キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年5月9日(月)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週はwreak havocなる表現を取り上げる。5月2日付Bloombergは「China Lockdowns Wreak Havoc on Economy」、1日付Washington Postは「Hacktivists and cybercriminals wreak havoc in Russia」と題する興味深い記事をそれぞれ掲載している。表現ぶりから中露両国で何か大変なことが起きているらしいことが窺える。
wreakは「加える、浴びせる」、havocが「破壊、大荒れ」だから、wreak havocとは「大混乱を引き起こす」こと。上海などのロックダウンが中国経済に、またロシアではhacktivistsがロシアのサイバー空間に大混乱を起こしているのだ。中国のコロナ禍の話は見当がつくが、ロシアが「ハクティヴィストにやられる」とは一体どういうことか。
そもそもハクティヴィストとは何か。hackerとhacktivistは微妙に違う。元々hackとは(おのなどで乱暴に)〈ものを〉たたき切る,ぶった切る,切り刻む,めった切りにするという意味だ。それでコンピューター防御をたたき切り、それに侵入することが「ハッキング」となり、それを行う人が「ハッカー」と呼ばれるようになったのだと推測する。
これに対し、「ハクティヴィスト」とはhackとactivist(活動家)の合成語で、単なるハッカーではなく、政治的社会的な主義主張を実現するためハッキングする人々を指すらしい。主義主張を持ってハッキングをしたって、ハッカーはハッカーだと思うのだが、WP記事によれば、どうやら今回は彼らの攻撃対象があのロシアらしいのだ。
これまで「ハッキング」といえばロシアのお家芸、対露サイバー攻撃は難しいとされてきた。ところが今回は、世界中の有象無象のハッカーたち、その中には「ハクティヴィスト」や「犯罪者」も含まれる、がロシアのサイバー空間に侵入し、関係者の機微な情報や政府高官のメールアドレスとパスワードなどを大量に盗み出しているという。
詳細はWPの記事をお読みいただきたいが、筆者が得た教訓は示唆に富んでいる。すなわち、自前で強力なサイバー部隊を持つことも大切だが、紛争が起きた時、日本が大義名分をしっかり持ち、世界中のハクティヴィストに、問題ある国のサイバー空間に大規模攻撃をかけてもらえるよう促すことも、同様に重要なのだ。
先週ウクライナでの戦況はあまり動かなかった。やはりロシアは苦戦を続けているのだろう。戦争の一進一退は専門家にお任せするが、この戦争、当分続きそうな予感がする。プーチンが5月9日に「戦争動員」を宣言すれば、まさに「大祖国戦争2」となるが、今回のロシアには大義名分がない。されば、プーチンは何時までもつのか。
〇アジア
訪越中の岸田首相が越首相と露のウクライナ侵攻に関し、主権や領土の一体性尊重の重要性を確認、越側はウクライナへの人道支援として50万米ドルを拠出するという。ベトナムは対露制裁に加わっていないだけに、これは目立たないが、日本側がある程度説得に成功したということだろうか。来週韓国では新大統領就任式がある。
〇欧州・ロシア
EUの対露追加制裁でドイツが露産石油の輸入禁止反対を取り下げたが、ハンガリーは、露産エネルギー輸入制限につながる提案に対しても拒否権を行使する方針だという。ハンガリーはスロバキアとともに免除される可能性もあるというが、もしドイツがロシア産ガスの輸入を禁止すれば、日本はどうするのか。微妙なところだ。
〇中東
先週トルコ大統領がサウジを訪問し、国王、皇太子らとイフタール(断食明けの夕食)の後に会談した。エルドアンは保健、エネルギー、食糧安全保障、農業技術、防衛産業、金融におけるサウジとの協力強化が共通の利益だとTwitterに投稿したそうだ。両国が「一件落着」とすれば、米国はこの両国との関係をどうするつもりか。
〇南北アメリカ
先週バイデン大統領がホワイトハウス記者団主催の夕食会に出席した。同夕食会は強烈なジョークの応酬が恒例なのだが、トランプ氏は常に欠席、コロナ禍もあり、今回は6年振りという。バイデン氏は冒頭「米国でただ一つ、私より支持率の低いグループとご一緒できて大変うれしい」と言ったそうだが、こんな良き伝統は日本にない。
〇インド亜大陸
