外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2022年11月24日(木)

外交・安保カレンダー (11月21-27日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週の原稿は3日遅れの24日未明にChisinauで書いている。Chisinauを何と読むか、皆さんはご存知だろうか。Chisinauキシナウとはモルドバ共和国という、ウクライナとル―マニアに挟まれた人口260万の小国の首都だ。なぜ今モルドバなのかって?筆者が外務省を辞めて以来、どうしても訪れたい国の一つだったからだ。

モルドバ東部には、誰も承認はしていないが事実上の「独立国」が存在する。その「独立国」には名称が二つある。一つは「沿ドニエストル共和国」、もう一つが「トランスニストリア」、前者はロシア語のPridnestrovie、「ドニエストル川」に「沿った」地域を、後者はドニエストル川のルーマニア語「ニストリア」を「越えた」地域を意味するそうだ。

前者は明らかにロシア側から見た呼び名であり、後者はルーマニアからの発想である。ロシアはこの「独立国」を事実上支援し、同地に巨大なロシア軍プレゼンスを維持している。今回は、この地を含め、ウクライナ戦争勃発後のモルドバがどうなっているかを、どうしてもこの目で確かめたくなって、駆け足でやって来たという訳だ。

モルドバは近いようで遠い。トルコ航空でイスタンブールへ飛んだが、朝のキシナウ便は欠航となった。次の便までラウンジで待っていたら、全身黒ずくめながらヒジャーブから黒髪を大胆に見せる女子高生の集団に出会った。聞けばイラン人だという。「私たちは自由のため戦っているのよ」と宣った。なるほど、ここは中東なのだ。

到着後は大使館の支援でモルドバ政府高官に会えたが、会見場所は何と大停電、交通信号まで長時間止まり、キシナウ市内は大混乱となった。聞けば本日のウクライナ電力網に対するロシアのミサイル攻撃でウクライナ側電力が不安定となり、そこに繋がっているモルドバで大停電が起きたのだという。戦争の影響はここまで来たか。

モルドバ経済・社会は過去数年間、コロナ禍に始まり、ウクライナ戦争と難民流入で更なる大打撃を受けている。ロシアは対モルドバ・ガス供給を半減させ、価格も大幅に引き上げた。燃料費やガソリン価格は急騰し、電力不足で電力網をウクライナ、続いてルーマニアに繋いだが、それでもモルドバは慢性的な電力不足だという。

会談が終わってから、停電が続く闇の中を「トランスニストリア」との「国境」なるものを見に行った。大渋滞の中でキシナウから一時間半車で走り「検問所」に着いたが、そこから「独立国」は遠くて見えなかった。それでも、この緊張感は確かに「国境」だ。この先に巨大なロシア軍プレゼンスがあるかと思うと、気分は穏やかではない。

戦争当事国ウクライナの隣国というとポーランドやルーマニアのことばかり報じられるが、この戦争はモルドバをも確実に苦しめていることが今回良く分かった。モルドバ高官の「ウクライナはモルドバを守ってくれている」という言葉が忘れられない。幸い日本はモルドバにもきめ細かい援助をしているようで、先方からは大変感謝された。

このまま書いていると夜が明けそうなので、今回はこのくらいにしておこう。明日は早朝からイスタンブールに戻り、乗り換えてベオグラードに向かう。昔はユーゴスラビアの、そして今はセルビアの首都である。セルビアについては来週書こうと思う。今回の出張の詳細は来週のJapanTimesと産経新聞のコラムをご一読願いたい。

<今週以前から続く会議>

15日‐1216日 軍事参謀委員会、2022年の会議(ニューヨーク)

103日‐1123日 総会、第2委員会、第77回会議(ニューヨーク)

105日‐1122日 大陸棚の限界に関する委員会、第56回会議(ニューヨーク)

1017日‐122日 ICAO、航空航法委員会、第221回会議(モントリオール)

1031日‐1125日 拷問禁止条約、第75号会議(ジュネーブ)

11

21日‐1127日>

21日 ウクライナ19月貿易統計発表

21日‐1122日 UNRWA、諮問委員会(アンマン)

211123日 UNIDO産業開発委員会、第50回会議(ウイーン)

211123日 第9ASEAN国防高官会議プラス (ADMM)(カンボジア)

21日‐1123日 国連ハビタット、理事会、第2回定例会(ナイロビ)

21日‐1125日 UNCTAD、貿易開発委員会、第13回会議(ジュネーブ)

21日‐1125日 対人地雷の使用、備蓄、生産及び移転の禁止並びに廃棄に関する条約締約国会議 第20回会議(ジュネーブ)

21日‐122日 ICAO、理事会段階、第227回会議(モントリオール)

22日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表

22日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)

22日‐1124日 第37回税関調整委員会(CCC

22日‐1125日 麻薬委員会、中近東における違法薬物取引および関連事項に関する小委員会、第55会議(アシガバード)

23日 ロシア110月鉱工業生産指数発表

23日 米FOMC議事要旨(FRB

23日‐1125日 UNWTO、執行理事会、第117回会議(マラケシュ)

24日 感謝祭で米市場休場

25日 メキシコ第3四半期GDP発表

27日 和歌山県知事選投開票

28日‐1130日>

28日 WTO紛争解決機関会合

28日 メキシコ10月貿易統計発表

28日‐122日 IMO、理事会、第128回会議(ロンドン)

28日‐122日 人権理事会、アフリカ系住民に関する専門家作業部会、第31回会議(ジュネーブ)

28日‐122日 UNCITRAL、作業部VI(交渉可能なマルチモーダル輸送文書)、第41回会議(ウイーン)

28日‐126日 危険物輸送専門家分科会 第61回(ジュネーブ)

28日‐1216日 細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び備蓄の禁止並びにそれらの破壊に関する条約締約国再検討会議、第9回会議(ジュネーブ)

29日 メキシコ10月雇用統計発表

29日 監査役会(UNBA) 第52回臨時会(サンティアゴ・デ・チレ)

29日 パレスチナ人民の既得権の行使に関する委員会、パレスチナ人民連帯国際デーを記念した特別会合(ニューヨーク)

30日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表

30日 ウクライナ110月鉱工業生産指数発表

30日 米国第3四半期GDP発表(改定値)

30日 インド2022年度第2四半期GDP発表

30日 79月期の米GDP改定値(商務省)

30日‐124日 FAO、理事会、第168回会議(ローマ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問