キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年10月18日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週は中国共産党大会が開かれている。といっても、習近平国家主席の「三選」は既定路線であり、殆どサプライズはない。直前に習近平批判スローガンを認めた横断幕が北京市内高架橋に掲げられたそうだが、あっという間に撤去されて続報もなかった。残念ながら、これも「線香花火」的批判活動でしかなかったということか。
確かに批判の内容は勇ましい。報道によれば、「PCR検査は要らない、ご飯が欲しい」「ロックダウンは要らない、自由が欲しい」「嘘は要らない尊厳が欲しい」「文革は要らない改革が欲しい」「習近平指導部は要らない選挙が欲しい」「奴隷になりたくない国民になりたい」「独裁者習近平を辞めさせろ」などと書いてあったそうだ。
だが、この程度で習近平氏の政治的権威が揺らいだとか、傷付いたなどと考えるのは早とちりだろう。確かに習近平氏の三選については、同氏による長期独裁体制の「始まり」と見る多数説か、習近平体制の「終わりの始まり」と見る少数説かで、専門家の見方は割れている。でも、これって、そんな単純な話なのだろうか。
やはり、筆者も他の多くの専門家と同様、党内主要人事の結果を見るまでは判断を控える。それよりも印象深かったのは先週のオーストラリア出張だった。従来筆者は豪州の対中「強硬」政策についてあまり「確信」を持てなかった。1972年以来、同国の対中政策は経済的利益と戦略的利益の間で大きく揺れ動いてきたからだ。
ところが、今回初めてキャンベラを訪問し、政府関係者を含む識者たちと意見交換する機会を得て、豪州の対中政策が変わりつつあること、日本と豪州の関係が深化していることを改めて実感することができた。同時に、今回の訪問は、筆者にとって日本と豪州の関係が持つ戦略的意味を熟考する得難い機会ともなった。
日本と豪州に多くの歴史的、文化的、経済的、言語的相違点があることは疑いない。日本は資源のない小さな島国で加工貿易により生きていく運命にあるのに対し、巨大な大陸を擁する豪州は豊富な天然資源にも恵まれている。両国が経済的に相互依存関係にあるとしても、自動的に両国の戦略的利益が同一化する訳ではない。
1972年、労働党政権が対中国交回復を断行して以降、豪州では超党派親中外交路線が確立した。1996年の保守連合政権以降も豪州外交は対米同盟関係と対中資源輸出の狭間で是々非々の立場を維持してきた。だが、最近は豪州内で反中感情が高まり、従来の対中「配慮」政策は変わりつつある。この点も日本に良く似ている。
今回ある程度確信を持てたのは、2017年頃からの豪州の対中政策変更がどうやら「不可逆的」なものらしい、と感じたからだ。従来のように脅威が欧州ないし中東にあり、豪州の安全保障が安泰だった時代は終わった。欧州諸国や米国に必ずしも頼れないと悟った時、豪州は日本を潜在的「同盟国」と認識するようになったのだろう。
この点については先週末のJapanTimesと今週の産経新聞にコラムを寄稿したのでご一読願いたい。
〇アジア
党大会で習近平氏が台湾統一をめぐり「武力行使の放棄を約束しない」と演説したのに対し、台湾総統府は「台湾は主権について譲歩せず、民主主義・自由について妥協しない」と述べたそうだ。だが、これだけでは、本来模索されるべき、「言葉の喧嘩」を「物理的力による喧嘩」にしない新たな「政治的枠組み」は生まれない。
〇欧州・ロシア
ウクライナ国境に近いロシア軍の演習場で乱射事件が起き、30人が死亡したそうだ。国防省が「旧ソ連構成国出身の2人」と発表した容疑者はタジキスタン人3人で、信仰をめぐる上官とのトラブルが原因だという。おいおい、なぜタジク人がウクライナ近辺で軍事演習に参加するのか。こんな軍隊がまともに戦えるとは到底思えない。
〇中東
15日夜、テヘランのエビン刑務所で火災が発生、4人死亡、61人が負傷したという。刑務所の作業場で囚人同士の喧嘩が起きた後に火が付けられたと公式発表されたが、本当かね。誰かの計画であれば凄いと思うし、自然発生的事件であれば刑務所の管理に問題がある。イランのイスラム共和制に賞味期限が来たのだろうか。
〇南北アメリカ
イーロン・マスクが「無期限には続けられない」としていた「スターリンク」が一転、ウクライナへの無償提供を続けるという。当然だろう、彼も戦争がかくも長引くとは思わなかったのではないか。所詮マスク氏は商売人であり、慈善事業家ではない。誰かが資金援助に動いたに違いないが、それを詮索するのは野暮な話だろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
10月3日‐11月23日 総会、第2委員会、第77回会議(ニューヨーク)
10月5日‐11月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第56回会議(ニューヨーク)
10日‐10月21日 人権理事会、ダーバン宣言と行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会、第20回会議(ジュネーブ)
10日‐10月28日 女性差別撤廃委員会、第83回(ジュネーブ)
11日‐11月4日 人権委員会、第136回会議(ジュネーブ)
