外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年6月28日(火)

外交・安保カレンダー (6月27-7月3日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


今週はG7NATOの首脳会議がドイツとスペインで開かれ、岸田首相が両方に出席する。日本では参議院選挙の真っ最中だが、その日本の首相がNATO首脳会議に招かれるなんて、一昔前なら考えられなかったことだ。もっとも、韓国や豪州の首相も招かれているので、国際社会の関心が中国にあることは間違いないのだが。

さて、米国での報道はどうかとCNNを見たら、G7関連の報道は少ない。圧倒的に多いのは、50年振りで米最高裁が中絶に関する判断を変えたニュースだ。先週最高裁が、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を原則禁止するミシシッピ州法を合憲とし、1973年の「中絶は憲法で認められた女性の権利」とする判決を覆したのである。

社会問題でリベラルのCNNでは「保守派による女性の権利侵害」といった報道が目立つが、問題の本質は「女性の解放」ではない。このことを実感したのが、今CNNで流れている臨時ニュースだ。米最高裁が「公立学校区でフットボールの試合後にチームの監督がフィールドで祈ることを禁じるのは違憲」と判断したのである。

こうした事態は直接的には、トランプ政権が最高裁に3人の保守系判事を送り込んだ結果なのだが、これを単に「トランプの置き土産」と嘆くのも正しくない。筆者の見るところ、この問題の本質は、自由の国アメリカで、どこまで「宗教的価値を尊重する自由」が認めらえるか、という歴史的経緯のある問題である。

誤解を恐れずに言えば、米国において「人工妊娠中絶」問題は「信仰」の問題である。古くは優生保護法の時代から現在の母体保護法まで、一般に日本では「中絶」を「信仰」や「倫理」の問題とは捉えず、むしろ「社会問題」として扱ってきたのではないか。それが悪いという訳ではないが・・・。

いずれにせよ、今の米国の内政・外交は「腸捻転」に近い。国内ではリベラル的価値の退潮と保守派による宗教的自由の復活が進む中、対外的にはウクライナをめぐり、普遍的価値と力による現状変更反対を声高に叫ぶ。しかも、バイデン政権の外交はオバマ政権時代の「因果応報」だ。詳しくは今週の産経新聞をご一読願いたい。

〇アジア
G7サミットが途上国などへの「インフラ投資を促進する新たな枠組み」の創設で合意、岸田首相は、中国の途上国支援を「不公正で不透明」と厳しく批判したそうだ。良くぞ言った。中国の「一帯一路」に対抗することを鮮明にした、と報じられた。これまで言えなかったことを日本は漸く言い始めたのだが、個人的には実に感慨深い。

〇欧州・ロシア
露大統領がウクライナ侵攻後初の外遊でタジキスタンとトルクメニスタンを訪問する。報道では「演説の録画放送などが増え、健康不安説や政権内でのクーデター準備説といった臆測が浮上」というが、外遊ができるなら、それほどでもないのか。それとも、憶測鎮静化の苦し紛れの手段なのか。G7とNATO首脳会議は来週コメントする。

〇中東
エジプトで求婚を断った若い女性が白昼堂々、求婚男に路上で殺害される事件があった。同国のジェンダーに基づく暴力の実態を浮き彫りにした、と報じられた。保守派からは「自分の命が大切だと思うなら、自分を求める相手に殺されないよう、完全に覆った姿で外出しなさい」と言ったそうだが、嗚呼、これがエジプトの実態なのか。

〇南北アメリカ
南部ジョージア州でサンドイッチのマヨネーズの量を巡るいざこざから客が発砲し、撃たれた店員が死傷したそうだ。こうした殺人事件自体、今の米国では大したニュースではない。それにしても、「マヨネーズの量が多すぎる」という理由だけで人を殺せる米国って、一体どういう国なのかね。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<6月>

14-7月2日 女性差別撤廃委員会 第82回 (ジュネーブ)

14-7月9日 人権理事会、第50回会議 (ジュネーブ)

26-28日 G7首脳会議(ドイツ・エルマウ)

26-29日 米国商務省によるセレクトUSA投資サミット開催

27日 WTO紛争解決機関会合

27日 メキシコ5月貿易統計発表

27-7月1日 国連海洋会議(リスボン)

28日 米国予備選挙決選投票(ミシシッピ州、サウスカロライナ州)

28日 米国予備選挙(コロラド州、イリノイ州、ニューヨーク州、オクラホマ州、ユタ州)

28日 メキシコ5月雇用統計発表

28日 ファルコン9、静止通信衛星SES-22(ケープカナベラル空軍基地)

28-29日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、移民の密輸に関する作業部会、第9回会議(ウイーン)

28-29日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、第58回会議(ウイーン)

28-7月2日 持続可能な開発目標の実施を支援する国連会議、第14会議(リスボン)

28-7月7日 第60回危険物輸送専門家分科会(ジュネーブ)

28-7月16日 UNCITRAL、第55回会議(ニューヨーク)

28-7月28日 人権委員会、第135回会議(ジュネーブ)

29日 ロシア1~5月鉱工業生産指数発表

29日 新潟県知事選投開票

29日 コロンビア大統領選挙

29日 米国第1四半期GDP発表(確定値)

29日 LauncherOne, QUEYSSAT、CTM-FD、GPX-2 (カリフォルニア州モハベ)

29日 ファルコン9 、静止通信衛星SES-22 (ケープカナベラル空軍基地)

29-30日 NATO首脳会議(マドリード)

29-7月1日 軍縮問題に関する諮問委員会、第78回会期(ニューヨーク)

30日 FAO、理事会、第167回セッション(ローマ)

30日 OPECプラス閣僚級会合(オンライン)

30日 フィリピン新大統領就任

30日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表

30日 ドイツ5月労働市場統計発表

30日 米国2022年会計年度NDAAに基づくラテンアメリカおよびカリブ海地域における中国の影響力拡大に関する国務省報告書の議会提出期限

30-1日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、人身売買作業部会、第12回(ウイーン)

<7月>

1日 香港返還から25年

4-6日 日ASEAN交通次官級会合

5日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表

5-9日 人権理事会、先住民族の権利に関する専門家機構、第15回会議(ジュネーブ)

5-23日 国際法学セミナー 第56回(ジュネーブ)

5日- 8月6日 国際法委員会、第73回会議、第2部(ジュネーブ)

6日 米FOMC議事要旨

6-9日 化学兵器禁止機関 執行理事会、第100回会議(デン・ハーグ)

6-8月20日 大陸棚限界に関する委員会、第55回会議(ニューヨーク)

7日 5月の米貿易収支(商務省)

7日 米国5月貿易統計発表

7日 メキシコ6月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表

7日 ヴェガC(Vega-C)、イタリアのレーザ測距衛星LARES-2(仏領ギアナ基地)

7-8日 G20外相会合(インドネシア・バリ)

7日 ファルコン9、スペースX社スターリンク(Starlink)衛星53機

8日 米国6月雇用統計発表

8日 ブラジル6月IPCA発表

8日 6月の米雇用統計(労働省)

9日 中国6月貿易統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問