外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年8月16日(火)

外交・安保カレンダー (8月15-21日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週は15日の「終戦」記念日で始まったが、毎年この日になると筆者には必ず思うことがある。実は8月15日は正確には「終戦」記念日ではないかもしれない、と考えるからだ。もし「終戦」が「戦争の終結」を意味するのであれば、法的には「降伏文書」に「署名」した1945年の9月2日、というのが正しい言い方だろう。

更に、誤解されたくないのでこれまで黙っていたが、「終戦」という言い方自体も気になる。「終戦」とは第三者の見方だろう。戦争を戦った当事者からすれば「戦争の終結」とは「戦勝」か「敗戦」のどちらかだ。もっとも第二次大戦後の米国の戦争は「宣戦布告」もなく、結果的にどちらが勝ったのかうやむやになることも少なくないのだが・・・。

こんなことを考えながらネット検索していたら、出るわ、出るわ、この時期になると必ず「8月15日を終戦記念日とするのは日本人だけ」などという、やや自虐的な論評が目立つ。「終戦」の時期についてはHuffington Post日本版編集部が詳細かつ興味深い記事を掲載している。筆者の独断と偏見で結論のみ簡単に要約すると、

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_62f621d4e4b045e6f6ac9923

  • 米国等連合国(9月2日)
    「対日戦勝記念日」(Victory over Japan Day=V-J Day)(例外はロード・アイランド州で毎年8月第2月曜がVictory Day?)
  • ロシア(9月3日)
    「対日戦勝記念日」
  • 台湾(9月3日)
    中華民国が「抗日戦争勝利記念日」と定め、現在は「軍人節」
  • 中国(9月3日)
    「抗日戦争勝利記念日」
  • イギリス(5月8日)
    1945年ドイツ降伏の翌8日が「ヨーロッパ戦勝記念日」(VE day=Victory in Europe Day) 但し、BBCは「対日戦勝記念日」(VJ Day)を8月15日としている
  • 韓国(8月15日)
    「光復節」(日本の植民地支配からの解放を祝う日)

なるほどね。それでは8月15日または9月2日は日本にとって「敗戦」記念日なのか。色々調べてみたが、今のところ戦争に敗れた日を「敗戦」記念日としている国は見当たらない。そうであれば、日本政府がポツダム宣言を受諾し日本軍に武装解除と連合軍への投降を命じた8月15日が「終戦」記念日となっても不思議はない。

それでも、誤解を恐れず、敢えて筆者は「敗戦」にこだわり続ける。これは決して自虐的発想ではない。あの戦争が「敗戦」であったことを忘れてしまえば、「なぜ勝てなかったのか」という発想は決して生まれない。単に「悲惨な戦争は二度と繰り返してはならない」という一般論で議論が止まってしまう恐れすらあると思うからだ。

筆者だって戦争は戦いたくない。外務省時代はイランイラク戦争、湾岸戦争、テロとの闘いからイラク戦争まで、最近の中東での戦争の現場は他の同僚の誰よりも知っているつもりだ。当然、戦争なんて「真っ平御免」なのだが、同時に、戦争を抑止することが「如何に難しいか」も体験的に学んできた。

ウクライナ戦争の例を挙げるまでもなく、人類にとって戦争ほど、多くの人に否定されながらも常に起こり続けるものはないだろう。されば、筆者にとって「戦争」に関する教訓は、①戦争は避けるべきだが、②戦争を戦わなければならない状況は常に生起し得る、その際大事なことは、③負ける戦争を戦ってはならないのと同時に、④勝てる戦争のみを、出来れば戦わずに勝つべし、というものだ。

そのためには1945年の「敗北」の理由を冷徹に検証する必要がある。「戦争責任論」では決してない。日本で77年も平和が続いたことは慶賀すべきことだが、同時に、我々が戦争の本質を忘れてしまっている恐れもある。その本質を正確に理解するためにも、我々の先達が1930年代以降に犯した過ちを覚えておく必要があるのだ。

