キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年3月29日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
これまで「デジャヴュ(既視感)」、「ダブルダウン(倍返し)」「フォールスフラッグ(偽旗)」といった英語表現をご紹介してきたが、今週も英語の蘊蓄を続けよう。最近筆者が気に入ったのは「age well」なる言い回しだ。文字通り訳せば「良く老ける」だが、これが転じて、例えばワインのように「時が経つほど良くなる」という意味で使うらしい。
似たような表現としては、尊敬するCollin Powell元国務長官の名言にBad news isn't wine. It doesn't improve with age.がある。この場合は危機管理の格言で、「悪い情報ほど早くトップに伝えよ」という意味だろう。先週CNNで元米軍人がBad news does’t age well.とコメントしていたが、これも同様の趣旨に違いない。
要するに、プーチン大統領に「悪いニュースが伝わっていない」可能性があるということだ。やはり、彼はKGB上がりの元情報将校に過ぎず、何万もの大部隊を率いる職業軍人としての基礎的訓練は受けていないのだろう。ロシア軍のお粗末なパーフォーマンスの最大の理由は、実は最高司令官がお粗末だったから、かもしれない。
お粗末といえば、ポーランドでのバイデン大統領のnine ad-libbed wordsも負けてはいない。この9語のアドリブとはFor God’s sake, this man cannot remain in power.で、元々演説原稿にはなかったものだ。良く言えば「大統領の怒りを示すもの」かもしれないが、悪く言えば「大失言」に近い。致命的ではないが、不用意である。
テレビ番組である識者が、このバイデン発言は「内政干渉であり、一国の大統領に対し失礼だ」などとコメントしていたが、問題は「失礼か否か」ではない。「プーチン失脚」は夢だが、それを言っちゃあ終わりだよ。米露関係が険悪化するだけで、何の利益もない。その意味ではバイデンはルビコンを渡り、プーチンに喧嘩を売ったのだ。
関係者が苦労して取り纏めた格調高い「民主主義」演説も最後の「アドリブ」で大いにケチが付いてしまった。早速ホワイトハウスは「大統領の発言はロシアの政権交代を意図したものではない」などと火消しに追われたが、これも筆者が懸念する「勢いと偶然と判断ミス」の一つだろう。放言癖のジョー・バイデンはまだまだ健在である。
それにしても、ウクライナ戦争はいつまで続くのか。仮に「停戦」合意に至っても、「停戦」は破られるためにあり、真の「休戦」は当面難しいのではないか。今週の政治プレミアでは、時々の戦況に一喜一憂することなく、ウクライナ戦争後に国際情勢が如何に変化するかを論じている。ご関心がある向きはご一読願いたい。
今週もウクライナ戦争以外の気になる各地のニュースを見ていこう。
〇アジア
官房長官は24日の北朝鮮が発射したICBMを「新型」とする日本の分析は変わらないと述べた。理由は「飛行高度などを含め、諸情報を総合的に勘案した結果、新型」だというのだが、米韓両国は「既存の火星15型」だとしている。いずれにせよ、北朝鮮のICBM級弾道ミサイル開発は粛々と進んでいることだけは確かだ。
〇欧州・ロシア
欧州がロシア産ガス依存からの脱却を図る中、世界のエネルギー供給市場は再編されつつある、とFTが報じた。いずれは米国が大西洋経由でのガス輸出を増やし、オーストラリアとカタルがアジア向け供給を拡大するという。LNGの新規設備ができれば、それも可能になるのだろうが、中国は如何に動くのだろうか。
〇中東
先週に続き、イスラエルが外交攻勢を強めている。26-28日、同国南部でアラブ首長国連邦、バハレーン、モロッコ、エジプトと米国の6カ国の外相会合を開いた。当初アラブの対イスラエル関係改善は経済的理由だと分析する向きもあったが、最近の動きは明らかに安全保障面の協力強化だ。中東の勢力図は変わりつつある。
〇南北アメリカ
韓国の次期大統領が「韓米政策協議代表団」を4月初めに米国に派遣するという。代表団は米ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)や国務省など政府や議会関係者、シンクタンクなどに会うそうだ。米韓で建設的な議論が再開され、日米韓の連携が進むと良いのだが・・・。
〇インド亜大陸
中印外相がインドで会談した。インド側はウクライナ問題で「停戦に向け外交や対話が最優先」で一致する一方、中印国境問題については「平和と静けさが妨げられている状況で、両国の関係は正常とはいえない」と述べるなど、中国への懸念を重ねて強調したそうだ。なるほど、インドの動きは一貫している。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
1月25-4月15日 ジュネーブ軍縮会議 First part(ジュネーブ)
1-4月2日 国連人権理事会
5日₋4月1日 総会 第5委員会 First part of resumed session (ニューヨーク)
28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28日 WTO紛争解決機関会合
28日 メキシコ2月貿易統計発表
29日 EU雇用・社会政策・保健・消費相委員会(ブリュッセル)
29日 オーストラリア連邦政府2022/2023年度予算案発表
30日 メキシコ2月雇用統計発表
30日 米国2021年第4四半期および2021年年間GDP発表(確定値)
30日 国際宇宙ステーション(ISS)滞在の米ロ飛行士が地球帰還
31日 「OPECプラス」閣僚級会合(オンライン)
31日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
31日EU 2月失業率発表
31日 中国3月PMI(国家統計局)
31日 米・2月PCE物価指数の発表(商務省)
31日 ブラジル2月全国家計サンプル調査発表
31日USTRによる外国貿易障壁報告書の提出期限
31日 外務省「食料安全保障シンポジウム「ロシアのウクライナ侵略から見る日本と世界の食料安全保障」」の開催(オンライン)
4月1日 EU・中国首脳会議
1日 米国3月雇用統計発表
1日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
1日日本・ 成人年齢引き下げ(改正民法施行)
1日 エレクトロン ‘Without Mission A Beat’(BlackSky 16, 17)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
1-3日 ネパール・デウバ首相がインドを訪問
1-4日 インド・コヴィンド大統領がトルクメニスタンを訪問
2日 ファルコン9(ION SCV-005, Sherpa-FX5, Alba Cluster 5等)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
3日 セルビア大統領選挙、議会選挙
3日 コスタリカ大統領選決選投票
3日 ハンガリー議会選挙
3日 米・グラミー賞授賞式(ラスベガス)
3-5日 イスラエル・ベネット首相がインドを訪問
<4月4-10日>
4日 ファルコン9(午前3時46分) AX-1 (Axiom Mission 1)(ケネディ宇宙センター)
4-5日 教育・若者・文化・スポーツ相委員会(ブリュッセル)
4-7日 欧州議会本会議(ストラスブール)
5日 国連軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
5日 経済・財務相委員会(ブリュッセル)
5日 米国2月貿易統計発表
5₋8日 税務問題における国際協力専門家委員会、第24回セッション(確認)(ニューヨーク)
5-9日人権を侵害する手段としての傭兵の使用に関する人権理事会 (ジュネーブ)
5-23日 国連軍縮委員会、年次セッション (ニューヨーク)
6日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ロシア3月CPI発表
7日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
7日 メキシコ3月CPI発表
7日 米・FOMC議事録
8日 ブラジル3月IPCA発表
8日 CIS外相会議(タジキスタン・ドゥシャンベ)
8日 ロシア2021年経済活動別および需要項目別GDP統計発表
10日 フランス大統領選挙(第1回投票)
10日 メキシコ大統領罷免に向けた国民審査
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問