外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年8月30日(火)

外交・安保カレンダー (8月29日-9月4日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


8月に入りトランプ前大統領が政治的窮地に陥っている。8日、FBIはフロリダ州マーアラゴにあるトランプ邸を大々的に家宅捜索し、トランプ氏の金庫まで開けた上で、ホワイトハウスから持ち出したとされる機密文書等を押収した。最悪の場合トランプ氏自身が起訴される可能性もあるのだが、日本メディアの扱いは意外に小さかった。

28日付日経電子版はこの事件につき、「トランプ氏邸宅に184の機密文書、米司法省、捜索根拠を開示」との見出しで、短い記事を掲載している。簡にして要を得た内容であり、記事自体に文句はない。されど、これだけではFBIの家宅捜索がどれほど政治的に深刻な事件かは伝わってこない。まずは記事と筆者のコメントから。

  • 米司法省は26日、連邦捜査局(FBI)がトランプ前大統領の邸宅を家宅捜索した理由を記した宣誓供述書を開示した。

【英米法では、家宅捜索につき裁判所の許可を得る場合、捜査官は捜索令状を請求する際に「宣誓供述書」を添付するらしい(筆者は英米法の専門家ではないので、あくまでこういう書き方しかできない)】

  • 米国立公文書記録管理局(NARA)が1月に押収した資料に「国家防衛情報」を含む計184の政府の機密文書を確認したと説明。その後の調査も踏まえ、ほかにも機密文書が残っていると判断し、捜査に踏み切った・・・。

【今回FBIは、米国内法上犯罪となり得る「連邦記録の隠蔽・持ち出し、連邦捜査記録の破壊・改竄、防衛情報の伝達」だけでなく、「司法妨害」という犯罪行為が行われた証拠があると信じるに足る根拠があるとしている】

そもそもこの「宣誓供述書」とは何なのか。専門家によれば、「宣誓者本人が把握している情報を基に作成した供述書の内容が真実であることを、特定の国家資格保有者の立会いのもとで、宣誓した上で署名した書類」だそうだ。今回の場合は、捜査員が公平な第三者の立会いの下、宣誓の上で作成した供述書ということになる。

当然ながら、家宅捜索直後から、この32ページの宣誓供述書の公表をめぐっては大きな議論が巻き起こった。宣誓供述書の中でFBI捜査官は、米国立公文書館(NARA)が1月にマールアラーゴから回収した15箱分の文書から「国防情報」と記された機密文書が多数発見されたことを指摘していたからだ。

司法省が同供述書に司法省が情報入手先に関する情報が含まれている可能性が高いので拒否したのに対し、トランプ側はチーム内の情報源が提供したとしか思えないので、それを知るべく公開を求めたと報じられた。最終的に米司法省は26日、令状取得の際の宣誓供述書を機密情報などの一部情報を編集した形で公開している。

この編集済みの宣誓供述書、付属書類も含め全体で55ページあるが、その半分以上は黒塗りになっている。黒塗り部分の多くはトランプ氏邸宅にある機密文書の内容や、その保管場所について情報を提供した人物等に関する「機微な」情報だろう。供述書全体を読んでみたが、第一印象は極めて事務的な体裁と内容だった。

NARAによれば、家宅捜索前の段階で既に700ページ以上の「TopSecret」を含む機密文書が回収されたが、今回の家宅捜索でも「TopSecret」と記された文書を含む11点の機密文書が押収されたという。うーん、これはトランプ氏にとって政治的に相当ダメージが大きいような気がする。

トランプ氏側は司法省に対し、トランプ氏には機密文書を秘密解除する大統領権限がある、フロリダ州連邦地方裁判所の判事は家宅捜索を許すべきではなかったなどと主張した。共和党系議員の多くもトランプ氏を擁護しているが、親トランプのタッカー・カールソンですら「トランプは起訴されそうだ」と述べているから事態は深刻である。

事実関係はこのくらいにして、最後に、現時点での筆者の見立てを書こう。

  • 今回は秘密保持に関する米国内法に対する明確な違反と言わざるを得ないので、トランプ氏自身が起訴される可能性すらあるだろう。その場合、トランプ氏は政治的にどの程度のダメージを被るかは、起訴の有無、起訴の場合の罪状、有罪の場合の罰金や求刑の多寡により異なるので、現時点では予測困難である。

  • 他方、仮に起訴され有罪となっても、ダイハードのトランプ主義者のトランプに対する支持に変わりはないだろうから、トランプの政治生命は浮動票の行方次第ということになりそうだ。

  • となると、やはり法律に違反し、起訴され、有罪となれば、浮動票を引き付けておくことは難しくなるだろう。その時点で、トランプが出馬断念に追い込まれるか、代わりの「より賢い」トランプ主義者が出てくるかは共和党内部の力関係次第だろう。

  • 仮に、トランプが起訴・有罪となり事実上失脚したとしても、民主党に有利とは限らない。バイデンが再出馬とでもなれば、民主党大統領がホワイトハウスに居残れるとは思えないからだ。いずれにせよ、大統領連まであと2年もある。状況はこれから星雲状態、すなわちAnything can happenとなる可能性が高いと思う。

