キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年10月4日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週は元々、先週都内で行われた安倍晋三元首相の国葬と日中国交正常化50周年記念レセプションについて書くつもりでいた。ところが、4日朝午前7時25分すぎ、北朝鮮が5年振りでIRBM(中距離弾道ミサイル)クラスと思われる飛翔体を発射したと防衛省が発表したため、急遽内容を変更して書き始めている。
今朝は偶々早起きだったので、7時27分の総務省消防庁による全国瞬時警報システム(Jアラート)の国民保護情報をリアルタイムで見ていた。短い本文は「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難して下さい。」だった。なるほど、これがJアラートというものなのか!
外電はどう報じているかなと思ったら、8時40分にBloombergの「5 things to start your day」のトップニュースが「People in Japan told to seek shelter after missile launch(日本国民はミサイル発射の後、シェルターに避難するよう要請された)」と報じていた。シェルターに避難?シェルターなんてないよ、この国には。
更にBloombergは「The Japanese government broadcast a wide-scale notice that a North Korean missile was launched toward the northern part of the country, in an escalation to the run-of-the mill provocations people have become accustomed to in the area.(日本政府は広域警報システムで、北朝鮮が地域の人々にとっては周知のいつもの挑発をエスカレートさせるべく、日本の北部に向けてミサイルを発射した)」とも報じた。北朝鮮の挑発?おいおい、北は「挑発」なんてしちゃいないぞ!「挑発」とは「相手を刺激し事件や欲情などを起こすようにしむけること」というのが筆者の理解だからだ。米国を刺激して反撃されることなど北朝鮮は全く望んでいない。
日本政府の対応は基本的に正しかったと思う。NSCの大臣会合も適切だ。問題はメディア側にもある。某TV局の北海道の記者はレポートの際ヘルメットを被っていたが、今回のミサイルは飛翔距離4600キロのIRBMだ。Jアラート後、防衛省は日本領内に落下する可能性がなかったので迎撃はしなかった、という。当然だろう。
更なるミサイル発射の兆候でもあれば別だが、それがなければヘルメットを被る意味はあまりない。これって「ナンチャッテ、危機管理」の典型例で、一部安全保障関係の専門家を除けば、日本社会の「危機意識」はこの程度なのだと再認識した。そろそろ問題の本質について議論するマスコミや識者が出てきても良いと思うのだが・・・。
では本質とは何か。筆者の見るところ、今回我々が理解すべきことは次のとおりだ。
①北朝鮮には「核兵器開発」を止める意図が全くないこと
②北朝鮮の軍事技術は近年着実に向上しており、従来のミサイル防衛システムだけでは北朝鮮のミサイル攻撃(またはその恫喝)を抑止できないこと
③されば、日米等同盟国は、北朝鮮による(核)ミサイル攻撃を抑止するための新たな手段の可能性も探求すべき時期に来ていること
この点については、また別の機会に論じよう。本来今週書くつもりだった日中国交正常化50周年や「国葬」については、今週木曜日に掲載される予定の産経新聞コラムをご一読願いたい。
〇アジア
先ほど述べた産経のコラムでは、1972年からの50年間で、「今や米中露をめぐる国際戦略環境は激変した。1972年の中国にとって最適な環境、すなわち「中国が米国の支援を受けソ連の脅威に米中で対抗する」幸せな時代は消滅したのだ。」と書いた。悲しい現実だが、日中や米中が1972年に戻ることはもうできないかもしれない。
〇欧州・ロシア
プーチン氏の「併合宣言」にも関わらず、ウクライナ軍は東部・南部で反転攻勢を続け、複数の州で新たに集落を奪還したという。今は奪還した東部ドネツク州北方の要衝リマンから、ルハンスク州の拠点都市リシチャンスク方面に向かって進軍しているらしい。事実なら深刻だ。プーチンは早く冬将軍が来ることを懇願するしかないのか?
