キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年8月2日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週は月曜から一年振りで秋田県に来ている。山間の湖畔にある「隠れ家」のような旅荘で朝湯を満喫した後この原稿を書いている。東京は本日最高気温37度の予想とか、今年の暑さは異常なのだろうか。しかし、これよりホットなのが台湾をめぐる米中の軋轢だ。朝のニュースは「今晩にも下院議長訪台か」などと報じていた。
昨日が締切の産経新聞コラムの原稿で筆者はこう書いた。「バイデン政権も対応に苦慮している筈だ。・・・ペローシ議長が訪台する可能性は高いと思うが、仮に実現すれば、習近平氏は何らかの強硬策を取らざるを得ないだろう。逆に、もしペローシ氏が断念すれば、米議会の対中強硬派は猛反発し、バイデン氏に批判が集中する。」
バイデン大統領は「米軍は(下院議長の訪台が)良い案だとは思っていない」と公言した。大統領職継承順位が副大統領に次ぐ「下院議長」の公式外遊には米軍機が使用されるからだろう。だが、三権分立の下で行政府が立法府の動きを止めることはできない。連邦議員の多くもペローシ訪台を支持しているようだ。
米中にとってはいずれも「進むも地獄、退くも地獄」である。今年の共産党大会は三期目を目指す習氏にとって正念場だから、このタイミングでの米国要人訪台強行で中国は米国に「喧嘩を売られた」と思うのではないか。されば、習氏にとって安易な妥協は国内政治的にも極めて難しいのだろう。
中国は「軍事的対抗措置」の可能性を示唆しているようだが、米国の強硬派も黙ってはいない。「やれるものならやってみろ」「万一、米軍との軍事衝突にでもなれば、逆に米軍を不必要に挑発した習近平氏が『危険な冒険主義者』と批判されかねない」と考える。どうやら米中チキンゲームが始まったようだ。来週はこの顛末を書こう。
〇アジア
ウクライナや台湾の陰で、ミャンマー国軍が着実に権力基盤を固めている。クーデターに伴う非常事態宣言を来年2月1日まで6カ月延長するそうだ。先週はNLD(国民民主連盟)元議員ら4人の死刑を執行したばかり。日本人ジャーナリスト逮捕との報道もあった。残念だが、これがミャンマーの現実なのだろう。
〇欧州・ロシア
英紙が、2013年にチャールズ皇太子が自己の慈善基金への寄付金100万ポンドをオサマ・ビンラーディン容疑者の異母兄2人から受け取ったと報じた。基金関係者の一部の反対にもかかわらず、皇太子は受け取ったというが、一体何が問題なのか。感情的には問題が残っても、ビンラーディン一族全員が犯罪者という訳ではなかろう。
〇中東
ベイルートの港湾地区で2年前の大規模爆発で損傷した穀物用サイロの一部が火災で炎上し倒壊したという。原因は夏の気温上昇に伴い、サイロに残っていた穀物が発酵したことだそうだが、問題は2年間、損傷したサイロが放置されたことではないのか。中東のパリと言われたレバノン・ベイルートは完全に終わったようだ。
〇南北アメリカ
バイデン大統領が再びコロナで陽性になった。体調は良いというが、年齢が年齢だけに何が起きるか分からないと思っていた方が良い。されば、今年の中間選挙は勿論、2024年の大統領選挙のことは予測しても意味がないだろう。バイデン、トランプともに「出馬断念」という可能性だって十分あるのだから。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
7月5日‐8月6日 国際法委員会、第73回会議、第2部(ジュネーブ)
7月6日‐8月20日 大陸棚限界に関する委員会、第55回会議(ニューヨーク)
7月21日-8月7日 長野県知事選告示
8月
<1日-7日>
1日 ファルコン9、韓国パスファインダー月周回機 (KPLO)(ケープカナベラル空軍基地)
1日 ユーロスタット、6月失業率発表
1日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表
1日 ウクライナ1~6月鉱工業生産指数発表
1日‐8月26日 核拡散防止条約(NPT)再検討会議(岸田文雄首相が演説)(ニューヨーク)
2日 米国予備選挙(アリゾナ州、カンザス州、ミシガン州、ミズーリ州、ワシントン州)
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日‐8月3日 ブラジル中央銀行、Copom
2日‐8月6日 国際海底機関、総会、第27回会議(キングストーン)
2日‐8月27日 第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議(ニューヨーク)
3日 ファルコン9、 Korea Pathfinder Lunar Orbiter(KPLO)(ケープカナベラル空軍基地)
3日‐9月17日 軍縮会議 第三部(ジュネーブ)
4日 米国6月貿易統計発表
4日 米国予備選挙(テネシー州)
5日 メキシコ7月自動車生産・販売・輸出統計発表
5日 ロシア・トルコ首脳会談(ロシア南部ソチ)
5日 米国7月雇用統計発表
6日 岸田首相が広島平和記念式典に出席(広島市)
7日 長野県知事選投開票
<8日-14日>
9日 米国予備選挙(コネチカット州、ミネソタ州、バーモント州、ウィスコンシン州)
9日 メキシコ7月CPI発表
9日 ブラジル7月IPCA発表
9日‐8月13日 人権理事会、諮問委員会、第28回会議(ジュネーブ)
9日‐8月31日 第107回人種差別撤廃委員会(ジュネーブ)
10日 7月の米CPI(労働省)
10日 ブラジル6月月間小売り調査発表
10日 中国7月CPI発表
11日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
12日 ウクライナ7月CPI発表
12日 フランス7月CPI発表
12日 インド6月鉱工業生産指数発表
13日 米国予備選挙(ハワイ州)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問