ドイツ首相が議長を務める6月下旬のG7サミットにインド首相を特別に招待するという。こんなことでインドを取り込めるとは思わないが、ドイツはルビコンを渡ったのか、実に興味深い動きだ。今週はこのくらいにしておこう。
<5月2‐5月9日>
26日-5月7日 人種差別の撤廃に関する国際条約の補完的基準の精緻化に関する人権理事会特別委員会、第12回会議 (ジュネーブ)
2-4日 アジア開発銀行 (ADB) 年次総会 (スリランカ・コロンボ)
3日 米国予備選挙 (インディアナ州、オハイオ州)
3日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
3日 ユーロスタット、3月失業率発表
3日 香港第1四半期GDP成長率 (速報値) 発表
3-4日 米国FOMC
3-4日 ブラジル中央銀行、Copom
3-15日 エレクトロン、シスルナー自律測位システム技術運用・航法実験 (CAPSTONE) 、フォトン (ニュージーランド マヒア半島)
3-28日 総会、第5委員会、再開会議第2部 (未定) (ニューヨーク)
4日 米国3月貿易統計発表
4-7日 人権理事会、人権及び多国籍企業その他の企業問題に関する作業部会、第32回会議 (ジュネーブ)
4-7日 民間軍事・治安企業の活動の規制、監視及び監督に関する国際的な規制枠組みの内容を詳述するオープンエンドの政府間作業部会、第3会議 (ジュネーブ)
4-14日 第44回情報委員会 (ニューヨーク)
4‐28日 OHCHR、第90回会議 (ジュネーブ)
4-6月4日 子どもの権利委員会、第90回会議
5日 英地方選・北アイルランド自治議会選
5-6日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、銃器作業部会、第9回会議 (ウィーン)
6日 米国4月雇用統計発表
6-7日 経済社会理事会、SDGsのための科学技術イノベーションに関するマルチステークホルダーフォーラム (ニューヨーク)
8日 香港特別行政区行政長官選挙
8日 ドイツ シュレスビヒ・ホルシュタイン州議会選挙
9日 中国4月貿易統計発表
9日 メキシコ4月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 フィリピン大統領および総選挙
9-10日 WTO一般理事会
<5月9‐5月16日>
10日 ブラジル3月月間小売り調査発表
10日 米国予備選挙 (ネブラスカ州、ウェストバージニア州)
10日 韓国新政権発足
10日 長征7、天舟4号 (Tianzhou-4) 、海南省 文昌衛星発射センター
10‐11日 G7デジタル担当相会合 (未定)
10-12日 欧州復興開発銀行 (EBRD) 年次総会 (モロッコ・マラケシュ)
10‐14日 原子放射線の影響に関する国連科学委員会、第69回会議 (ウィーン)
10-14日 宇宙空間における責任ある行動に関する決議案の国連総会本会議での採択 (ジュネーブ)
10-14日 国連森林フォーラム、第17回 (ニューヨーク)
10-14日 人権理事会、女性と女児に対する差別に関する作業部会、第34回会議 (ニューヨーク)
10-14日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議、予算財政委員会、第38回会議を再開 (デン・ハーグ)
10-21日 UNCCD、条約締約国会議及び補助機関の会合、第15回会議 (アビジャン)
11日 ブラジル4月IPCA発表
11日 中国4月CPI発表
11日 米国4月CPI発表
11日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表
12日 インド3月鉱工業生産指数発表
12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
12-14日 G7外務相担当会合 (未定)
12-14日 植民地国及び植民地人民への独立の付与に関する宣言の実施に関する状況に関する特別委員会、植民地主義撲滅のための第四次国際十年における非自治地域の状況を検討する地域セミナー (サンタルシア)
13日 ロシア4月CPI発表
14日 インフラ投資・雇用法に基づくバイ・アメリカ条項適用開始
15日 ドイツ ノルトライン・ウェストファーレン州議会選挙
15日 アリアン5、 MEASAT-3d、GSAT-24 (仏領ギアナ基地)
16日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問