外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年11月24日(木)

デュポン・サークル便り(11月24日)

[ デュポン・サークル便り ]


明日1125日は、アメリカでは感謝祭に当たります。感謝祭は、いわゆる「アメリカのお正月」。リモートワークやハイブリッドの勤務形態がこの12年ですっかり浸透したこともあり、感謝祭当日を家族や親せきと一緒に過ごすための国内大移動が早くも先週末から始まりました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

119日付の「デュポンサークル便り」でもお伝えしたとおり、2週間前に行われた中間選挙は、投票日直前の予想を裏切って、民主党が大善戦しました。下院では、1115日にようやく、共和党が過半数の議席を獲得することが確定しましたが、民主党との議席数の差はかなりの僅差になる模様。上院ではすでに民主党が多数党の座を堅持することが確定しています。

投票日の前の週の世論調査では、一時期、失速しつつあると思われた共和党が再び勢いを取り戻しつつあり、民主党にとっては不利な結果になると報じられた中間選挙、何故、民主党が大善戦するに至ったのでしょうか?

1の要因として挙げられている「『meh』 有権者(=『なんかイマイチ』有権者)の動向」についてはすでに119日付「デュポンサークル便り」でお伝えしたとおりですが、これに加えて、第2の要因として、これまでの世論調査に入ってこなかった有権者層の投票行動が挙げられています。日本も似たような状況が発生していると思いますが、米国では選挙前の世論調査や、投票日の出口調査の結果があてにならないケースが、過去10年間で急速に増えてきていますが、今回の中間選挙も例外ではなかったようです。特に、今回は、メディアの世論調査には答えないような層(主に若年層や、無党派層)が、妊娠中絶問題や銃規制、全ての有権者が一票を投じる権利などの社会問題が、選挙戦が進むにつれ、論点として有権者の関心を集めはじめたことを契機に投票所に足を運んだケースが多いことが指摘されました。そもそも世論調査の母集団に含まれない彼らのような有権者の投票行動を分析するツールがまだ確立されていないため、このような有権者層の投票行動を予測することができず、結果として、民主党の大善戦、という「サプライズ」に繋がった、というわけです。

2024年大統領選挙に向けた両党のジレンマ

理由はともあれ、上下両院ともに、両党の議会勢力が拮抗した状態で、バイデン政権は後半に突入することとなりました。このことは、当然ですが、2024年大統領選挙をめぐる両党の動向にも大きな影響を与えることになります。

民主党側は、事前予想に反して両院で善戦したこともあり、バイデン大統領が正式に再選を目指して出馬を決断した場合、党内から対抗馬が出る確率は低くなりました。ただ、バイデン大統領と同世代のナンシー・ペロシ下院議長(82歳)が、下院で民主党が多数党の座を共和党に明け渡す結果となったこともあり、いわば「敗軍の将」となった責任をとって第一線から身を引き、後進に道を譲ることを決めたことが、ペロシ氏がバイデン大統領に、暗に、若い世代に道を譲るように促しているのでは?という観測も流れています。とはいえ、バラク・オバマ大統領以降、次世代の民主党をけん引できるようなカリスマ性を持った力強い政治家が出てきていないこと、カマラ・ハリス副大統領がバイデン政権発足後、これまで全くといっていいほど存在感を示すことができていないことなどを考えると、バイデン大統領が再選に向けた出馬をしないことを決めた場合、民主党側の大統領選予備選が混戦となることは確実です。

対する共和党側も、悩みは深刻です。今回の中間選挙で、トランプ前大統領の賞味期限が切れつつあることは明らかになりました。むしろ、トランプ前大統領本人があまりに不人気なため、ペンシルベニア州上院議員選をはじめ、激戦州での議会選挙の結果を見ると、トランプ前大統領の支持を受けた候補は、予備選では勝てても本選で勝てないことが明らかになりました。むしろ、フロリダ州で圧勝したロン・デサントス知事や、2020年の知事選で大方の予想を覆して勝利したグレン・ヨンキン・バージニア州知事、加えてラリー・ホーガン・メリーランド州知事など、2024年大統領選出馬に意欲を示す次世代の政治家が共和党内では出てきており、党内でも「トランプの党」というイメージから脱却しないと2024年大統領選挙では勝てない、という認識が広がりつつあります。

ですが、そのような傾向を完全スルーして、1115日、トランプ前大統領は、2024年大統領選挙出馬表明を強行しました。大統領選出馬を表明することで、現在も依然として進行中の、202116日の連邦議事堂襲撃事件への自身の関与をめぐる捜査を始めとする法的トラブルから自分自身を守ろうとしているのではないか、という見方もあります。ですが、理由はどうあれ、「脱トランプ」を図りたい共和党関係者にとっては、トランプ前大統領の大統領選出馬表明は、迷惑以外の何物でもなく、保守系メディアの代表格のフォックス・ニュースですら批判的です。共和党にとっての最悪のシナリオは、共和党予備選で勝てないと見込んだトランプ前大統領が、1996年大統領選挙に独立系候補として出馬した大富豪のロス・ペロー氏の例に倣って、単独候補として立候補することを表明し、共和党支持層の票を割ることで、結果、2024年大統領選挙で民主党候補が「漁夫の利」を得てしまうことです。2024年大統領選を見据えた動きが今後、活発化していく中、両党の悩みは当分、続くことになりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員