キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年6月7日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週ご紹介する英語の蘊蓄はinterceptとinterfereの違いである。世の中がウクライナでの戦況に一喜一憂する中、6月5日、豪州国防省は南シナ海公海上空で起きた中国空軍戦闘機との「事件」について声明を発表した。このニュースは早速日本語でも報じられたが、その見出しは不思議なくらい各社で異なっていた。
どれも「間違い」とは言わないが、どうも豪州側発表とはニュアンスが違う。では豪国防省は何と言っているのか?英語の原文はこうだ。
Defence advises that on 26 May 2022, a RAAF P-8 maritime surveillance aircraft was intercepted by a Chinese J-16 fighter aircraft during a routine maritime surveillance activity in international airspace in the South China Sea region.
文字通り訳せば、「5月26日、豪空軍P8哨戒機が南シナ海の公海上空で通常の海洋哨戒活動を実施中、中国のJ16戦闘機に迎撃された」となる。軍事用語としてのインターセプトは「通信を傍受する」「敵機を迎撃する」ことであり、確か、航空自衛隊ではインターセプトを「要撃」(待ち伏せて攻撃すること)と訳しているはずだ。
ならば、正確な翻訳は「迎撃」だろう。それがなぜ「妨害」になるのか。ちなみに、和英辞書には、「妨害」とは 1 halter, cramp, strangle, hamper · 2 interrupt, disrupt · 3 hinder, handicap, hamper · 4 hinder, impede · 5 interpose, intervene, step in, interfere.とある。されば、Interefereは「妨害」、interceptは「迎撃」であるはずだ。
この点についてしっかり訳しているメディもある。さすがはWall Street Journal、その日本版【社説】では「中国がオーストラリア新首相「迎撃」、中国軍の戦闘機、南シナ海付近の豪軍哨戒機に対し危険行動」と極めて正確に訳している。保守系の英字紙だから、当然なのだろうが・・・。
これに対し、ある外国通信社記事の日本語版は当初、「豪哨戒機、南シナ海で中国軍機から危険な迎撃受ける」としながら、その後ヘッドラインを「危険な妨害受ける」に変えたらしく、ご丁寧に (見出しと本文の「迎撃」を「妨害」に修正しました)とまで注釈を付けている。何か後ろめたいことでもあるのかねぇ、これ以上は言わないが・・・。
豪政府によれば、「中国戦闘機は哨戒機と並んで飛行した後、前方に移動し、追尾ミサイルを攪乱乱するチャフやフレアを放出し、哨戒機とその乗員に「安全上の脅威となる危険な行動を取った」という。確かにこれは「攻撃」に近い行為だ。これって「既視感」がある。2001年4月1日、南シナ海で中国軍機が米偵察機に衝突した事件だ。
結論から言えば、中国は再び潜在的敵対国の政権交代後、新リーダーをテストしたのだろう。件のWall Street Journal社説も「アンソニー・アルバニージー氏がオーストラリア首相に就任して1カ月足らずだが、中国はすでに同氏が前任者のように脅しに耐えられるかどうかを試しているようだ」と書いているので、間違いないと思う。
2001年4月といえば、GWブッシュ米新大統領就任から3カ月弱、中国は新大統領の意図を試したのだろう。その後も、同様の事件をオバマ大統領就任後、トランプ大統領就任後にも起している。こんなことをやれば逆効果になることをなぜ人民解放軍の賢い軍人たちは理解できないのだろうか?
〇アジア
ウクライナ紛争の陰でといえば、韓国軍合同参謀本部は、米韓両軍が6日、北朝鮮が前日短距離弾道ミサイル8発を発射したのに対抗し、日本海に地対地ミサイル「ATACMS」8発を発射したと発表したそうだ。韓国も漸く正しい対応ができるようになったのかな。引き続きソウルの出方を見極めていくべきだ。
〇欧州・ロシア
ロシアがウクライナ東部での攻勢を強め、セベロドネツク近くの市街地を掌握しつつあるとする一方、ウクライナ側は近隣の2つの集落でロシア軍を撃退したと主張、両軍による一進一退が続いている。東部でのロシア優勢は変わらないが、セベロドネツクで苦戦するようでは、ロシアもそろそろ出口を模索する必要があるのだろう。
〇中東
ターリバーン暫定政権の命令に抵抗し、テレビ報道番組で顔を布で覆わず出演を続け降板させられた女性司会者が復帰したという。局側が番組直前に降板を撤回し再び顔を出したままニュースを伝えたそうだが、それでも髪は見せない「完全防備」型。他のイスラム諸国と比べても、まだまだ「保守的」だ。「タリバンと闘い続ける」そうだから、頑張ってほしい!
