外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2022年9月20日(火)

外交・安保カレンダー(9月19-25日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週は出張中のため原稿をホノルルで書いている。米TV各局はエリザベス女王の「国葬」を生中継で長時間報じていた。米国にとって英王室が特別の存在であることは知っていたが、それにしても米国人の関心の高さは想像以上だった。昔誰かが「王室がないことの微妙な劣等感の裏返しだ」と言っていたが、そうなのかもしれない。

それはともかく、今回英国の「国葬」を生中継で見ていて、改めて違和感を持った。立憲民主主義の国なら当然「国家と宗教」は分離されるのだろうと思っていたが、今回の「国葬」はそれには程遠い。荘厳な葬儀にケチをつける気は毛頭ないが、生中継映像を見る限り、葬儀は英王室とイングランド国教会による「宗教葬」に近かった。

そもそも、場所はキリスト教のウェストミンスター修道院、先週は慣例に従い「ウェストミンスター寺院」と書いたが、ここはあくまでイングランド国教会のabbey修道院であり、temple寺院ではない。また、今回儀式を取り仕切ったのはカンタベリー大司教だが、彼はイングランド国教会のトップではなく、最上席の聖職者に過ぎない。

カンタベリー大司教が属するのは通常「英国国教会」などと呼ばれるが、正式には「イングランド国教会Church of England」。同協会は1534年にローマ・カトリック教会から分離独立して(というか破門されて)いる。今回の「国葬」はそのChurch of Englandの首長Governorであるエリザベス女王を追悼する儀式でもあるのだ。

また、今回の「国葬」は儀式面で「ローマ・カトリック」に酷似している。また、イングランド国教会の教義もカトリックと大差ないらしい。少なくとも、イエズス会の中学高校で学んだ筆者にはあまり違いが分からなかった。両教会の教義がほぼ同じ理由はイングランド国教会のカトリック離脱があくまで政治的理由によるものだからだ。

更に、「国教会」とは別に「聖公会Anglican Church」という概念もある。日本語で「聖公会」というとAnglican Communion、すなわちカンタベリー大司教の重要性を認める諸教会によって構成される「信仰共同体」を指すらしい。ちなみに今回の「国葬」にはイングランド国教会とは独立したスコットランド国教会の関係者も参加していた。

米国大統領の国葬もワシントン市内の教会で行われるが、最近ではユダヤ教やイスラム教の指導者も参加していたと記憶する。その意味で「国教一致」は英国の伝統であり、今後はチャールズ新国王がイングランド国教会の首長を務めることになる。この点は今後も変わることはないだろう。

一方、日本では来週、故安倍晋三首相の「国葬」がある。英国では、エリザベス女王の棺を乗せた車列が修道院に近付く際、集まった沿道の一般英国市民から大きな拍手と歓声が上がっていたが、日本では何が起きるだろうか。政治的な意見の違いはあるだろうが、27日の葬儀当日ぐらいは、静かに故人を偲びたいと思う。

〇アジア
ハワイで久しぶりにCBSの60 minutesを見ていたら、米軍は台湾を守るかとの質問にバイデン大統領が「もし実際に前例のない攻撃があれば、そうなる」と述べ、中国が侵攻すれば米軍が台湾を守るという意味かと確認を求められると、「そうだ」と述べた。これで米国の台湾「曖昧戦略」は変質せざるを得なくなるのだが・・・。大丈夫か?

〇欧州・ロシア
先週プーチン・習近平首脳会談が開かれたが、日経新聞社説は「ウクライナ情勢を巡る両国の溝が浮き彫りになった。中国を頼りにしたいロシアのプーチン大統領にとって、中国の習近平国家主席の冷淡さは誤算だったに違いない。」と書いた。予想通りとはいえ、所詮両者は「狐と狸」ではないか。されば、化かされる方が悪いのだ。

〇中東
経産省によれば、2022年7月分の原油輸入量は1289万kl(前年同月比25.5%増)で、日本の中東原油依存度は97.7%となったそうだ。これ自体、1970年代の石油危機時代にも匹敵する驚くべき数字だが、それでは過去50年、日本は何をやって来たのか。天に唾する話だが、原子力発電について再考すべき時が来ているようだ。

