キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年5月31日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週ご紹介する英語の蘊蓄はnot supportとopposeの違いである。今回も米中外交関係を例に、ご説明しよう。先々週はacknowledgeの意味を詳しく説明し、米国は「中国は一つであり、台湾は中国の一部」とする中国の立場をacknowledge(認知)はするが、必ずしもrecognize(承認)はしていない、と申し上げた。
では「台湾独立」はどうか。5月26日、ブリンケン国務長官はワシントンのジョージワシントン大学で行った対中関係に関する外交演説の中で概要こう述べている。「米の政策は不変であり、①台湾関係法、3つの共同声明、6つの保証に基づく「一つの中国」政策を維持し、②一方的現状変更に反対し、③台湾独立を支持せず、④意見の相違を平和的に解決することだ。As the President has said, our policy has not changed. The United States remains committed to our “one China” policy, which is guided by the Taiwan Relations Act, the three Joint Communiques, the Six Assurances. We oppose any unilateral changes to the status quo from either side; we do not support Taiwan independence; and we expect cross-strait differences to be resolved by peaceful means.」
台湾独立部分の原文はWe do not support Taiwan independence。文字通り読めば、米国は台湾独立を支持しない、となる。これに対し、中国は長年米国に対し公式に 「台湾の独立に反対する」旨表明するよう強く働きかけてきたが、幸い、これまでのところ、米国は「台湾独立に反対する」とまでは表明していない。
確か、事情を知らないホワイトハウスの高官が一時そうした中国の誘いに乗りそうになってハラハラした思い出があるが、誰だったかは言わない。いずれにせよ、現在米国は「台湾独立」を「支持はしない」ものの、「反対する」とまでは決して言わないのである。でも、この2つの表現、似たようなものではないか、一体どこが違うのか。
この点を詳しく論じた米中の公式文書は見当たらない。されば、今は筆者が勝手に推測するしかない。筆者の見立てはこうだ。つまり、中国は米中国交正常化前から、「台湾の独立に反対」してきたが、米中国交正常化の際、ニクソン大統領は中国に対し「米国は台湾独立運動を支持しないが、それを抑圧することはできない」と保証したPresident Nixon assured the People's Republic of China during his historic 1972 trip to Beijing that the U.S. would not support, but could not suppress, the Taiwan independence movement.」ようである。
つまり、米国は台湾が独立を宣言してもそれを支持することはないが、だからと言って、台湾独立の動きを米側が一方的に抑圧したり、力によって止めさせたりすることもできない。その意味で、米国は台湾独立に「反対する」という中国側と同じ表現を使うことはしない、というのがニクソン以来の米国の立場ではないだろうか。
されば、「支持しない」と「反対する」はほぼ同義語どころか、かなりニュアンスの差がある表現ということだ。最近、国務省HPの台湾ファクトシートで「台湾独立を支持しない」と書かなくなったことに注目する向きも一部にあったが、米国の「台湾独立不支持」は1972年のニクソン訪中時から変わっていないと見るべきである。
〇アジア
中国外相がフィジーで太平洋島嶼国10カ国の外相と会合したが、中国が策定し提案した貿易と安全保障に関する声明は結局合意に至らず、安全保障の部分はなかったという。中国はソロモンに続き南太平洋での安全保障関係の枠組み拡大を狙ったが、米豪等が何とか食い止めたのか。だが、こんなことで懲りるような中国ではない。
〇欧州・ロシア
EU首脳会議で「ロシアから加盟国に供給される原油および石油製品を対ロシア制裁第6弾の対象とするが、陸上パイプライン経由の原油は暫定的に制裁対象外とする」旨の声明に合意したそうだ。ハンガリーやスロバキアなどへのパイプライン経由の輸入は暫定的に対象外だが、それにしてもハンガリーが反対したのは如何なものか。
〇中東
ベイルートのパレスチナ人墓地で1972年のロッド空港乱射事件50年の記念集会が開かれ、レバノンに政治亡命している元日本赤軍の岡本公三が参加したという。彼ももう74歳だが、あの殺人犯を英雄扱いすることには、70年安保闘争の同時代人として、どうしても抵抗がある。パレスチナ人ももう少し理性的になって欲しいものだ。
〇南北アメリカ
米国テキサスの小学校で18歳の犯人による自動小銃乱射事件があり、児童19人と教師2人と犯人が死亡した。今年に入り、この種の乱射事件は全米で確か100回以上起きており、日常茶飯事だ。トランプ元大統領は「教師を武装させれば良い」と言うだけで最小限の銃規制強化にすら反対している。米国は全く変わらないようだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<5月30‐5月31日>
