外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年2月25日(金)

デュポン・サークル便り(2月25日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は過去数日、Tシャツ短パンで歩けるほど暖かくなったかと思えば、今日は小雪にみぞれ。でも、週末までに天気は回復し、季節並みの気温が予想されています。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

ついにワシントン時間の23日夜、ロシアがウクライナに侵攻を開始したことで、今朝からワシントンは一気にあわただしさを増しています。CNNは朝から約30年前の湾岸戦争開戦時を思い出させる報道ぶりですが、ローカルニュースも在米ロシア大使館の前に在米ウクライナ人が集まり抗議活動を行っている様子などを報じています。23日に経済制裁の第1段階を発表したばかりのバイデン大統領ですが、侵攻を受けて、24日午後には早速記者会見を行いました。その中で大統領は「プーチンは世界平和を維持してきた大原則に対し攻撃を加えた」「目的は最初から、ロシアの安全保障上の懸念などではなかった。最初からむき出しの軍事侵攻を目的としたものだった」と非難し、「米国および我が国の同盟国とパートナーは、今回の事態を切り抜け、より団結し、より強い決意をもち、より平和的になるだろう」などと語りました。

ロシアのウクライナ侵攻から一夜明けた24日以降、巷間の話題はもっぱら、ロシアの次の一手はどうなるか、です。初動の作戦は第二次世界大戦を彷彿とさせる陸海空軍を導入した大規模な軍事侵攻でしたが、今後、ウクライナの重要インフラに対するサイバー攻撃や、ロシアによるディスインフォメーション活動も警戒しなければならない、という指摘も多くなされています。また、バイデン政権がEUと連携して、どのような経済制裁第二弾を発表するかも大きな関心の的になっています。なお、現在のところ、ウクライナへの米軍派遣には消極的なバイデン大統領ですが、今後は情勢を鎮静化するため、NATO東端のポーランドやバルト3国などにどのような支援をするのか、米軍派遣に至らないまでもウクライナにどのような支援を行うのかが、米国の本気度を測る上で重要なバロメーターになっていくでしょう。また、米ロ2国間直接交渉は今のところ決裂したままですが、事態の収束に向けウクライナ、フランス、ロシアの4者協議である「ノルマンディー・フォーマット」や、国連安保理などを舞台にした駆け引きも加速していくでしょう。

このような中、アメリカのメディアでは、早くも今回の事態により米国経済にどのような影響が出るかについて報じ始めています。価格高騰が懸念されるのは石油だけではありません。ロシアが穀物一般の最大の輸出国の一つであることや、ウクライナからの金属輸出が今回の事態を受けて止まっていることなどから、事態が長期化すれば国民生活の様々な面に影響が出ることが指摘されています。

昨年夏、アフガニスタンからの米軍撤退時に現地で大混乱を招いたことが、外交政策上の大きな失点となってしまったバイデン政権。今回の事態への対応も誤るようなことがあれば、得意分野だったはずの外交政策で再び大きな失点となります。そうなれば、2024年大統領選挙で共和党大統領候補がこれらの点を突いてくるのは確実。内政アジェンダではインフラ投資法案以外目立った成果がなく、今年秋の中間選挙への悪影響が懸念されているバイデン政権ですが、最悪の場合、中間選挙後に早くもレイム・ダック化してしまう可能性もあります。果たしてバイデン政権、今回の窮状を切り抜け、何らかの解決策を見いだすべく国際社会をリードしていけるのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員