13日‐10月21日 国際捕鯨委員会(IWC)総会(スロベニア・ポルトロジュ)
10月
<16日-10月23日>
17日‐10月20日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日‐10月21日 UPU、郵政運営審議会、第2回通常会議(ベルン)
17日‐10月21日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、第11回会議(ウイーン)
17日‐10月28日 ICAO、委員会、第227回会議(モントリオール)
17日‐12月2日 ICAO、航空航法委員会、第221回会議(モントリオール)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
18日 7~9月期の中国GDP(国家統計局)
18日 9月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
19日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
19日 Soyuz 2.1v/Volga、MKA #1・2・3、ロシア宇宙軍(プレセツク宇宙基地)
19日 ユーロスタット、9月CPI発表
19日 第10回2022年ASEAN加盟国 経済代表部会合
19日‐10月21日 APEC財務相会合(タイ・バンコク)
19日‐10月21日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、作業部会A及び非公式・専門家会議、第62回会合(ウイーン)
20日 拷問その他の残虐、非人道的及び品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約選択議定書の締約国、第9会議(ジュネーブ)
20日‐10月21日 EU首脳会議(ブリュッセル)
20日 SpaceX・Starlink Group 4-36、ファルコン9グループ5号 (ケープカナベラル空運基地)
21日 開催国との関係に関する委員会 第307回会議(ニューヨーク)
21日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
21日 トランプ氏元側近に量刑判決
23日 スロベニア大統領選
23日 新潟市長選投開票
23日 埼玉県草加、三郷、千葉県君津、長野県飯山、岐阜県可児各市長選投開票
<24日-10月31日>
24日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
24日‐10月28日 人権に関する多国籍企業およびその他の企業に関する法律行為を詳述するためのオープンエンドの政府間作業部会、第8回会議(ジュネーブ)
24日‐10月28日 人権理事会、状況に関する作業部会、第30回会議(ジュネーブ)
24日‐10月28日 UNEP、常任代表委員会年次小委員会、第9回会議(ナイロビ)
24日‐10月28日 UPU、行政評議会、第2回定例会(ベルン)
25日 ウクライナ復興支援に向けた専門家の国際会議(ベルリン)
25日 米大統領がハリケーン被災地フロリダ訪問
25日‐10月26日 ブラジル中央銀行、Copom
25日‐10月28日 麻薬委員会、国家麻薬法執行機関長会議、アジア太平洋、第44回会議(バンコク)
26日 WTO紛争解決機関会合
26日 ロシア1~9月鉱工業生産指数発表
26日‐10月27日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会(北京本部)
27日 米国第3四半期GDP発表(速報値)
27日 メキシコ9月貿易統計・雇用統計発表
27日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
27日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
28日 ロシア中央銀行理事会
28日 フォルクスワーゲン(VW)の7~9月期決算
28日 9月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
29日 G20財務相・保健相会合(バリ)
30日 熊本市長選告示(11月13日投開票)
30日 福島県知事選投開票
30日 ブラジル大統領選挙決選投票
31日 ウクライナ1~9月鉱工業生産指数発表
31日 10月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
31日 7~9月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
31日-11月4日 女性差別撤廃委員会、会議前作業部会、第85回(ジュネーブ)
31日‐11月25日 拷問禁止委員会、第75回会議(ジュネーブ)
31日-12月2日 人権理事会、開発権に関する専門家メカニズム、第6回会合(ジュネーブ)
10月中 OECD2022年第2四半期海外直接投資(FDI)統計発表
10月中 WTO2022年第2四半期サービス貿易統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問