外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年6月15日(水)

デュポン・サークル便り(6月15日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは一気に真夏の陽気となりました。最低気温が20℃近く、朝起きたときにはすでに生暖かい空気です。先週までは、朝9時台でもさわやかな風が吹いていたというのに、最近の気温の変動には、ついていけません。日本でも、関西・中部地方より先に関東が梅雨入りしてしまうなど、普通ではない梅雨時を迎えているようですが、日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけて、ワシントンでの最大の話題は、なんといっても、202116日の連邦議会議事堂襲撃事件へのトランプ前大統領の関与について調査している下院の特別委員会、通称「16日委員会」が始めた公開公聴会です。公聴会開催の目的は、委員会による調査結果について、各論点についての概要を公開すること。全部で8回程度行われる予定のこの公開公聴会シリーズ、終了後に中間報告書が、さらにその3か月後の9月には最終報告書が出る予定だとか。

外交問題では、先週、インド太平洋地域最大の安全保障関係の国際会議である、通称「シャングリラ会議」がシンガポールで開かれ、日本の岸田総理が基調講演を行いました。会議中は、カナダの国防大臣と中国人民解放軍の出席者が、質疑応答の中で非難合戦を展開したり、個別セッションでジョン・アキリーノ米インド太平洋軍司令官が「現在の世界情勢は、第二次世界大戦時以来、最も危険な状態にある」と発言して話題になりました。それでもアメリカ国内の関心は、断然、「16日委員会」の公開公聴会に向いています。

既に69日に第1回、13日には第2回が行われた公開公聴会。1回目が4時間近く、2回目も2時間越えのそれぞれ長丁場でした。公聴会の形式も出席した証人がひたすら議員からの質問に答える通常のスタイルはとらず、それぞれの論点ごとに、その日、出席している証人による生の証言が、すでに委員会が非公開で行った聞き取りのビデオ録画の中の証言内容を補完する形で進む、というこれまでとは少し異なる形をとっています。

ビデオ録画とはいえ、イバンカ・トランプやジャレッド・クシュナー、ウイリアム・バー前司法長官といった面々が、調査委員会の質問に答えて

「(トランプ前大統領に)選挙で大規模不正疑惑がある、という主張は嘘っぱち(bullshit)だと伝えました」(バー前司法長官)

「(選挙結果について)開票が続いているときに、立場を固めてしまうのはよくないと思っていました」(イバンカ・トランプ)

「(トランプ前大統領に対して)自分なら、あなたのような対応は取らないと伝えました」(ジャレード・クシュナー)

などなど発言しているようすを見ると、かなりのインパクトです。さらに13日に実施された第2回公聴会では、2020年大統領選挙で、激戦州の一つだったアリゾナ州でバイデン候補(当時)に当確を他社に先駆けてFOXニュースが出した際の報道ディレクターだったクリス・スタイヤ―ウォルト氏が出席し、

「過去20年近く、共和党支持者は選挙当日に投票所に足を運んで投票することを好むのに対して、民主党支持者は期日前投票や郵送投票を好む、という傾向が強まってきており、このため、選挙当日は開票結果が共和党候補者に有利に進んでいるように見えても、期日前投票などで投票された票が開票されるにしたがって状況が大きく変わる、という傾向が強まってきていました。2020年の選挙では、これにパンデミックによる「3密」を避けたい不安要因が加わり、期日前投票などで一票を投じる人の数が激増することは、選挙前から分かっていました。」

「『当確』は社長はじめ数名の幹部が全員同意しなければ絶対に出しません。2020年の選挙では、アリゾナ州は、特に、激戦州の一つと言われていたため、『当確』を出すにあたっては慎重に慎重を期しています。」

「通常、正式な手続きを得て行われる票集計のやりなおしで動くのはせいぜい数百票、多くて1500票程度。(トランプ前大統領が主張していたような)数州に亘って何万票もが不正に操作されたなどというケースは、これまでの選挙史上、一度もありません」

などと発言。なんと言っても、「親トランプ」メディアの代表格と言われていたFOXニュースで重要なポジションにいた人の発言であるだけに、別の意味でインパクトがありました。

あと6回残っている公開公聴会に、いったい誰が出席するのか、またどんな論点がカバーされるのか、まだまだ興味は尽きません。。。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員