キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年4月19日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
今週は「ドンバスの戦い」から入ろう。19日、ロシア軍がキーウ攻略を(一時的にせよ)断念し、残存兵力の集積・再編成を経て、ウクライナ東部に対し本格的な攻撃を開始した。これに対し、ウクライナの大統領は「ドンバスの戦い」が始まったと述べたという。「ドンバスの戦い」と聞くと、軍事マニアは「へえっ」と思うのではないか。
英語表現で「Battle of XXX」という言い方が定着している訳ではないが、筆者の経験則で申し上げれば、Battle of Donbasと聞くと、筆者は「The Battle of the Bulge」 「The Battle of Britain」を思い出す。前者は第二次世界大戦の激戦の一つ、後者はドイツ空軍がイギリス攻略を狙った大航空作戦である。
バルジの戦いとは1944年12月から1945年1月までベルギー・ルクセンブルグのアルデンヌ高地をめぐるナチス・ドイツ軍と連合軍との戦闘。ブリテンの戦いと同様、連合国側がナチス・ドイツの快進撃を食い止め、その後の戦況に大きな影響を与えた激戦だった。いずれも映画化され、子供の頃、父親と見た覚えがある。
以上を念頭に、ゼレンスキー大統領は今回の戦いがロシア側大攻勢を食い止める歴史的な激戦となる期待を込めて「ドンバスの戦い」と命名したのだろう。いずれにせよ、この戦いの結果が今回の戦争全体の帰趨を決める重要な戦闘になることは間違いなかろう。
ゼレンスキー大統領は「ロシア軍がどれだけ動員されようと我々は戦う」「我々は国を守る。決して何も渡さない」と徹底抗戦の構えを表明、また、ウクライナ大統領府高官も「戦争の第二段階が始まった」と述べ、重大局面に突入したことを強調していると報じられている。
プーチンはこの戦いに「敗北する」ことはできない。負ければ、政治家として退路を断たれる可能性があるからだ。一方、ゼレンスキーも安易な妥協はできない。このロシアの大攻勢を食い止めなければ、ウクライナに有利な形での停戦は不可能となるからだ。停戦交渉は当分動かないのではないか。
〇東アジア
コロナ感染拡大が続く上海で、同地の日本総領事が現地の副市長に対し、「一カ月以上に操業停止等に起因する損害や従業員に与えている悪影響に加え、今後の先行きの不透明感が企業活動にとって大きな制約になっていることをご理解頂きたい」とする書簡を発出したそうだ。損害を賠償しろという内容ではないので、念のため。
米韓両軍が半島有事を想定した共同作戦能力を高める毎年恒例の合同軍事演習を始めた。でも、内容はコンピューターシミュレーションを用いた指揮所訓練だけなのに、それでも北朝鮮が反発するというは、どういうことか。「緊張が高まる可能性がある」と報じられたが、緊張が高まって困るのは北朝鮮の方だろうに。
〇欧州・ロシア
日本を代表する通信社の一つがこう報じた。「4月中にドイツなど3カ国の首脳が、5月にはバイデン米大統領らが来日する予定。岸田文雄首相は外遊も調整している。国際秩序の根幹を揺るがすウクライナ危機の中、外交面で実績づくりを狙う。」もうこんな国内政局を基準にした外交関係記事は止めにしたらどうか。
〇中東
4月2日から断食月間(ラマダン)が始まったが、今年主食のパンの供給は大丈夫なのだろうか。ラマダンといっても一カ月間断食する訳ではなく、あくまで日中だけ。だから、日が沈めば一日分(場合によってはそれ以上)の食事を一回で、しかも一族郎党と、爆食いする。これが健康に良い訳はないが、小麦価格の高騰でパンがなかったら、今年のラマダンは、さぞ荒れるだろうなぁ。
〇南北アメリカ
フロリダ州の連邦地裁が、バイデン政権による公共交通機関でのマスク着用義務を「違法」「無効」とする判断を下したそうだ。同連邦地裁の判事は、「CDCが法的権限を逸脱し、マスク着用を義務付けている」と指摘したという。うーーん、いかにもアメリカらしい話ではないか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
5-23日 軍縮委員会、年次セッション (ニューヨーク)
12-30日 第106回人種差別撤廃委員会 (ジュネーブ)
18日 日スイス首脳会談 (首相官邸)
18日 中国第1四半期経済指標 (GDP成長率、固定資産投資、社会消費品小売総額等) 発表
18-24日 国際通貨基金 (IMF) ・世界銀行の春季会合と関連イベント (ワシントン)
19日 こども家庭庁設置法案が衆院審議入り
19日‐5月7日 ICAO、委員会フェーズ、第226回セッション (モントリオール)
19-22日 第60回第五作業部会・破産法 (ニューヨーク)
19‐25日 ICAO、航空航法委員会、第220回セッション (モントリオール)
20日 第2回G20財務相・中央銀行総裁会議 (ワシントンDC)
20日 ファルコン9、 SpaceX社 クルードラゴン宇宙船運用4号機 (SpaceX Crew 4) Freedom (ケネディ宇宙センター)
20日‐5月14日 拷問禁止委員会、第73回会議 (ジュネーブ)
20日‐6月4日 国際法委員会、第73回会議、第1部 (ジュネーブ)
20-22日 第58回、IAAC会議 (ジュネーブ)
21日 ユーロスタット、3月CPI発表
21日 国際通貨金融委員会 (IMFC) (ワシントン)
21-22日 第2回G20財務相・中央銀行総裁会議 (ワシントンDC)
22-25日 IMF・世界銀行春季総会 (ワシントンDC)
24日 フランス大統領選挙 (決選投票)
24日 スロベニア議会選挙
<4月25‐5月1日>
26日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
26-29日 経済社会理事会、世界銀行、IMF、WTO、UNCTADとの理事会の特別ハイレベル会合を含む、開発フォローアップのための資金調達に関する年次経済社会理事会フォーラム (ニューヨーク)
26-30日 第55回人口と開発に関する委員会
26-30日 第29回会議の人権理事会、状況に関する作業部会
26日-5月7日 人種差別の撤廃に関する国際条約の補完的基準の精緻化に関する人権理事会特別委員会、第12回会議 (ジュネーブ)
27日 WTO紛争解決機関会合
27日 メキシコ3月貿易統計発表
27日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
27日 ロシア1-2月貿易統計発表
27-28日 第135回会議、IFAD、理事会 (ローマ)
27日-5月1日 FAO、理事会、第166回会議 (ローマ)
28日 メキシコ3月雇用統計発表
28日 米国第1四半期GDP発表 (速報値)
29日 ブラジル3月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア中央銀行理事会
29日 USTRによる知的財産に関わるスペシャル301条報告書 (2022年版) の提出期限
29日 1~3月期のユーロ圏GDP速報値 (EU統計局)
30日 4月の中国製造業購買担当者景況指数 (PMI) (国家統計局)
30日 ファルコン9、通信衛星Nilesat-301 (ケープカナベラル空軍基地)
4月中 世界銀行、一次産品市場見通し (Commodity Markets Outlook) 発表
4月中 OECD2021年第4四半期海外直接投資 (FDI) 統計発表
4月中 WTO2021年通年財貿易統計発表
4月中 WTO2021年サービス貿易統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問