キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年3月15日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
先週は英語化した仏語「デジャヴュ(既視感)」について書いたが、今週は「ダブルダウン」なる英語表現をご紹介する。米国では政治交渉などに関する評論で最近流行の言葉だ。元々はブラックジャックのルールだから、カジノ用語らしい。日本カジノスクールの公式サイトには、「ダブルダウン」について次のような説明があった。
カジノのブラックジャックで最初に配られた2枚のカードから、あと一枚だけ引くことを条件に、賭け金を最大2倍にまで増やせるルール。・・・積極果敢にやりたいところですが、賭けているカジノチップに追加する必要があるので、持っている資産との相談が必要・・・。
これが転じて「危険な賭けに出る。賭けを倍増する。リスクを取って投資を増やす。状況を一切顧みることなく、渦中の人間が世間・メディアに対してダメ押しする」といった意味で使われる。これって、今プーチン大統領がやっている「倍返し」ではないかね。そう言えば、CNNで識者がよくPutin doubled downなどとコメントしていたなぁ。
先週は、「ウクライナは大善戦、キエフも未だ陥落していない。ロシア軍優勢は強まるだろうが、当面戦況は膠着状態にある」と書いたが、状況は徐々に変わり、今週あたりからプーチンは本気で「ダブルダウン」を始めたのではないか、そんな懸念がある。正に「大きなリスクを取った賭け」だと思うのだが、果たして「勝機」はあるのか。
懸念といえば、先週書いた「デジャヴュ(既視感)」も同様だ。現状は2001年の同時多発テロ後、対中懸念を深めていた当時のブッシュ政権が米中関係の舵を「対立」から「協力」に切った状況に似ていないか、という話だった。今週もそうした懸念を一層深めるような中国の動きが見られ、ちょっと気になっている。
14日付ワシントン発ロイターは「中国がロシア側の要請に応じて、ウクライナでの紛争支援に向けロシアに軍事的・経済的援助を行う意思を示したと米国が北大西洋条約機構(NATO)およびアジア諸国の同盟国に伝えたことが米高官の話で分かった。・・・中国側は計画があることを認めないことが予想される」などと報じた。
要するに、中国はロシアに恩を売る一方、いずれウクライナとロシア、いや米露の仲介に乗り出し、最終的には米中協力関係の復活に結び付けたいのだろう。米国が再び対中懸念を棚上げする外交に追い込まれる懸念はあるのだが、それについても今回米側は、対中露の情報戦で先手を打っているような気がする。
14日付日経は、Jサリバン大統領補佐官が楊潔篪共産党政治局員と7時間会談し、『中国とロシアの連携に対する懸念と、中国の行動がもたらす潜在的な影響や結果について率直に伝えた」、「中国がロシアに実施する可能性がある支援に関しても懸念を伝達し、自重するよう求めた」と報じたが、中国には馬耳東風か。
先週の韓国大統領選挙の結果は「cautiously optimistic」だとネット版日経ビジネスの「世界展望・プロの目」に書いた。詳細は本文をお読み頂きたいが、要するに「あまり楽観的にならず、注意深く進めるべし」ということに尽きるだろう。韓国の「386世代」が日本の「全共闘世代」に相当するのだとしたら、386世代の「引退・隠居」にはあと20年かかるだろう。それまで筆者は待てないのだが・・・。
〇アジア
中国がロシアの対ウクライナ侵攻を事前に知っていたか、想定外だったかの議論がある。もし中国がロシアの侵攻を全く予想していなかったとしたら、中国の諜報機関は全員クビである。ロシアの「短期決着」を予想して「五輪後」にしてくれと頼んだのだろうが、想定外のロシア「苦戦」で中国に不利となり困り始めた、のではなかろうか。
〇欧州・ロシア
ウクライナ侵攻を受け、欧州諸国が軍備増強に動き始めた。独ショルツ政権は国防費の大幅増額に加え、米国との核共有のため、F35を購入すると発表するなど、戦後伝統の「平和主義」を転換するという。ドイツに続き、デンマークやスウェーデンも国防費をGDP比2%に増額する。なぜか、日本では今も考えられない話である。
〇中東
林外相が3月19~21日の日程を軸にアラブ首長国連邦とトルコを訪問する方向で調整していると報じられた。時宜を得た判断だし、時間があればもっと多くの国に行ってもらいたいくらいだ。それにしても日本の国会審議のシステムはどうなっているのか。こんな時に大臣に代わって答弁するのが副大臣だったのではないのか。
〇南北アメリカ
米運輸保安庁(TSA)が、公共交通機関でのマスク着用義務を4月18日まで延長すると発表した。CDCは「屋内でのマスク着用はもはや必要ない」としているのに、ということで、今回の延長決定には疑問の声も上がっているという。それにしても、日本でこんな議論は全く起きないのは、なぜだろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
1月25-4月15日 ジュネーブ軍縮会議 First part(ジュネーブ)
2月22-3月19日 ICAO(国際民間航空機関) council phase 225回会合(モントリオール)
3月1-26日 規約人権委員会 第134回会合(ジュネーブ)
1-4月2日 国連人権理事会
12日インド2月鉱工業生産指数発表
14日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
14日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
14日 Rocket3(S4 CROSSOVER)打ち上げ(アラスカKodiac)
14-17日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
14-17日 香港国際フィルム&テレビ・マーケット(フィルマート)
15日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
15日 中国1-2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15-16日 米国FOMC
15-16日 ブラジル中央銀行、Copom
15-17日 第30回税関能力開発ワーキンググループ
15-19日 麻薬委員会 第65回会合(ウィーン)
15-26日 ILO 理事会と委員会 第344回会合(ジュネーブ)
16日 米国2月小売売上高統計発表
16-17日 第28回ASEAN経済閣僚会議リトリート(非公式な会合)
17日 EU 2月CPI発表
17日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
18日 ロシア中央銀行理事会
18日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表
18日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
18日 独立国家共同体(CIS)経済理事会(ロシア・モスクワ)
18日 RCEP閣僚会議
19日 東ティモール大統領選
19日ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第67次および第68次長期滞在ミッション用ソユーズMS-21)打ち上げ (バイコヌール宇宙基地)
<21-27日>
21日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
21日 EU農水相理事会
21-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21-26日 第9回世界水フォーラム(セネガル)
22日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
23日 G7貿易大臣会合(バーチャル)
23日 軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
23日 第3回2022年ASEAN加盟国 経済代表部会合
23日 EU ECB政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
23日 ロシア1-2月鉱工業生産指数発表
23日 ロシア1月貿易統計発表
23日 米国「ウイグル強制労働防止法」に基づく国務長官報告書の議会提出期限
23-24 日 第66回ASEAN 知財協力作業部会
23-24日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
24日 ECB一般理事会(フランクフルト)
24日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
24日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
24-25日 欧州理事会(ブリュッセル)
27日 ドイツ ザールラント州議会選挙
27日 香港特別行政区行政長官選挙
27日 ドイツ ザールラント州議会選挙
27日 鳥取市長選
27日 米アカデミー授賞式(米・ロサンゼルス)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問