キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年4月26日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週はlet slipなる英語表現をご紹介する。4月22日付Daily Beastは「Russian General Lets Slip a Secret Plan to Invade Another Country and Seize Ukraine’s Entire Coastline」と題する記事を掲載した。ここでのlets slipの意味は「秘密をうっかり漏らす」こと、すなわちこの見出しは「ロシアの将軍、(ウクライナ以外の)他国を侵略し、ウクライナの黒海沿岸部全体を制圧する秘密計画を漏らす」という意味になる。
ほーー、でも本当に「うっかり漏らした」のかね。同日付共同電は「ロシア中央軍管区のミンネカエフ副司令官は22日、ウクライナ南部に支配を拡大し、ドニエストル共和国への接点を確立することに言及」と報じている。いくらロシア防衛産業の会合での発言とはいえ、国営タス通信が伝えたのだから、「うっかり」ではないだろう。
なぜ筆者はこの記事に注目するのか。それは今週ようやく米露の「戦争目的」が明らかになり始めたと思うからだ。全ての戦争には目的がある。今回ロシアの戦争目的は二転三転した。ウクライナ保護国化か、東部のみの制圧か、黒海沿岸制圧からモルドバに至るのか、こんな場当たり主義ではロシア兵が可哀そうではないか。
では米国の戦争目的は何か。従来必ずしも明確ではなかったが、今週の米国務・国防両長官によるウクライナ訪問でようやく明らかになった。日本では「『ロシアは戦争で失敗』アメリカ国務・国防長官 ゼレンスキー大統領と会談」としか報じられていないが、両長官の発言中最も重要な部分は決して「ロシアの失敗」だけではない。
関連部分を正確に再録しよう。いずれも国防長官の発言である。
要するに、米国の戦争目的は少なくとも「ウクライナを敗北させない」こととロシアを弱体化すること。今回の作戦は一貫している。対するロシア側の戦争目的は迷走を続け、それを遂行するための十分な兵力もなく、更に、典型的な兵力の逐次投入という稚拙な戦術を一貫してとっている。ロシアが勝てる訳はないと思うのだが。
〇アジア
25日、北朝鮮が「朝鮮人民革命軍」創設90周年記念日を迎え、同日夜遅く軍事パレードが始まったそうだ。プーチンも5月9日にはパレードを企画しているそうだから、どっちもどっちだ。それにしても金正恩のパレードには注目が集まらない。もっと「構って」もらいたいというのが三代目の本音だろう。
一方、中国ではコロナ感染が止まらない。北京の朝陽区で70人の感染者が出たというが、70人ということは本当は700人いる可能性がある、というのが筆者の経験則に基づく勝手な計算だ。上海に続いて北京がロックダウンになれば、政治的悪影響は避けられなくなる。中国側は必至で止めようとするだろうが、大丈夫かね?
〇欧州・ロシア
仏大統領選はマクロンが勝った。僅差になるかと心配したが、ある程度差をつけての勝利にはホッとした欧州人が多かったのではないか。それでもルペンの挑戦は終わらない。次回の大統領選にも必ず出馬するだろう。欧州の極右ポピュリズムを過小評価してはならない。
〇中東
中東産油国が原油大幅増産を求める声に冷淡なのは、米サウジ関係がギクシャクする中、同じ産油国であるロシアと利益を共有しているから、といった指摘がある。間違いではないが、米サウジ関係が良好な時は、米国がサウジ型統治を黙認する時であり、両国間の緊張はもっと根の深いものだ。サウジ米関係は愛憎関係、ロシアはソ連の時代から常に対米関係の従属変数であったことを決して忘れてはならない。
〇南北アメリカ
ニューヨーク州裁判所は、NY州司法長官の求めに対しトランプ前大統領が書類を提出しないのは「法廷侮辱」にあたると判断、トランプ氏に書類提出を命じ、従わない場合1日1万ドルの罰金を科すと決定したそうだ。だが、この程度でメゲるようなトランプではなかろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<4月25‐5月1日>
12-30日 第106回人種差別撤廃委員会 (ジュネーブ)
19‐25日 ICAO、航空航法委員会、第220回セッション (モントリオール)
22-25日 IMF・世界銀行春季総会 (ワシントンDC)
26日 ウクライナ防衛めぐる支援国会合 (独南西部ラムシュタイン空軍基地)
26日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
26日 全国知事会の新型コロナウイルス緊急対策本部会議 (テレビ会議)
26-29日 経済社会理事会、世界銀行、IMF、WTO、UNCTADとの理事会の特別ハイレベル会合を含む、開発フォローアップのための資金調達に関する年次経済社会理事会フォーラム (ニューヨーク)
26-30日 第55回人口と開発に関する委員会
26-30日 第29回会議の人権理事会、状況に関する作業部会
26日-5月7日 人種差別の撤廃に関する国際条約の補完的基準の精緻化に関する人権理事会特別委員会、第12回会議 (ジュネーブ)
27日 WTO紛争解決機関会合
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
27日 ロシア1-2月貿易統計発表
27-28日 第135回会議、IFAD、理事会 (ローマ)
27日-5月1日 FAO、理事会、第166回会議 (ローマ)
28日 メキシコ3月雇用統計発表
28日 米国第1四半期GDP発表 (速報値)
29日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア中央銀行理事会
29日 USTRによる知的財産に関わるスペシャル301条報告書 (2022年版) の提出期限
29日 1~3月期のユーロ圏GDP速報値 (EU統計局)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数 (PMI) (国家統計局)
30日 ファルコン9、通信衛星Nilesat-301 (ケープカナベラル空軍基地)
4月中 世界銀行、一次産品市場見通し (Commodity Markets Outlook) 発表
4月中 OECD2021年第4四半期海外直接投資 (FDI) 統計発表
4月中 WTO2021年通年財貿易統計発表
4月中 WTO2021年サービス貿易統計発表
<5月2日-8日>
2-4日 アジア開発銀行 (ADB) 年次総会 (スリランカ・コロンボ)
3日 米国予備選挙 (インディアナ州、オハイオ州)
3日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
3日 ユーロスタット、3月失業率発表
3-4日 米国FOMC
3-4日 ブラジル中央銀行、Copom
3-15日 エレクトロン、シスルナー自律測位システム技術運用・航法実験 (CAPSTONE) 、フォトン (ニュージーランド マヒア半島)
3-28日 総会、第5委員会、再開会議第2部 (未定) (ニューヨーク)
4日 米国3月貿易統計発表
4-7日 人権理事会、人権及び多国籍企業その他の企業問題に関する作業部会、第32回会議 (ジュネーブ)
4-7日 民間軍事・治安企業の活動の規制、監視及び監督に関する国際的な規制枠組みの内容を詳述するオープンエンドの政府間作業部会、第3会議 (ジュネーブ)
4-14日 第44回情報委員会 (ニューヨーク)
4‐28日 OHCHR、第90回会議 (ジュネーブ)
5日 英地方選・北アイルランド自治議会選
5-6日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、銃器作業部会、第9回会議 (ウィーン)
6日 米国4月雇用統計発表
6-7日 経済社会理事会、SDGsのための科学技術イノベーションに関するマルチステークホルダーフォーラム (ニューヨーク)
8日 香港特別行政区行政長官選挙
8日 ドイツ シュレスビヒ・ホルシュタイン州議会選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問