外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年10月25日(火)

外交・安保カレンダー (10月24-30日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週は国際ニュースが目白押しだ。まずは中国共産党大会と言いたいところだが、結果はほぼ予想通りだったので、最初は英首相の交代を取り上げたい。次期首相はインド系エリート政治家のスナク元財務相に決まった。両親はインド系移民で「多様性」を尊重する一方、労働者階級と一線を画すエリート臭さが批判されている。

報道によれば、「ゴールドマン・サックスを経て、7年前に保守党下院議員当選。5年後に内閣ナンバー2の財務相となり、コロナ禍休業者への給与補塡など大胆な経済政策で世論の支持を得たが、私生活ではインド系富豪の娘と結婚し最も裕福な下院議員の一人」とされるなど、新しい形の「英国の夢」的な政治家のようだ。

米国ほどではないが、英国の「多様性」も一貫して進んでいる。あれだけの大帝国だったのだから当然かもしれない。それでも、短期に終わったが三人目の「女性」首相に続いて「インド系英国人」の首相を選ぶのだから、イギリスの保守主義も大したものだ、という評価は可能だろうと思う。

他方、同時に筆者が懸念するのは「英保守主義の劣化」だ。24日付けNew York Times一面は「Brexit(英国のEU離脱)が如何に保守党を分断し、英保守政治に必要なcoherence(一貫性)が失われたか」を報じていた。スナク次期首相の強みはディベート力らしいが、それだけでは英保守政治の危機を回避できないのではないか。

一方、同じNew York Timesの紙面には中国共産党大会の結果が大きく報じられた。一部専門家の希望的観測的予想に反し、李克強から汪洋、胡春華まで「団派(共産主義青年団系政治家)」が最高指導部からほぼ一掃された。考えてみれば、「集団指導制」が終わった以上、こうした結果は当然の帰結なのかもしれない。

今回のハイライトは、党大会閉幕式の終了前に胡錦濤前総書記が途中退席した(させられた?)ことだろう。「体調不良」などと報じられたが、当時の模様、特に胡錦涛氏の憮然とした表情をビデオで見る限り、それを信じる者はいないだろう。この「事件」については早速様々な推測が流れている。例えば、

①熱がありそうだったので、コロナ恐怖症の習近平が連れ出させた

②党大会中に胡錦涛が習近平への権力集中を批判したため

に加えて、マコトシヤカな説として

③習三選と李克強・汪洋の留任で妥協が成立していたが、名簿最終草案には李克強・汪洋の名がなく、ひな壇で初めて知らされた胡錦涛が再考を求めようとしたため、というものまである。

敢えて、勝手にコメントさせてもらえれば、①は中国発の噴飯物でにわかには信じ難い、②は可能性を否定しないが、それなら最初から胡錦涛を出席させなければ良いだけの話、③はいかにも尤もらしいが、直前の名簿修正を誰にも知らせず、式典を進行できただろうか。胡錦涛が最終人事を事前に知らなかったとは思えない。

筆者の無責任な直観としては、胡錦涛も最後は諦めて閉会式に臨んだが、新執行部の誰かが「胡錦涛を敢えて閉会式直前に退場させて面子を潰し、習近平の権力の強さを示そうとした」のではないかと勘繰ってしまう。まあ、いかなる理由にせよ、中国共産党が短期間の集団指導制を経て、本来の「独裁政治」に戻っただけの話だろう。

胡錦涛「途中退場」関連の投稿は中国ではオンラインから完全に削除されたらしい。微博でも胡前主席の名を含む投稿やコメントは検索できないという。最後に一言。ウクライナ戦争の最大の教訓は「独裁者は往々にして判断ミスをする」「絶対的独裁者の判断ミスは容易には矯正できない」ことだった。ところで中国は大丈夫か?

〇アジア
中国党大会終了後、北朝鮮船舶が国連軍設定の海上境界線を越えたため警告射撃を行ったと韓国軍が発表した。北朝鮮は海上に10発の砲撃を行ったが、韓国領海には届いていないという。同海域ではこの種の事件が絶えないが、これは決して北朝鮮の「挑発」ではなく、いつもの「かまってちゃん」的威嚇行動なのだと思う。

〇欧州・ロシア
露国防相が英仏、トルコの国防トップと電話会談し、「ウクライナが汚い爆弾を使うことを懸念している」と伝えたそうだ。これをきっかけに、逆にロシアがdirty bombを使う可能性が懸念されている。それにしても、最近のロシアは「実戦」で勝てないせいか、西側に「舌戦」ばかり挑んでいるようだ。でも、これでは戦争には勝てないのに。

〇中東
日本では中東関連ニュースが少ない。先週、中国がカタルに貸し出したパンダがドーハに到着した。サッカーワールドカップに合わせ一般公開されるという。カタルの最高気温は50度だから、パンダも大変という報道もあるが、カタルの湿度は故郷四川省とほぼ同じなので、冷房さえあれば大丈夫ではないか。どうでも良いけど・・・。