〇中東
サッカーのワールドカップ(W杯)が11月20日から湾岸の資源国カタルで中東イスラム圏では初めて開催される。受け入れ準備着々と進められているそうだが、筆者は「あのカタルでW杯か」との感慨を禁じ得ない。色々トラブルは予想されるだろうが、カタルの「ロジ能力」は水準以上、決して過小評価してはいけない。
〇南北アメリカ
2日投開票のブラジル大統領選は上位2人が30日の決選投票に進むらしい。世論調査のトップ左派ルラ元大統領に2位の右派ボルソナロ現大統領猛烈に追い上げているそうだ。でも、よく考えてみれば、「ブラジルのトランプ」対「腐敗臭?が消えない現職」で「どっちもどっち」ではないか。これが途上国の民主主義なのだろうが、独裁制よりはマシなのか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
9月13日‐10月8日 人権理事会、第51回会議(ジュネーブ)
26日‐10月14日 経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、第72回(ジュネーブ)
26日‐10月14日 ITU、全権委員会議、2022年会議(ブカレスト)
2日‐10月5日 英保守党大会(バーミンガム)
10月
<3日-10月9日>
3日 国際原子力機関、理事会(ウイーン)
3日 ノーベル医学生理学賞発表(スウェーデン・カロリンスカ研究所)
3日 9月の米新車販売(日系メーカー各社、GMとFCAは7~9月分を発表)
3日 ファルコン9、Starlink Group 4‐29、SpaceX(ヴァンデンバーグ宇宙軍基地)
3日‐10月4日 ASEAN防衛交流プログラム(ADIP)
3日‐10月6日 欧州議会本会議(ストラスブール)
3日 IAEA、理事会(ウイーン)
3日‐10月7日 人権理事会、人権問題に関する作業部会、多国籍企業及びその他の企業、第33回会議(ジュネーブ)
3日‐10月7日 UNCTAD、プログラム計画とプログラムパフォーマンスに関する作業部会、第84回会議(ジュネーブ)
3日‐11月23日 総会、第2委員会、第77回会議(ニューヨーク)
4日 ノーベル物理学賞発表(スウェーデン王立科学アカデミー)
4日 9月のフォードの米新車販売
4日 国際法の教育、研究、普及及びより広範な評価における国連援助計画に関する諮問委員会、第57回会議(ニューヨーク)
4日‐10月7日 化学兵器禁止機関、執行理事会、第101回(デン・ハーグ)
4日‐10月7日 麻薬委員会、ラテンアメリカ・カリブ海諸国麻薬取締局長会議、第30回会合(グアテマラシティ)
4日‐10月8日 人権委員会、コミュニケーション作業部会、第136回会議(ジュネーブ)
4日‐10月8日 UNCTAD、プログラム計画とプログラム実績に関する作業部会、第 84会議 (ジュネーブ)
5日 米国8月貿易統計発表
5日 「OPECプラス」閣僚級会合
5日 ノーベル化学賞発表(スウェーデン王立科学アカデミー)
5日 ロシア第2四半期GDP(速報値)発表
5日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表
5日 アトラス・V531、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス、SES-20・SES-21(ケープカナベラル空運基地)
5日‐10月6日 衆院代表質問
5日‐10月7日 第52回米州機構総会(リマ)
5日‐11月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第56回会議(ニューヨーク)
6日 ファルコン9、SpaceX、Crew-5(ケネディ宇宙センター)
6日 メキシコ9月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ノーベル文学賞発表(ストックホルム)
6日‐10月7日 WTO一般理事会
6日‐10月7日 参院代表質問
7日 レソト総選挙
7日 米国9月雇用統計発表
7日 メキシコ9月CPI発表
7日 ブラジル8月月間小売り調査発表
7日 ロシア9月CPI発表
7日 9月の米雇用統計(労働省)
9日 中国共産党第19期中央委員会第7回総会(7中総会)
9日 新潟市長選告示(23日投開票)
9日 オーストリア大統領選挙
10日 台湾の双十節(建国記念日に相当)
10日 ウクライナ9月CPI発表
10日‐10月14日 人権理事会、女性と女児に対する差別に関する作業部会、第35回会議(ジュネーブ)
10日‐10月14日 UNCITRAL、作業部会II (紛争解決)、第76回会議(ウイーン)
10日‐10月16日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC)
10日‐10月21日 人権理事会、ダーバン宣言と行動計画の効果的な実施に関する政府間作業部会、第20回会議(ジュネーブ)
11日 ブラジル9月IPCA発表
11日 英国労働市場統計(2022年6~8月)発表
11日‐11月5日 人権委員会、第136回会議(ジュネーブ)
11日‐10月15日 国連難民高等弁務官事務所 執行委員会 第73回会議(ジュネーブ)
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12日 インド8月鉱工業生産指数発表
12日‐10月13日 アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)首脳会議(アスタナ)
12日‐10月13日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会
12日‐10月13日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントンDC)
13日 バヌアツ総選挙
13日 米国9月CPI発表
13日 福島県知事選告示(30日投開票)
13日 ウクライナ1~8月貿易統計発表
13日‐10月21日 国際捕鯨委員会(IWC)総会(スロベニア・ポルトロジュ)
14日 米国9月小売売上高統計発表
14日 中国9月貿易統計発表
14日 WTOサービス貿易理事会
14日 中国9月CPI発表
14日‐10月16日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントンDC)
15日 安倍晋三元首相の山口県民葬
16日 第20回中国共産党大会開幕(北京)
17日‐10月20日 欧州議会本会議(ストラスブール)
17日‐10月21日 UPU、郵政運営審議会、第2回通常会議(ベルン)
17日‐10月21日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、第11回会議(ウイーン)
17日‐12月2日 ICAO、航空航法委員会、第221回会議(モントリオール)
17日‐10月28日 ICAO、委員会、第227回会議(モントリオール)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額等)発表
18日 7~9月期の中国GDP(国家統計局)
18日 9月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問