〇アジア
二週間前のペローシ下院議長に続き、先週末、民主党のエド・マーキー上院議員率いる議員5人が訪台、台湾当局首脳を表敬した。地域の安全保障や貿易、投資などの問題について話し合ったというが、中国は直ちに反発し、再び軍事演習を行った。台湾付近の軍事的プレゼンス強化が「常態化」することは間違いなかろう。

〇欧州・ロシア
ウクライナにある欧州最大規模の原発で戦闘が続いている。現地市長は14日、ロシア軍が原発付近を少なくとも6回砲撃したと非難、原発職員1人が死亡、数人がけがをしたと述べたそうだ。現場の戦場には両軍とも客観的判断のできる軍人がいないだろう。悲しいことだが、「大惨事」の可能性は今も消えない。

〇中東
15日はアフガニスタンの首都カブール陥落から一年となるが、現地の状況は一向に改善しそうもない。当時のガーニ大統領は国外逃亡したが、半年後ウクライナの大統領は逃げずに戦った。大統領が逃げる国など誰も助けはしない。この違いは大きいが、一般国民が犠牲になるという点では両国とも同じである。

〇南北アメリカ
FBIのトランプ氏フロリダ州邸宅家宅捜索では機密文書などが見つかったというが、真相は不明だ。トランプ氏の弁護士は「機密文書は返却した」としているが、額面通り信じる者は少ない。機密の一部がロシアに流れた可能性もあるとすら報じられたが、事実ならトランプ氏は政治的に「終わり」だろう。

〇インド亜大陸
13日、先週延期を要請した中国の調査船「遠望5」の入港にスリランカが一転同意したそうだ。米国とインドが安全保障上の懸念を表明していたが、中国側が巻き返した結果だろうか。気になるところだ。今週はこのくらいにしておこう。

7月6日‐8月20日 大陸棚限界に関する委員会、第55回会議(ニューヨーク)

8月1日‐8月26日 核拡散防止条約(NPT)再検討会議(岸田文雄首相が演説)(ニューヨーク)

8月2日‐8月27日 第10回核兵器不拡散条約 (NPT)運用検討会議(ニューヨーク)

8月3日‐9月17日 軍縮会議 第三部(ジュネーブ)

8月9日‐8月31日 第107回人種差別撤廃委員会(ジュネーブ)

8月

<15日-21日>

15日 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによる首都カブール制圧から1年

15日 岸田文雄首相が全国戦没者追悼式に参列(日本武道館)

15日 韓国、日本の植民地支配からの解放記念日

15日 中国7月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

15日 ファルコン9、ノースロップグラマン社商用補給機18号機 (NG-18/Cygnus)(ワロップス飛行施設)

16日 米国予備選挙決選投票(サウスダコタ州)

16日 米国予備選挙(アラスカ州、ワイオミング州)

16日‐8月20日 人権理事会、コミュニケーションに関する作業部会、第30回会議(ジュネーブ)

16日‐9月10日 第27回障害者権利委員会(ジュネーブ)

17日 米国7月小売売上高統計発表

17日 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨

17日 4~6月期のユーロ圏GDP改定値(EU統計局)

18日‐8月20日 国際会議「マナマ対話」(バーレーン)

18日 ユーロスタット、7月CPI発表

19日 衆院厚生労働委員会で新型コロナウイルス対応に関する閉会中審査

19日 ウクライナ1~6月貿易統計発表(速報値)

19日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表

<21日-27日>

21日 和歌山市長選投開票

23日 米国予備選挙決選投票(オクラホマ州)

23日 米国予備選挙(フロリダ州、ニューヨーク州)

23日‐9月3日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、作業部会B及び非公式・専門家会合、第59回会議(ウイーン)

25日 故安倍晋三元首相の「四十九日」

25日 4〜6月期の米GDP改定値(商務省)

25日 沖縄県知事選告示(9月11日投開票)

25日 メキシコ第2四半期GDP発表

26日 メキシコ7月貿易統計発表

26日 APEC食料安全保障担当相会合(バーチャル形式)

26日 7月の米PCE物価指数(商務省)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問