〇南北アメリカ
ニューヨークを中心に、現在主流の「BA.5」から派生した「BQ.1」という新変異ウイルスが急速に拡大しつつあるそうだ。毒性が低いことを祈るしかないが、それにしても、海外出張から日本に帰ると、ほぼ全員がマスクをしていることに違和感を禁じ得ない。いつまで日本ではマスクが事実上「義務」であり続けるのだろうか。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

103日‐1123日 総会、第2委員会、第77回会議(ニューヨーク)

105日‐1122日 大陸棚の限界に関する委員会、第56回会議(ニューヨーク)

10日‐1028日 女性差別撤廃委員会、第83回(ジュネーブ)

11日‐114日 人権委員会、第136回会議(ジュネーブ)

17日‐1028日 ICAO、委員会、第227回会議(モントリオール)

17日‐122日 ICAO、航空航法委員会、第221回会議(モントリオール)

10

24日‐1031日>

24日 衆参両院予算委で集中審議

24日 エチオピア和平交渉(ヨハネスブルク)

24日 英与党党首選出馬締め切り

24日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)

24日‐1028日 人権に関する多国籍企業およびその他の企業に関する法律行為を詳述するためのオープンエンドの政府間作業部会、第8回会議(ジュネーブ)

24日‐1028日 人権理事会、状況に関する作業部会、第30回会議(ジュネーブ)

24日‐1028日 UNEP、常任代表委員会年次小委員会、第9回会議(ナイロビ)

24日‐1028日 UPU、行政評議会、第2回定例会(ベルン)

25日 ウクライナ復興支援に向けた専門家の国際会議(ベルリン)

25日 米大統領がハリケーン被災地フロリダ訪問

25日 社会保障審議会年金部会(東京都港区)

25日 立憲民主党の野田佳彦元首相が衆院本会議で安倍晋三元首相の追悼演説

25日‐1026日 ブラジル中央銀行、Copom

25日‐1028日 麻薬委員会、国家麻薬法執行機関長会議、アジア太平洋、第44回会議(バンコク)

26日 日米韓外務次官協議(都内)

26日 WTO紛争解決機関会合

26日 ロシア19月鉱工業生産指数発表

26日‐1027日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会(北京本部)

27日 アップル決算(米東部時間夕方)

27日 米国第3四半期GDP発表(速報値)

27日 メキシコ9月貿易統計・雇用統計発表

27日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表

27日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)

28日 ロシア中央銀行理事会

28日 フォルクスワーゲン(VW)の79月期決算

28日 9月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)

29日 G20財務相・保健相会合(バリ)

30日 熊本市長選告示(1113日投開票)

30日 福島県知事選投開票

30日 ブラジル大統領選挙決選投票

31日 ウクライナ19月鉱工業生産指数発表

31日 10月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)

31日 79月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)

31日‐114日 UNCITRAL、作業部会IV (電子商取引)、第64回会議(ウイーン)

31日‐114日 女性差別撤廃委員会、会議前作業部会、第85回(ジュネーブ)

31日‐1110日 ILO、理事会及びその委員会、第346回会議(ジュネーブ)

31日‐1125日 拷問禁止委員会、第75回会議(ジュネーブ)

31日‐122日 人権理事会、開発権に関する専門家メカニズム、第6回会合(ジュネーブ)

10月中 OECD2022年第2四半期海外直接投資(FDI)統計発表

10月中 WTO2022年第2四半期サービス貿易統計発表

11

1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表

1日‐112日 米国FOMC

1日‐115日 UNCITRAL、作業部会IV (電子商取引)、第64会議(ウイーン)

1日‐1111日 ILO、理事会及びその委員会、第346回会議(ジュネーブ)

1日‐1118日 国際麻薬取締委員会、第135回会議(ウイーン)

2日‐115日 UNCTAD、会計と報告の国際基準に関する専門家の政府間作業部会、第39回会議(ジュネーブ)

3日 ユーロスタット、9月失業率発表

3日 米国9月貿易統計発表

3日‐114日 G7外相会合(未定)

3日‐114日 人権理事会、経済的、社会的及び文化的権利に関する会期間フォーラム(ソーシャル・フォーラム)、第14回会議(ジュネーブ)

4日 米国10月雇用統計発表

5日‐1110日 第5回中国国際輸入博覧会(上海)

6日‐1118日 国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)(エジプト・シャルムエルシェイク) 

7日 メキシコ10月自動車生産・販売・輸出統計発表

7日 中国10月貿易統計発表

7日‐1111日 国連腐敗防止条約締約国会議、実施検討部会、第2回第13回会議再開(ウイーン)

8日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表

8日 米国中間選挙

8日‐1119日 UNFCC、条約締約国会議及び補助機関の会合、第27回会議(シャルム・エル・シェイク)

9日 中国10CPI発表

9日 メキシコ10CPI発表

9日 ブラジル9月月間小売り調査発表

9日 ロシア10CPI発表

10日 ブラジル10IPCA発表

10日 米国10CPI発表

10日‐1113日 第26ASEAN政治安全保障共同体(APSC)評議会会議、第31ASEAN調整評議会(ACC)会議


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問