〇アジア
中国人民銀行が人民元の中心レートを1ドル=6.8802元に設定したが、これは予想に比べ大幅な元高水準だという。マーケットは、投機的ポジションの急増を踏まえ、人民銀が警戒を強め、元の下支えに向けて動いたと受け止めたようだ。中国経済の動きは政治軍事とは別に要注意事項である。

〇欧州・ロシア
ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポリージャ原発で、敷地内の建物の屋根に穴が4つ空いていることが衛星画像で明らかになったという。ロシア任命のザポリージャ州指導者は「ウクライナ軍による原発への攻撃で空いたものだ」と主張したそうだが、それを額面通り信じる人は少ないだろう。いずれにせよ、不気味である。

〇中東
米軍のアフガニスタン撤収完了から30日で1周年となるが、アフガンに対する米国内の関心はすっかり低下し、あれほど厳しかった撤収当初の混乱をめぐる政権批判も今は誰も口にしない。外交・安保の優先順位が中露との大国間競争に移っているというが、これではアフガニスタンに再び「力の真空」が生まれることは必至だ。

〇南北アメリカ
NSC
戦略広報調整官が「近年中国への傾斜を強めるソロモン諸島が今月下旬、米沿岸警備隊の巡視船の寄港を許可しなかった」、「ソロモン政府の判断は遺憾だ」と述べたらしい。可哀そうなソロモン諸島、米中の狭間で双方から圧力が掛かっている証拠だろうが、これには米国の慢心もあったのではないか、気になるところだ。

〇インド亜大陸
パキスタンが歴史的な洪水に見舞われ、全土の3分の1が完全に水没したと報じられた。本当か?復興には100億ドル(約14000億円)以上かかるそうだが、一体誰が支援するのか、気になるところだ。今週はこのくらいにしておこう。

83日‐917日 軍縮会議 第三部(ジュネーブ)

89日‐831日 第107回人種差別撤廃委員会(ジュネーブ) 

816日‐910日 第27回障害者権利委員会(ジュネーブ)

823日‐93日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、作業部会B及び非公式・専門家会合、第59回会議(ウイーン)

8

28-31日>

28日 香川県知事選投開票

29日 WTO紛争解決機関会合

29日 アルテミス1、オリオン宇宙船(ケネディ宇宙センター・フロリダ州)

30日 メキシコ7月雇用統計発表

30日 核軍縮の進展における検証の役割を考える政府専門家グループ、第2回非公式会議間協議会合 (ニューヨーク)

30日‐831日 第38ASEAN-中国共同作業部会会議

30日‐92日 国連開発計画 (UNFPA)/UNOPS理事会、第2回通常会合(ニューヨーク)

30日‐93日 人権理事会、恣意的拘禁に関する作業部会、第94回会議(ジュネーブ)

30日‐95日 ロシア極東で軍事演習「ボストーク2022

30日‐910日 犯罪目的のための情報通信技術の使用に対抗するための包括的な国際条約を策定するための特別委員会、第3回会議(ニューヨーク)

30日‐924日 子どもの権利委員会、第91回会議(ジュネーブ)

31日 G20環境・気候変動担当相会合(インドネシア・バリ)

31日 インド2022年度第1四半期GDP発表

31日 ウクライナ17月鉱工業生産指数発表

31日 8月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)

31日 2023年度予算概算要求締め切り

31日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表

31日‐91日 独IFA家電見本市報道公開(ベルリン)

31日‐93日 締約国、クラスター爆弾禁止条約第10回会議(ジュネーブ)

9

1日 ブラジル第2四半期GDP発表

1日 ユーロスタット、7月失業率発表

1日‐92日 G20デジタル相会合(バリ)

2日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表

2日 米国8月雇用統計発表

5-11日>

5日‐98日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)

5日‐911日  APEC中小企業相会合・中小企業ウィーク(タイ・プーケット)

5日‐911日 第54ASEAN経済大臣会議および関連会議 (プノンペン)

6日 米国予備選挙(マサチューセッツ州)

6日 アリアン5Eutelsat Konnect VHTS (仏領ギアナ基地 ) 

6日‐98日 G20農業担当相会合(バリ)

6日‐917日 UNCITRAL、作業部会III (投資家と国家の紛争解決改革) 、第43会議(ウイーン)

7日 北朝鮮の最高人民会議招集

7日 国連総会、平和の文化に関するハイレベル・フォーラム(ニューヨーク)

7日 中国8月貿易統計発表

7日 ユーロスタット、第2四半期実質GDP成長率発表

7日 米国7月貿易統計発表

7日 メキシコ8月自動車生産・販売・輸出統計発表

7日‐99日 ユニセフ、理事会、第2回定例会(ニューヨーク)

8日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)

8日 メキシコ8CPI発表

8日  LauncherOne, Amber-1ForgeStar-0Kernow Sat 1Prometheus 2A, 2BFirst Omani satellite(カリフォルニア州モハベ/ボーイング747-400Cosmic Girl” 空中発射)

8日 国連総会、核実験に反対する国際デーを記念し促進するためのハイレベル本会議(ニューヨーク)

9日 中国8CPI発表

9日 ロシア8CPI発表

9日 ウクライナ第2四半期GDP(速報値)発表

9日 ロシア第2四半期経済活動別GDP(速報値)発表

9日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表

9日 ブラジル8IPCA発表

11日 スウェーデン総選挙

11日 沖縄県知事選投開票

11日 ロシア統一地方選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問