外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年4月12日(火)

デュポン・サークル便り(4月8日)

[ デュポン・サークル便り ]


相変わらず、雨が続く今週のワシントン。気温も相変わらず肌寒い日が続いており、せっかくしまった秋冬物の服を再び引っ張り出して着ている人も多く見かけます。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。前回の「デュポン・サークル便り」が出たばかりではありますが、バイデン政権が、ロシアに対する新たな追加経済制裁措置を発表したこともあり、今週2度目の出稿となります。よろしくお願いいたします。

ロシアに対する経済・金融上の締め付けをどんどん強化しているバイデン政権ですが、46日には、先週から世界的に報道され始めたロシア軍によるウクライナ国内での民間人拷問・集団殺人などの戦争犯罪行為を理由に、

  1. ロシアの銀行資産の約3分の1を保有すると言われるズベルバンクと、ロシアで4番目の大手銀行であるアルファバンクの資産を凍結、米企業・金融機関との取引を禁止
  2. プーチン大統領の成人した娘2人、ラブロフ外相の妻と娘、さらにロシア安全保障会議のメンバーを制裁対象に追加
  3. 米国法人・個人によるロシアへの新規投資を禁止
  4. ロシアの国営企業の資産凍結
  5. ロシアによる米金融機関経由の債務支払いを禁止

などからなる追加経済制裁措置を発表しました。同じ日にイギリスもズベルバンクの資産を凍結し、「今年末までにロシアからの石炭輸入を全面停止する」ことを発表。米英が緊密に連携していることが、ここでも明らかとなりました。

また前日の45日には、バイデン大統領、ジョンソン英首相、モリソン豪首相がAUKUS首脳会談を開催。事後に、前回の首脳会談時に発表された潜水艦技術、サイバー、人工知能、量子技術に加えて、超音速、対超音速、電子戦の分野でも情報共有と技術協力を加速させていく意向が発表されました。もともとは、インド太平洋地域を念頭に置いたこの3国間協力でしたが、ロシアのウクライナ侵攻により、より一層切迫感が増してきた感じが窺えます。

ウクライナ情勢が緊迫する中、先日、とても興味深いイベントにパネリストとして参加してきました。ワシントンを訪問中のオハイオ州デイトン市の商工会議所のような団体のために、最新の国際情勢についてブリーフするという企画です。私の他にパネリストは2人。一人はワシントン市内の別のシンクタンクの、玄人の間でよく知られている中国研究者で、もう一人はなんと、元駐ウクライナ米大使。当然、話題はウクライナ情勢と米露・米中関係が中心に。一人一人、持ち時間5分で冒頭発言をしたあとに出席者の方との質疑応答があり、全部で1時間半ぐらいのセッションでしたが、この冒頭発言の中で元駐ウクライナ米大使が言った一言が、「ウクライナ情勢から日本が得られる教訓は何だろう」とずっと考えていた私の頭に突き刺さりました。

それは、「ロシアは今回のウクライナ侵略に当たって、いくつか誤算をした。最大の誤算は、ウクライナ人はロシア人以上にウクライナを愛しており、ロシア人の支配下に戻るぐらいなら命をかけてウクライナを守る気質を持った国民だということを、全く考慮していなかったことだ」という発言でした。

これを日本に当てはめると、例えば「日本人は中国人以上に尖閣諸島を自国の領土として強く認識しており、自国の領土を守るためなら血を流して戦う気概を持った国民だ」という感じになるでしょうか。さて、このフレーズに同意できる人が今の日本にどれくらいいるのでしょう・・・?考えさせられました。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員