〇南北アメリカ
前述のCBS 60 minutesでバイデン氏は2024年大統領選に出馬するかと問われ、「自分の意図intentionは出馬だが、決断firm decisionを下すにはあまりに早すぎ、様子を見るべし」などと述べ、憶測を呼んでいる。だが、普通なら「当然出る」と言えば良いだけの話。そう言わなかったことの方が問題だと思う。支持率は低いし、出たくても出られないのではないのかね。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

8月30‐924日 子どもの権利委員会、第91回会議(ジュネーブ)

9月13‐924日 強制失踪委員会、第23回会議(ジュネーブ)

9月13日‐924日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議、予算財政委員会、第39回会議(デン・ハーグ)

9月13日‐108日 人権理事会、第51回会議(ジュネーブ)

9月15日‐922日 英中銀金融政策委員会が金融政策と議事録発表(ロンドン)

9

19日-25日>

19日 ウクライナ1~7月貿易統計発表

20日 国土交通省が基準地価を公表

20日 岸田文雄首相が国連総会で一般討論演説(午後、国連本部)

20日‐921日 米国FOMC

20日‐921日 ブラジル中央銀行、Copom

20日‐924日 UNCITRAL作業部会I.(零細・中小企業) (ウイーン)

20日‐926日 国連総会一般討論演説(ニューヨーク)

20日‐929日 人権理事会、強制失踪または非自発的失踪に関する作業部会、第128回会議(ジュネーブ)

20日‐101日 移住労働者及びその家族の権利の保護に関する委員会、第35回会議(ジュネーブ)

21日 米FOMC最終日(声明発表とFRB議長会見)

21日 岸田首相がCTBT(包括的核実験禁止条約)フレンズ首脳級会合出席(午前、ニューヨーク)

21日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表

21日 Soyuz MS-22、ロシア連邦宇宙機関(ロスコスモス)(カザフスタン・バイコヌール宇宙基地)

21日‐923日 G20貿易・投資・産業担当相会合(インドネシア・ラブハンバジョ)

21日‐927日 第77回国連総会一般討論(米国・ニューヨーク)

22日 国連総会、国民的又は民族的、宗教的及び言語的少数派に属する者の権利に関する宣言の採択30周年を記念するハイレベル会合(決議76/168) (ニューヨーク)

23日 WTO紛争解決機関会合

25日 NROL-91・デルタIVヘビー、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ケープカナベラル空運基地)

25日 公明党大会(都内)

25日 イタリア総選挙 

26日-10月3日>

26日‐930日 アジア開発銀行(ADB)年次総会(マニラ、対面とオンライン形)

27日 メキシコ8月貿易統計・雇用統計発表

27日 故安倍晋三元首相の国葬(日本武道館)

27日 国連総会、核兵器の完全廃絶のための国際記念日(決議76/36)(ニューヨーク)

27日‐930日 WTOパブリックフォーラム

27日‐10月1日 IAEA, 総大会, 第66部会 (ウイーン)

27日‐10月1日 子どもの権利委員会、会議前作業部会、第93回会議(ジュネーブ)

27日‐1015日 ITU、全権委員会議、2022年会議(ブカレスト)

27日‐1015日 経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、第72回(ジュネーブ)

28日 ロシア1~8月鉱工業生産指数発表

28日‐101日 包括的核実験禁止条約機構の準備委員会、諮問部、第59回会議(ウイーン)

29日 米国第2四半期GDP発表

29日 日中国交回復50年

30日 国連環境計画 (UNEP)常任代表委員会、第159回会議(ナイロビ)

30日 NATOのストルテンベルグ事務総長の任期終了

30日 米国2022会計年度終了

30日 ウクライナ1~8月鉱工業生産指数発表

30日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表

30日 ユーロスタット、8月失業率発表

10

2日 ブラジル大統領選挙

3日‐104日 ASEAN防衛交流プログラム(ADIP)

3日‐10月6日 欧州議会本会議(ストラスブール)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問