外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年4月7日(木)

デュポン・サークル便り(4月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週、一気に春らしくなったと思ったワシントン近郊ですが、今週にはいって、冬に逆戻りしたような天気が続いています。ここ数日「春一番」と呼ぶには強すぎる風と、日中、雨が降ったりやんだりの天気のおかげで、満開だったソメイヨシノは、早くも散り始めしてしまい、葉桜になってしまった木も多く見られます。ワシントンDC最大行事の一つといっても過言ではない「桜祭り」で、最大行事のパレードが行われる49日ごろには、すでに大部分の桜は散ってしまっているのが残念です。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

ワシントン時間の223日夜、ロシアがウクライナに侵攻を開始してからというもの、ウクライナ情勢が引き続き、ワシントンでは最大の話題です。324日にはバイデン大統領がブリュッセルで開催されたNATO首脳会談に出席。この機会を利用して、NATO各国の首脳だけではなく、EU各国主要やG7首脳と精力的に会談をこなしました。

ですが、バイデン大統領のヨーロッパ訪問で最大の話題となったのは、ブリュッセルでの外交日程を終えたあとに訪問したポーランドでバイデン大統領が行った演説でした。ウクライナとの国境地帯で、避難民と直接対話した後、ポーランドの首都ワルシャワで行った演説の中で、バイデン大統領は言ってしまったのです。「プーチンはこれ以上、権力の座に留まるべきではない」と。

アメリカの大統領が演説でこのようなことを口走ると、国内外では一斉に「この政権は、〇〇国の体制交代を支持しているのか?」という点が大きな話題になります。特に、この発言が、NATO首脳会談出席後に行われたものであったことが、憶測を助長しました。発言が世界に波紋を広げた後、ジェン・サキ・ホワイトハウス報道官を筆頭に、スタッフが「大統領の発言は、ポーランド・ウクライナ国境を訪問し、ウクライナからの難民と直接対話する機会を持った直後のことで、人間の反応として自然なこと」と事後処理に追われました。それを横目に、当のバイデン大統領は「ロシアの体制交代を支持しているわけではない。ただ、プーチンがいかにひどい指導者かという事実を指摘しただけだ」と自らの発言を修正するそぶりすら見せていません。

そんな中、46日に国連安保理に対してビデオ演説を行ったウクライナのゼレンスキー大統領は、具体的な例を挙げて、自ら視察した首都キーフ郊外のブチャでロシア軍が民間人を虐殺したと主張、プーチン大統領以下、ロシア政府指導者や民間人虐殺に関与したロシア軍人を、国際戦争犯罪法廷のような場所を設けて裁くべきだと訴えました。このブチャの惨状は、ゼレンスキー大統領による演説の数日前からメディアで拡散していることもあり、米国でも大きな衝撃を持って受け止められています。バイデン大統領が既に、プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んでいることは周知の事実。また、323日にはすでに、アントニー・ブリンケン国務長官も、ロシア軍が戦争犯罪を犯した、という判断に米政府は達した、と正式な見解を公表しています。ですが、ロシアと中国が拒否権を握る安保理では、実質的に何も決めることができないのが現実。この状況を受けて、俄然、国連改革に向けた機運が高まり始めました。ロシアの戦争犯罪をどのように取り扱うかだけではなく、国連改革に向けた機運が一過性のもので終わってしまうのか、それともこれを機会に、日本にとっても悲願である国連改革に向けた具体的な動きが本格化していくのかも、今後の展開が注目されるところです。

そんな中、国内ニュースでは、国民皆健康保険、いわゆる「オバマ・ケア」法案成立12周年を記念して、オバマ元大統領が実に5年ぶりにホワイトハウスを訪問しました。記念行事の演説の中で、昔の癖がつい出てしまったのでしょう、バイデン大統領を「バイデン副大統領」と呼んでしまったのはご愛敬。バイデン大統領の方は、「昔の楽しかった時と同じだ。またこの場所で会えてうれしいよ、バディ」と余裕の対応を見せ、オバマ元大統領も見守る中で、「オバマ・ケア」の範囲を拡大する法案に署名。毎日、ウクライナ情勢で暗いニュースが続く中、少しだけ、明るい話題が提供されました。

それにしても、この映像を見ていて、オバマ元大統領とバイデン大統領、本当に仲が良い様子が画面から伝わってきました。その一方、バイデン大統領とハリス副大統領からは、そのような感じが伝わってこないなぁ、とつい、感じ入ってしまいました。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員