外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年7月29日(金)

デュポン・サークル便り(7月29日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、「もやもやしていて(hazy)、暑くて(hot)、蒸す(humid)」というワシントンらしい毎日が続いています。にわか雨や雷雨もありますが、そのあとに待っているのは、ますます蒸し暑い天気。日没後、最低気温が20℃を割らない日も続きました。日本も相変わらず暑い毎日が続いていると思いますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

アメリカでは11月の中間選挙をにらみつつ、特に共和党側で2024年大統領選挙に向けた動きが少しずつ活発になってきました。「まだやるのかい!」と思わず突っ込みたくなるほど再出馬に意欲を見せているトランプ前大統領はもちろん、奇天烈な上司だったトランプ前大統領のおかげで、かなり実際よりもイメージアップしている感が否めないペンス副大統領もいよいよ、2024年大統領選挙出馬を視野にいれていることが明らかな動きを見せ始めました。

ペンス前副大統領本人の口からは直接的なトランプ前大統領批判の言葉は出ていないものの、昨年秋以降、自身の政治的活動を再び活発化させており、ウィスコンシン州やアリゾナ州などの共和党予備選挙で、トランプ前大統領が推薦する候補と自身が推薦する候補が対立する例が出てきています。さらに、全米各地で行っている演説では、「共和党がフォーカスするべきは、4年前の選挙に対する不満や不平ではなく、バイデン現政権の政策上の誤りと、それを共和党としていかに軌道修正するか、という未来だ」というメッセージを一貫して打ち出しており、直近では、726日に、ワシントンDCの保守系シンクタンク、ヘリテージ財団で行った演説で「自由に向けたアジェンダ(Freedom Agenda)」を披露。「一部の人は、まだ過去にこだわることを選んでいる。。。が、我々保守派は未来に目を向けるべきだと信じる」と述べ、連邦議会・州知事及び州議会で「安定して多数党の座を獲得する」ことの重要性を強調し、そのためには「保守派は前を向かなければならない」と訴えました。このペンス前副大統領による演説は、昨年の大統領就任式後ワシントンを離れてから初めてとなるトランプ前大統領のワシントン訪問と重なったため、米国内の主要メディアは「トランプとペンスの空中戦」などとこぞって報じました。

このような状況を指して、ある米政治記者は「共和党内で『トランプVSペンス』の構図が確実に生まれつつある。その違いは前者が未だに2020年大統領選挙で広範な選挙不正があったと訴え、いわば『過去の話』に因縁をつけることが主要なメッセージであるのに対して、後者は、『4年前に起こったことにいつまでもとらわれていないで前を向かなければ共和党の未来はない』と主張するグループだ。特に、ペンス陣営は、トランプ前大統領の支持層によるサポートを得る努力をしつつ、その一方でトランプ前大統領を個人的に嫌いではあるが、もともと保守的な共和党内の支持層を掘り起こす努力も同時にしようとしている」と分析しています。

ペンス前副大統領以外にも、共和党側では、ラリー・ホーガン・メリーランド州知事、ロン・デサントス・フロリダ州知事、グレン・ヨンキン・バージニア州知事などの名前が既に取りざたされ、まだ中間選挙も終わっていないというのに、俄然、共和党側は2024年大統領選を見据えた動きが活発化し始めました。

これに対して、民主党側は、どうも元気がありません。「インフレ」「ガソリン価格高騰」「急激な金利上昇による景気後退の懸念」という3重苦に悩まされているだけではなく、バイデン政権側から出てくるのは「環境対策のための法案」「人種間の融和のための措置」など、耳に心地はいいものの、国民の実生活に必ずしも直結しているとは言えないイニシアチブばかり。共和党側に「浮世離れしている」「国民の感覚とかけ離れている」など、批判の材料を与えるばかり。このため、バイデン大統領の支持率も30%台まで落ち込み、中間選挙で民主党が厳しい戦いを強いられるのはほぼ確実です。

それだけではありません。ここに来て、カマラ・ハリス副大統領の存在感のなさも、2024年大統領選挙を考えると民主党陣営にとっては気になるところです。副大統領候補に指名された時こそ、「初の有色人種の女性副大統領候補」として話題をよんだものの、政権発足後のハリス副大統領は、精彩を欠いていると言わざるを得ません。それだけならまだいいのですが、定期的に「スタッフが長続きしない」「モラハラ上司」などというリーク記事がワシントン・ポスト紙などで出回る始末。バイデン大統領が2期目を目指すのかどうかが今一つ見えないため、動きにくい状況はあるのかもしれませんが、本来であれば、「現職副大統領=次期大統領候補」という雰囲気がそろそろ出てきてもおかしくない頃。ですが、このままだと民主党内から対立候補が予備選出馬を表明してもおかしくない状態です。

こんな中、本稿が既に掲載されているころのワシントン時間729日(金)には林外務大臣が、日本の閣僚や有名な政治家の方が必ず演説する戦略国際問題研究所(CSIS)でスピーチします。ですが、タイミングは、この手のイベントの集客には最も不向きな金曜日の午後、しかも、質疑応答も含めて全体でたった45分間のイベント。多忙な日程の合間に、なんとかワシントンで発信をしたいーという意欲は十分に理解できるのですが、それでも、「イベントに不向きな日時」「短すぎるイベント時間」のダブルパンチ。当然、日本のメディアは大きく報じるのでしょうが、さて、実際にワシントンで働くアメリカ人に、どれくらいメッセージが届くのでしょうか・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員