外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年4月27日(水)

デュポン・サークル便り(4月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンはすっかり春の陽気になりました。週末の気温は、80℉(25℃)を超え、日中は初夏を感じさせるお天気となりました。まだまだ湿度は低く朝夕はさわやかですが、ワシントン特有の「hazy, hot, humid=うだるような蒸し暑さ」の日の到来が確実に近づいていることを感じさせます。

このような中、ここ10日間ほどのワシントンは、外交、内政、経済、社会と、本当に盛沢山な日々でした。まず外交では、週末にアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官がウクライナを電撃訪問。24日(日)にウラジミール・ゼレンスキー大統領他のウクライナ政府幹部数名と極秘会談を行いました。バイデン政権の外交と国防の両輪を担う2人がウクライナに一緒に訪問したこと自体が衝撃ですが、会談後に国務省が発表したステートメントの内容もかなり興味深いものでした。

追加の軍事支援や財政支援についてはある程度予想がつくものですが、私が一番驚いたのは、ロシアのウクライナ侵攻が迫っていた2月中旬に大使館を一時閉鎖したキエフに「今週中にも」米外交官を帰任させ始める、という文言でした。確かに戦闘は、港湾都市のマリポリや西部などに集中、首都キエフは激戦地になっていないとはいえ、ウクライナはロシアとの戦闘真っ只中。ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が「ポーランドとの国境から鉄道でウクライナに入った」と記者会見で話した1時間後に、ウクライナ西部の鉄道が数か所、攻撃されたことからも、予断を許さない状況が続いていることが分かります。そのウクライナの首都に米外交官を戻す、という決断は「ウクライナ国内の米外交官に万が一の事態があったら、どうなるか分かってるよね」とロシアに言外に伝えたのと同じことだからです。しかも、ブリンケン国務長官に続いて記者からの質問に答えたオースティン国防長官は、「プーチン政権が再びこのような暴挙に出ることができないようになるまでロシア軍を弱体化させることが目標」と明言。文字通り「国力が持つすべての道具を使って」ロシアと全面対決する姿勢を改めて明らかにしました。

ウクライナ情勢が予断を許さない中、国内では、「ポスト・コロナ」に向けた大きな動きがありました。空港や鉄道の駅など、公共の交通機関・施設におけるマスク着用の義務付けは「CDCが与えられた権限を逸脱するもの」で、無効だ、という判断をフロリダ州の連邦地裁が下したのです。オミクロンの変異株が国内で拡散してはいるものの、重症化率が比較的低いこともあり、アメリカ国内では、レストランやコンサート会場でのマスク着用や、ワクチン接種済証明提示の義務付けといった、コロナ時代に発動された様々な規制が緩和・解除されています。にも拘わらず、これまで空港や鉄道の駅、地下鉄、鉄道、バス、航空機などの公共交通機関・施設では、引き続きマスクの着用が義務付けられた状態が続いていました。これについては航空業界をはじめ、各方面から疑問の声が上がっていましたが、フロリダ州連邦地裁が今回、このような判断を下したことで、マスク着用は「推奨される」レベルまで引き下げられ、すでにアメリカの空港や地下鉄・鉄道の駅では、マスクを着用している人の割合がどんどん下がっています。とはいえ、密室状態で長時間過ごす飛行機の機内でマスクを着用しないのは不安、という声が依然強いのも事実です。米司法省は、この判決を受けて、CDCからの依頼により控訴することを決定しました。「ポスト・コロナ」「ウィズ・コロナ」の時代に入っても残された方が良い規制はなんなのかをめぐるバトルは、法廷に場所を変え、当面の間続きそうです。

この他にも、ビジネス界を見れば、テスラのオーナーのイーロン・マスク氏がツイッターの買収に名乗りを上げたり、25日には、一人当たり5500万ドル(!)という大金をはたいて、民間人としては初めて、国際宇宙ステーションに「観光旅行」に行っていたビジネスマン3人が無事に地球に帰還した、というニュースが全米を駆け巡ったり。アメリカは着実に「ポスト・コロナ」の時代に入りつつあるようです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員