外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年10月25日(火)

デュポン・サークル便り(10月25日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは秋の紅葉が深まり始め、特に、晴れの日は、湿気もなくすがすがしい季節となりました。先週あたりは、ほとんど初冬を思わせる肌寒さの日が続いていましたが、今週に入り、少し寒さが緩み始めました。今月末はハロウィン。子供たちにとっては、夜遅くまで仮装して、「Trick or Treat!」と言いながら近所を練り歩いてお菓子を集める、楽しい行事が待っています。日本の皆様は、いかがお過ごしでしょうか。

子供たちがハロウィンに向けて盛り上がる中、アメリカは一気に政治の季節に突入です。なんといっても、11月8日が投票日の中間選挙まで残すところわずか2週間。どの選挙区でも候補者が「最後のお願い」に向けてラストスパート。通勤途上のラジオをつけても、コマーシャルの殆どが選挙関連のものばかりです。

そんな中、ここ数日、トランプ前大統領が再び、メディアで脚光を集めています。遡れば8月にFBIがトランプ前大統領の私邸「マール・ア・ラーゴ」で電撃家宅捜索を行って以来、トランプ前大統領が大統領在任中の行動や意思決定の是非に再び関心が集まっています。さらに今週は、昨年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を調査する「1月6日委員会」がトランプ前大統領に対して召喚状を出したことを発表。召喚状そのものは、委員会が求めた証拠書類の提出を「11月4日ごろ」までに行うこと、さらに対面での公聴会に「11月14日ごろ」までに出席することが求められ、少し日程が前後する可能性に含みを持たせたものとなっています。召喚状を完全スルーしたスティーブ・バノン氏に対して、先日「議会侮辱罪」で禁固4か月の判決が出たことを思えば、期限に含みを持たせることで、かろうじて「前大統領」に対する配慮を見せた形となっています。

ですが、もし、トランプ前大統領が対面公聴会出席を決めた場合、実際にこの調査委員会の副委員長で、トランプ前大統領が支持した候補者に予備選で敗れ、今会期で下院議員としての任期を終えることが既に決まっているリズ・チェイニー下院議員(ワイオミング州選出)がトランプ前大統領と議会公聴会の場で直接対決することになります。トランプ前政権時代から前大統領批判の急先鋒に立ってきたチェイニー下院議員ですから、トランプ前大統領と緊張したやり取りが行われるのは必至。政治的「ハブとマングースの戦い」以上のバトルになることは確実で、トランプ前大統領側が召喚状にどのように対応するかが注目されます。

とはいえ、インフレ・物価高が有権者の最大の関心となっている今、トランプ前大統領のいわば「過去の悪行」に関するニュースは、「今更感」満載。加えて、民主党側の選挙の顔であるバイデン大統領の支持率も、不支持が支持を10ポイント近く上回る状況に変化は見られません。民主党にとっては「勝てるかどうか」ではなく、「どの程度負けを抑えられるか」がボトムラインの厳しい中間選挙になることは間違いありません。

なのに、そんな雰囲気を知ってか知らずか、バイデン大統領が、今週、MSNBCニュースとの単独インタビューで2024年大統領選に出馬する意向を明らかにしました。今年で御年79歳のバイデン大統領。もし2期目当選を果たせば、2期目開始時にすでに82才、任期をつつがなく終えると86才で大統領職から離れることになります。さらに、これは、バイデン大統領が、カマラ・ハリス副大統領では2024年大統領が戦えなさそうだと見ていることの表れでもあります。1期目を終えるバイデン大統領に、「禅譲」してもらう形で大統領選出馬をもくろんでいたはずのハリス副大統領にとっては面白くないでしょう。

とはいえ、中間選挙で大負けすれば、バイデン大統領が大統領選挙に出馬する可能性が激減することは確実です。そうなると、民主党の大統領選予備選は一気に混迷します。中間選挙の結果が2024年大統領選にどのような影響を与えるか、注目していきたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員