キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年10月11日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
先週最も大きな事件はロシア領と占領下にあるクリミアを結ぶいわゆる「クリミア大橋(ケルチ海峡にあるので「ケルチ大橋」という表記もある)」の爆破事件だろう。監視カメラ等のビデオが示す爆発の衝撃はすさまじく、それぞれ二車線ある上下の自動車用道路の一本が完全に寸断され、並行する鉄道架線上の貨物車も爆発・炎上した。
ロシアは「爆発物を積んだトラックが現場で爆発した」とし、プーチン大統領は「テロ行為」だと非難、早速キーウなどのウクライナ全土に報復攻撃を仕掛けている。原因や背景については諸説あり、現時点で断定は避けたい。だが、ロシアが自殺行為をする可能性は低いから、ウクライナか親ウクライナ系による犯行であるのだろう。
では、この攻撃がウクライナ戦争の更なる「ゲームチェンジャー」になるのか、と問われれば、「今は分からない」としか言えない。鉄道は修復可能かもしれないし、車道も一本残っている。ロシアとクリミアの全ての補給路が断たれたわけではないからだ。影響は軍事的というより、むしろ、精神的、心理的なものではなかろうか。
もう一つの大きな「事件」は我がキヤノングローバル戦略研究所が先週末行った「台湾有事」に関する「政策シミュレーション」である。以前は週末に一泊24時間でいわゆるwar gameを行ったものだが、最近はコロナ禍のおかげでウェビナー型のシミュレーションに移行していたので、対面での演習は実に久し振りである。
今回のシミュレーション・コントローラーは峯村健司CIGS主任研究員が務めた。10月からCIGSの一員になった峯村氏にとっては事実上の「デビュー戦」だが、幸い参加下さった各プレーヤーの温かいご支援もあり、全体としては予想以上にうまくいったと考える。中身については追って報告書を発表する。
今週はオーストラリア出張を入れた。豪州は何度か訪れているが、いずれも短期間のシドニー出張ばかりで、恥ずかしながらキャンベラには一度も行ったことがない。今回はオーストラリアからインド太平洋地域を眺めるという、過去数年間温めてきた視点を模索する旅になりそうだ。という訳でこれから出発する。報告は来週に!
〇アジア
北朝鮮がミサイルを打ち続けている。朝鮮労働党創党77周年記念日を迎え、2週間の大規模軍事演習も公開した。金正恩は韓米合同演習などを「無責任な情勢激化行動」とし、「対話する必要性を感じない」と述べたそうだ。「朝鮮半島の緊張は高まる」と報じられているが、本当に緊張が高まって困るのは北朝鮮側ではないのか。
〇欧州・ロシア
ベラルーシ大統領が「ベラルーシに対する明確な脅威に対抗する」ため、同国軍を「ロシア軍と共にウクライナ周辺に配置する」よう命じたという。同大統領は「ベラルーシを戦争に引きずり込む」ために、ベラルーシへの戦争を仕掛けるよう後押しする動きがあると述べたそうだ。でも、それって実はプーチンのことではないのかね?
〇中東
先週ニューヨーク原油市場で、WTI原油先物価格が約1か月ぶりで一時、1バレル=93ドル台まで上昇した。OPECプラスが来月以降の原油大幅減産を決めたため需給が引き締まる、という市場の判断なのだろう。それにしても、ロシアは仕方がないにしても、サウジの政策が本当にサウジのためになっているのかには疑問がある。
〇南北アメリカ
米中間選挙まで1か月を切った。バイデン大統領の支持率回復が足踏みする中、トランプ派候補のスキャンダルも浮上し、選挙戦の行方は見通せないという。ガソリン価格が再び上昇に転じたが、6月の連邦最高裁が「中絶」の権利を否定したことで、女性有権者登録が急増し、民主党には追い風が吹いている。読みにくい展開だ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
9月26日‐10月14日 経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、第72回(ジュネーブ)
9月26日‐10月14日 ITU、全権委員会議、2022年会議(ブカレスト)
10月3日‐11月23日 総会、第2委員会、第77回会議(ニューヨーク)
10月5日‐11月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第56回会議(ニューヨーク)
10月
<10日-10月16日>
10日 台湾の双十節(建国記念日に相当)
10日 Glonass K-1機17号、Soyuz 2.1b/Fregat、ロシア宇宙軍(プレセツク宇宙基地)
10日 ウクライナ9月CPI発表
10日‐10月14日 人権理事会、女性と女児に対する差別に関する作業部会、第35回会議(ジュネーブ)
10日‐10月14日 UNCITRAL、作業部会II (紛争解決)、第76回会議(ウイーン)
10日‐10月16日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC)
10日‐10月21日 人権理事会、ダーバン宣言と行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会、第20回会議(ジュネーブ)
10日‐10月28日 女性差別撤廃委員会、第83回(ジュネーブ)
11日 ブラジル9月IPCA発表
11日 新型コロナ水際対策を緩和、全国旅行支援開始(12月下旬まで)
11日 英国労働市場統計(2022年6~8月)発表
11日‐11月4日 人権委員会、第136回会議(ジュネーブ)
11日‐10月15日 国連難民高等弁務官事務所 執行委員会 第73回会議(ジュネーブ)
