キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年3月1日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
ロシアの、いやプーチンのウクライナ戦争が早くも5日目に入った。先週本コラムで筆者は、「今回の決定が彼の『英断』か、『戦略的判断ミス』かは来週以降明らかになるはず」と書いた。この数日間で内外の主要マスコミはようやく、その答が「後者」であるらしいことを、報じるようになった。
興味深いのは、ロシアを知る人ほど、いやプーチンを知る人ほど、「侵攻」を予測できなかった人が多いことだ。例えば、2月25日付の毎日新聞電子版は、勇気ある同紙モスクワ支局長の「軍事侵攻に踏み切った今、自分の見通しが間違っていたと正直に告白せざるを得ない」といった実に率直かつ真摯な現地報告を掲載している。
筆者はこの支局長の知的勇気を高く称賛する。物を書く以上は、「知的に正直」でなければならない。これに比べれば、「ロシアのウクライナ侵攻はあり得ない」などと書いた一部評論家が沈黙を守っているのは哀れだ。自らの誤りを認めるのはプライドが許さないのだろうか。こうした記事について次のような厳しいツイートを見つけた。
「たくさん理由を並べたのに、すべて大外れの痛恨のミスですね。真面目な話、友達(インテリジェンスを共有できる)がいなかったのか、出来なかったのでしょう。何のために海外行ったのか、キャリアぜんぶ無駄でしたね。73年から今までがぜんぶ無駄、取り返しもつかないし、かわいそう。」うーん、筆者も気を付けなければ・・・、と思う。
毎日新聞といえば、今週の政治プレミアに筆者は、「これまでの一連の言動を振り返ってみれば、筆者はプーチン大統領が対ウクライナ戦争につき、4つの戦略的「判断ミス」を犯しつつあると思わざるを得ない」と書いた。1月下旬の段階での筆者の漠然とした疑問を、改めてプーチンの「戦略的な判断ミス」と整理し、分析したものだ。
詳細はこちらをお読みいただきたいが、要するにプーチンの誤算は、①ウクライナの善戦、②歴史的なウクライナ認識、③NATO諸国の結束、④ロシア情報戦の戦闘能力の4つだ。あの冷静で切れ者の(はずの)プーチンが誤算する理由としては、「驕り」、「怒り」、「感情」、「老化」などがまず思い付く。勿論真相は不明だが・・・。
今後もウクライナ側は徹底抗戦するだろうが、ロシア側が無差別攻撃すれば、キエフが陥落する可能性はある。他方、最初の4日間で、ウクライナは悲劇の主人公となり、ゼレンスキー大統領は英雄となり、ロシアの名声は地に堕ち、プーチン大統領は「悪の権化」と化した。ロシアは「得るもの」よりも「失うもの」の方が大きいだろう。
仮に、キエフを占領し傀儡政権を樹立しても、ポーランドなど西方の陸上国境が閉鎖されない限り、ウクライナ国内の反ロシア勢力の武力闘争が続くだろう。今後ウクライナでの戦闘が長く続き、多くのロシア兵が犠牲になれば、1980年代のアフガニスタンと同様、その悪影響はロシア内政にも波及する。さてどうなるだろうか。
〇アジア
「プーチンの誤算」だけでなく、「習政権もロシアの出方を読み誤った」と日経新聞のコメンテーター氏が書いたが、実に同感だ。「対立する米国への対抗上、ロシアとの連帯を重視するあまり、プーチン氏を冷徹に観察し、危ない野心に気づくのが遅れた」という。筆者の言う「勢いと偶然と判断ミス」が繰り返される時代を象徴する出来事だ。
〇欧州・ロシア
28日、ウクライナは欧州連合(EU)への加盟を申請すると発表した。この時期のEU加盟申請、外交的には興味深いが、ロシアの反発は必至だろう。欧州委員会委員長は加盟を歓迎、バルト諸国やポーランドなどもこれを支持しているが、話はそう簡単ではない。交渉に数年かかるのは常識だから、これも情報戦の一部だろう。
〇中東
28日、トルコ外相は「「トルコはすべての国に対し軍艦の海峡通過を認めないと警告する」と述べた。同外相は前日、「ロシアによる侵攻を戦争と認識する」とも述べている。これまでトルコの対露政策はかなりブレていたが、今回はNATO加盟国として行動したのか、それとも全く別の思惑があるのだろうか。詳しい検証が必要だろう。
〇南北アメリカ
バイデン政権の経済制裁を柱とするウクライナ危機対応への支持率が8割を超えた。しかも、その支持は超党派だ。他方、米国によるウクライナへの軍事介入を支持する声は少数派である。今のところ、ウクライナ問題が米国内政に与える影響は限定的だが、もしキエフ陥落があればバイデン氏の判断は死活的に重要となり得る。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
28-3月1日 EU一般問題理事会 非公式会合(結束)(ルーアン)
3月1日 米国大統領一般教書演説
1日 米国テキサス州予備選
1日 三・一独立運動から103年
1-5日 WFP執行理事会 First regular session(ローマ)
3月1日-4月2日 国連人権理事会
2日 カナダ中央銀行政策金利発表
2日 ベージュブック(FRB)
2日 アトラスV(静止気象衛星GOES-T)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
3日 EU1月失業率発表
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4日 メキシコ2月自動車生産・販売・輸出統計発表
4日 ブラジル2021年第4四半期GDP発表
4日 米国2月雇用統計発表
4日 第13期全国人民政治協商会議第5回全体会議(北京)
4-13日 北京2022冬季パラリンピック(中国・北京)
5日 第13期全国人民代表大会第5回全体会議(北京)
5日 ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第67次および第68次長期滞在ミッション用ソユーズMS-21)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
<7日->
7日 中国1-2月貿易統計
8日 米国1月貿易統計発表
8日 ユーロスタット、2021年第4四半期実質GDP成長率発表
9日 韓国第20代大統領選挙
9日 メキシコ2月CPI発表
9日 中国2月CPI発表
9日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
9日 ロシア2月CPI発表
10日 ブラジル1月月間小売り調査発表
10日 米国2月CPI発表
10-11日 特別欧州理事会(フランス)
11日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル2月IPCA発表
11日 インド1月鉱工業生産指数発表
14-17日 香港国際フィルム&テレビ・マーケット(フィルマート)
15日 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15-16日 米国FOMC
15-16日 ブラジル中央銀行、Copom