外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年6月6日(月)

デュポン・サークル便り(6月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週末のメモリアル・デーの3連休が過ぎ、アメリカでは、本格的に夏休みモードに入り、金曜日の午後2時を過ぎると、早くも高速道路が込み始める季節となりました。真夏の陽気となった先週末とはうって変わって、今週末ワシントンは、カラリと晴れ、湿度も低く、さわやかなお天気が続いています。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

524日付本稿では、乳幼児用粉ミルクの供給不足で大騒動になっているエピソードをお伝えしましたが、ここ23週間、アメリカを騒がせているもう一つの国内問題が銃規制の問題です。514日にニューヨーク州バッファローのスーパーで銃乱射事件が発生。13名の犠牲者のうち11名が黒人、犯人男性の動機が黒人の殺害という、いわゆる「憎悪犯罪(ヘイト・クライム)」であったことが明らかになり、アメリカの人種問題の根深さを改めて思い知らされることになりました。バイデン大統領もアジア歴訪出発直前にバッファローを訪問、憎悪犯罪撲滅を訴えました。

さらに、バイデン大統領がアジア歴訪のハイライトとして位置づけていた米日豪印(クアッド)首脳会談を実施した524日には、テキサス州で銃乱射事件が発生。サンアントニオ市郊外のウバルディという小さな町でロブ小学校という地元の公立小学校を舞台に発生したこの事件では、18歳のヒスパニック系男性が小学校の建物の裏側の施錠されていないドアから校舎に侵入。4年生の教室に1時間20分近くに亘り立て籠もり、その間に、立て籠もっている教室内にいた児童19名、教師2名が射殺されるという痛ましい事件となりました。この事件は、犠牲者の圧倒的多数が児童だったことや、犯人が校舎内に長時間とどまっていたことなどが、20121214日にコネチカット州ニュータウンのサンディ・フック小学校で発生した「サンディ・フックの虐殺」以来のものであったこともあり、とりわけ大きく注目されました。事件発生直後の数日間は、隣の教室にいた児童が、犯人の発砲によりガラスが破れた窓から脱出し命拾いをした話などが、生々しくテレビやラジオで放送されていました。

さらに追い打ちをかけるように61日にはオクラホマ州タルサの聖フランシス病院で銃乱射事件が発生。この事件の犯人は45歳の男性で、この病院で腰の手術を受けた後の術後の回復が思わしくないのを逆恨みして、手術を担当した黒人の整形外科医を射殺、もう一人の医師、受付の女性、その日たまたま治療に訪れていた患者の男性の計3人が巻き添えになって射殺され、計4人の犠牲者が出ました。

わずか3週間余りの間に立て続けに深刻な銃乱射事件が3件も発生したことで、銃規制問題が再度、注目されることになりました。62日の夜には、アジア歴訪から帰国して時差ボケから回復したかどうか、というバイデン大統領が、ホワイトハウスから演説を行い「もう十分、十分だ!」と時には感情をあらわにしながら強い口調で、連邦議会に対して、現行のものより、より厳しい銃規制制度を作るための法律を成立させるように訴えました。

それでも、アメリカは、そもそもが、簡単な犯罪歴チェックなどを受ければ、一般人でも小型ピストルや猟銃はもちろんのこと、散弾銃やマシンガンまで買うことができてしまうお国柄。テキサス州では、ウバルディのロブ小学校で銃乱射事件が起きた同じ週に、ヒューストンでは大規模な銃の展示・販売会が予定どおり執り行われ、この展示・販売会を主催した全米ライフル協会に非難が集中したばかり。自衛を目的とした武器を国民が保有することを認めた憲法修正第2条を根拠に、いかなる銃規制にも反対する勢力の声は強く、意味のある銃規制を立法化することができないまま、ずるずると現在に至っているのが現状です。

国内が銃規制問題で騒然とする中、当然、バイデン大統領のアジア歴訪関連ニュースは、特に一般の人々の間では話題にすら上がらず。得意分野の外交で支持率回復を図りたかったバイデン政権にとっては残念な結果となりました。今週から、昨年16日の連邦議事堂襲撃事件を調査していた調査委員会による公聴会も最終局面に入ります。中間選挙がいよいよ視野に入ってくるこの夏、バイデン政権はこのような種々の国内問題をうまくさばいていくことができるでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員