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12日 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨
12日 インド8月鉱工業生産指数発表
12日 RAISE-3 & Others、エプシロン、JAXA宇宙航空研究開発機構(内之浦宇宙センター)
12日‐10月13日 アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)首脳会議(アスタナ)
12日‐10月13日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会
12日‐10月13日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントンDC)
13日 AngoSat-2、Proton-M/Blok DM-03、ロスコスモス(バイコヌール宇宙基地)
13日 バヌアツ総選挙
13日 米国9月CPI発表
13日 福島県知事選告示(30日投開票)
13日 ウクライナ1~8月貿易統計発表
13日‐10月21日 国際捕鯨委員会(IWC)総会(スロベニア・ポルトロジュ)
14日 米国9月小売売上高統計発表
14日 中国9月貿易統計発表
14日 WTOサービス貿易理事会
14日 中国9月CPI発表
14日 Hotbird 13F、ファルコン9・ブロック5号、SpaceX(ケープカナベラル空運基地)
14日 9月の中国CPI、卸売物価指数(PPI)(午前9時半、国家統計局)
14日‐10月16日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC)
15日 安倍晋三元首相の山口県民葬
16日 第20回中国共産党大会開幕(北京)
<16日-10月23日>
17日‐10月20日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日‐10月21日 UPU、郵政運営審議会、第2回通常会議(ベルン)
17日‐10月21日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、第11回会議(ウイーン)
17日‐12月2日 ICAO、航空航法委員会、第221回会議(モントリオール)
17日‐10月28日 ICAO、委員会、第227回会議(モントリオール)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
18日 7~9月期の中国GDP(国家統計局)
18日 9月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
19日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
19日 ユーロスタット、9月CPI発表
19日 第10回2022年ASEAN加盟国 経済代表部会合
19日‐10月21日 APEC財務相会合(タイ・バンコク)
20日‐10月21日 EU首脳会議(ブリュッセル)
21日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
21日 トランプ氏元側近に量刑判決
23日 スロベニア大統領選
23日 新潟市長選投開票
23日 埼玉県草加、三郷、千葉県君津、長野県飯山、岐阜県可児各市長選投開票
<24日-10月31日>
24日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
25日 ウクライナ復興支援に向けた専門家の国際会議(ベルリン)
25日 米大統領がハリケーン被災地フロリダ訪問
25日‐10月26日 ブラジル中央銀行、Copom
25日‐10月29日 UPU、行政評議会、第2回定例会(ベルン)
26日 WTO紛争解決機関会合
26日 ロシア1~9月鉱工業生産指数発表
26日‐10月27日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会(北京本部)
27日 米国第3四半期GDP発表(速報値)
27日 メキシコ9月貿易統計・雇用統計発表
27日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
27日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
28日 ロシア中央銀行理事会
28日 フォルクスワーゲン(VW)の7~9月期決算
28日 9月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
29日 G20財務相・保健相会合(バリ)
30日 熊本市長選告示(11月13日投開票)
30日 ブラジル大統領選挙決選投票
31日 ウクライナ1~9月鉱工業生産指数発表
31日 10月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
31日 7~9月期のユーロ圏GDP速報値(EU統計局)
31日‐11月4日 女性差別撤廃委員会、会議前作業部会、第85回(ジュネーブ)
31日‐11月25日 拷問禁止委員会、第75回会議(ジュネーブ)
31日-12月2日 人権理事会、開発権に関する専門家メカニズム、第66回会合(ジュネーブ)
10月中 OECD2022年第2四半期海外直接投資(FDI)統計発表
10月中 WTO2022年第2四半期サービス貿易統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問