4-6月4日 子どもの権利委員会、第90回会議
24日-6月4日 国際麻薬取締委員会、第134回会議 (ウイーン)
24日-6月25日 ICAO、理事会相、第226回会議 (モントリオール)
28-6月12日 ILO、国際労働会議、第110回 (ジュネーブ)
30日 ウクライナ1~4月鉱工業生産指数発表
31日 ウクライナ2010-2021年GDP統計発表
31日 WHO、理事会、第151回会議 (ジュネーブ)
31日 WTO紛争解決機関会合
31日 EEU (ユーラシア経済連合) が域外への窒素肥料の輸出制限措置撤廃
31日 メキシコ4月雇用統計発表
31日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
31日 インド2021年度第4四半期GDP発表
31日 インド2021年度GDP暫定推計値発表
31日 米国1974年通商法301条に基づく対中追加関税の特定医療製品に対する適用除外期限
31日-6月11日 犯罪目的のための情報通信技術の使用に対抗するための包括的な国際条約を策定する特別委員会、第2回会議
下旬-6月中旬 第15期第3回ベトナム国会
<6月1‐6月5日>
1日 ユーロスタット、4月失業率発表
1日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
1日 ファルコン9、Sherpa-AC1、Sherpa-FX3、Alba Cluster 6、BlueWalker 3、2機のGHOSt、ÑuSat 等 (ケープカナベラル空軍基地)
1日 韓国統一地方選
1日 米地区連銀景況報告 (ベージュブック) (FRB)
1-4日 人権条約機関議長会議 第34回会議 (ニューヨーク)
2日 ブラジル第1四半期GDP発表
2-3日 ASEAN安全保障政策会議
2-11日 宇宙空間の平和利用に関する委員会、第65回会議 (ウイーン)
3日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
3日 米国5月雇用統計発表
3日 ソユーズ2.1a (Soyuz-2.1a) 、ISS無人補給機プログレスMS-20 (81P) (バイコヌール宇宙基地)
3-4日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、作業部会A及び非公式・専門家会合、第61回会合 (ウイーン)
4日 国連開発計画 (UNFPA) /UNOPS、ユニセフ、国連WFP、国連ウーマン理事会の合同会議 (ニューヨーク)
5日 メキシコ 州知事選挙 (アグアスカリエンテス州、ドゥランゴ州、イダルゴ州、オアハカ州、キンタナロー州、タマウリパス州)
5日 長征2F、神舟14号 (Shenzhou-14) (甘粛省 酒泉衛星発射センター)
<6月6‐6月12日>
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 米国4月貿易統計発表
7日 米国予備選挙 (カリフォルニア州、アイオワ州、ミシシッピ州、モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州)
7日 子どもの権利条約第19回締約国会議 (ニューヨーク)
10日 インド4月鉱工業生産指数発表
7-11日 国連開発計画 (UNFPA) /UNOPS理事会、年次総会 (ニューヨーク)
7-11日 IAEA、理事会 (ウイーン)
7-11日 海洋と海洋法に関する国連オープンエンド非公式諮問プロセス、第22回会合 (ニューヨーク)
8日 ユーロスタット、2022年第1四半期実質GDP成長率発表
8日 ファルコン9、スペースX社商用補給機ドラゴン25号機 (Space X CRS-25 (SpX-25) /Dragon) (ケネディ宇宙センター)
8日 ロシア5月CPI発表
8-9日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する (TRIPS) 協定理事会
8-18日 拷問禁止委員会、拷問その他の残虐、非人道的又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会、第47回会議 (ジュネーブ)
9日 林芳正外相が韓国へ出発
9日 中国5月貿易統計発表
9日 メキシコ5月CPI発表
9日 ブラジル5月IPCA発表
9-10日 経済社会理事会、経営部門 (ニューヨーク)
10日 ファルコン9、通信衛星Nilesat-301 (ケープカナベラル空軍基地)
10日 参院内閣委員会で、経済安全保障推進法案採決
10日 ロシア中央銀行理事会
10日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル4月月間小売り調査発表
10日 中国5月CPI発表
10日 米国5月CPI発表
11日 岸田文雄首相がフィンランドのマリン首相と会談
12日 岸田首相がEUのフォンデアライエン欧州委員長らと会談
12日 ILO、統治機関及びその委員会、第345回会議 (ジュネーブ)
12日 フランス国民議会 (下院) 選挙 (第1回投票)
12-15日 第12回WTO閣僚会議 (ジュネーブ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問