〇南北アメリカ
NYTを読んでいたら、最近の一連の米国共和党予備選挙で、トランプ氏推薦の候補が伸び悩んでいるという報道を目にした。本当なのかね。希望的観測だったら、大誤報になるのだが。こういう時に読みたいのが故中山俊宏・慶大教授の論考だったのに、彼はもういない。中山氏なら現状を如何に分析しただろうか、余りに惜しい。合掌。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
5月24日-6月25日 ICAO、理事会相、第226回会議 (モントリオール)
5月28日-6月12日 ILO、国際労働会議、第110回 (ジュネーブ)
5月31日-6月11日 犯罪目的のための情報通信技術の使用に対抗するための包括的な国際条約を策定する特別委員会、第2回会議
5月下旬-6月中旬 第15期第3回ベトナム国会
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 米国4月貿易統計発表
7日 米国予備選挙(カリフォルニア州、アイオワ州、ミシシッピ州、モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州)
7日 子どもの権利条約第19回締約国会議 (ニューヨーク)
7日 訪日外国人観光客受け入れに関するガイドライン公表
10日 インド4月鉱工業生産指数発表
7-11日 国連開発計画(UNFPA)/UNOPS理事会、年次総会 (ニューヨーク)
7-11日 IAEA、理事会 (ウイーン)
7-11日 海洋と海洋法に関する国連オープンエンド非公式諮問プロセス、第22回会合 (ニューヨーク)
8日 ユーロスタット、2022年第1四半期実質GDP成長率発表
8日 ファルコン9、スペースX社商用補給機ドラゴン25号機(Space X CRS-25 (SpX-25)/Dragon) (ケネディ宇宙センター)
8日 ロシア5月CPI発表
8-9日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会
8-18日 拷問禁止委員会、拷問その他の残虐、非人道的又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会、第47回会議 (ジュネーブ)
9日 中国5月貿易統計発表
9日 メキシコ5月CPI発表
9日 ブラジル5月IPCA発表
9-10日 経済社会理事会、経営部門 (ニューヨーク)
10日 ファルコン9、通信衛星Nilesat-301 (ケープカナベラル空軍基地)
10日 参院内閣委員会で、経済安全保障推進法案採決
10日 ロシア中央銀行理事会
10日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル4月月間小売り調査発表
10日 中国5月CPI発表
10日 米国5月CPI発表
12日 ILO、統治機関及びその委員会、第345回会議 (ジュネーブ)
12日 フランス国民議会(下院)選挙(第1回投票)
12-15日 第12回WTO閣僚会議(ジュネーブ)
<6月13‐6月19日>
14日 米国予備選挙(メーン州、ネバダ州、ノースダコタ州、サウスカロライナ州)
14-15日 米国FOMC
14-15日 ブラジル中央銀行、Copom
14-18日 国連海洋法条約第32回締約国 (ニューヨーク)
14-7月2日 女性差別撤廃委員会 第82回 (ジュネーブ)
14-7月9日 人権理事会、第50回会議 (ジュネーブ)
15日 通常国会会期末
15日 フランス5月CPI発表
15日 中国5月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15日 米国5月小売売上高統計発表
15-17日 障害者権利条約締約国会議、第15回会議 (ニューヨーク)
15-18日 サンクトペテルブルク国際経済フォーラム (サンクトペテルブルク)
15-18日 UNICEF、理事会、年次総会 (ニューヨーク)
15-19日 FAO、会議、第42セッション
16日 ロシア2022年第1四半期経済活動別GDP統計発表(速報値)
17日 ユーロスタット、5月CPI発表
18日 市民的及び政治的権利に関する国際規約第39回締約国会議 (ニューヨーク)
19日 フランス国民議会(下院)選挙(決選投票)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問