国連環境計画 (UNEP)常任代表委員会第160回(ナイロビ)

8日 れいわ新選組が代表選告示(開票は18日)

8日 宮崎県知事選告示25日投開票) 

9日 日豪外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)

9日 日豪防衛相会談(以上都内)

9日 麻薬委員会、第65回会議を再招集(ウイーン)

9日 犯罪防止刑事司法委員会、第31回会議を再招集(ウイーン)

9日 ブラジル11月IPCA発表

9日 中国11月CPI発表

9日 11月の中国消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)

9日 ロシア11月CPI発表

9日 安全保障理事会決議692(1991年) に基づいて設立された国連補償委員会の統治理事会、第89回会議(ジュネーブ)

9日 危険物の輸送及び化学物質の分類及び表示に関する世界調和システムに関する専門家委員会、第11回会議(ジュネーブ)

10日 米国選挙決選投票(ルイジアナ州)

10日 臨時国会会期末

10日‐1212日 萩生田光一自民党政調会長が台湾訪問

10日 ノーベル平和賞授賞式(オスロ)

10日 平和賞以外のノーベル賞授賞式(ストックホルム)

10日‐1211日 「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議(広島市)

12日‐1218日>

12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表

12日 ウクライナ第3四半期GDP(速報値)発表

12日 インド10月鉱工業生産指数発表

12日‐1216日 UNCITRAL、作業部会V(破産法)、第61回会議(ウイーン)

13日 ウクライナ支援に関する国際会議(パリ)

13日‐1215日 米アフリカ首脳会議(ワシントン)

13日 ウクライナ11月CPI発表

13日‐1214日 米国FOMC

13日 米国11月CPI発表

13日‐1215日 IFAD、理事会、第137回会議(ローマ)

14日 ロシア第3四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表

14日 EUと東南アジア諸国連合(ASEAN)が首脳会議(ブリュッセル)

14日‐1217日 エコ・エキスポ・アジア2022(香港)

15日 米国11月小売売上高統計発表

15日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

15日 11月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)

15日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)

15日‐1216日 欧州理事会(ブリュッセル)

16日 ロシア中央銀行理事会

16日 ユーロスタット、11月CPI発表

17日 チュニジア総選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問