キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年2月15日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
先週は、欧州がロシア軍の「ウクライナ国境周辺集結」問題で緊迫する中、北京五輪期間中の東アジアでは外交面で幾つか大きな動きがみられた。米国がようやく「インド太平洋戦略」を発表する中、豪州でクアッド(日米豪印)外相会合が、その直後ハワイでは日米韓外相会合が、それぞれ開催されたからである。
勿論、一連の動きの大半は中国を抑止するためのものだ。米バイデン政権の強い意志が感じられたが、日本が果たした役割も決して小さくはない。個々の文章や会合の詳細には立ち入らないが、ウクライナ問題をめぐり「忙殺」される中、以下に述べる通り、米国がインド太平洋地域重視を再確認した意義は大きかったと考える。
まずはインド太平洋戦略だが、内容的にはそれほど新味がある訳ではない。日韓豪などの同盟国・友好国との連携、安全保障の強化、気候変動や新型コロナ対策など従来から行われてきた政策を再確認している。筆者が注目したのは、経済安全保障関連で近く「インド太平洋地域の経済的な枠組み」を立ち上げると述べたことだ。
トランプ政権が撤退し残り11か国で守ってきたTPPに米国が近い将来復帰する可能性はない。だが、この「新たな枠組み」では、労働・環境分野の規制、デジタルデータ管理、サプライチェーン構築などで貿易ルールを設定するとしている。バイデン政権は、TPPの発展的「解消」ではなく、発展的「改称」を狙っているのだろうか。
第4回日米豪印外相会合は予想通りの内容で、「本年前半に日本で開催される日米豪印首脳会合の成功に向け、外相間でも緊密に連携していくことで一致」したという。クアッドは今も「発展途上」であり、今後印豪で行われる地方選挙、総選挙を考えれば、こうした会合が積み重ねられていくこと自体が重要なのだろう。(共同声明)
豪州では日豪外相会談、日印外相会談、日米外相会談も行われたが、筆者が最も注目したのはハワイで行われた日米韓外相会合と日韓外相会談だった。林外相は「日米韓そして日韓間において、北朝鮮への対応に関し、三国間の安全保障協力の強化を含む地域の抑止力強化などを確認できた」と記者会見で述べている。
他方、日韓二国間関係には目立った進展がなかった。韓国大統領選挙の結果を見るまでは日韓双方とも動きようがないのだろう。その大統領選挙も三週間後に迫っているが、正直言って、確信をもって結果を予測することは難しい。日韓関係は当分冷えたままだろうが、それで喜ぶのが北朝鮮と中国であることを忘れてはならない。
話をウクライナ問題に戻そう。本原稿執筆中にも、ロシアの外相と国防相がプーチン大統領に現状報告を行い、外相が「欧米との協議で合意に達するチャンスはある」と伝えたことを受け、プーチン大統領は対話の継続を支持する考えを示した」と報じられた。本当かね、今週も戦争勃発の可能性をめぐり内外で活発な論争が続くだろう。
〇アジア
言い忘れたが、ハワイでの日米韓外相会合の共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」も明記された。躊躇する韓国を米国が押し切ったのか、それとも、韓国が米国との連携を最優先した結果と見るべきなのか。いずれにせよ、文在寅政権の下で「台湾」に言及した意味は決して小さくないだろう。
〇欧州・ロシア
米英の「侵攻間近」論と大陸欧州の「外交的解決」論の論争は対露「情報戦」と見るべきだろう。その中で独新政権の動きが気になる。対ウクライナ支援・連帯は表明しても、ロシア産ガスを運ぶ「ノードストリーム2」を止める制裁には一切言及しない。ショルツ新首相にとっては就任早々大きな政治的試練だが、21世紀の「チェンバレン(対独宥和論者)」にならない保証はあるのだろうか。気になるところだ。
〇中東
ウクライナ問題も台湾問題もない中東では、UAEのドバイで開催中の万博が盛況らしい。ドバイ万博は中東初で2021年10月の開幕から入場者数が1200万人を突破したそうだ。今は湾岸地域も気候が良いし、流石は商都ドバイである。だがイランの動きを考えると、こうした一時的な平和が何時まで続くかは別問題だろうが・・・。
〇南北アメリカ
コロナ対策に反対するトラック運転手らの抗議デモで封鎖されていた米国とカナダ国境の橋がようやく再開されたという。カナダ警察がデモ隊を排除した結果で、両国間貨物物流の約3割がようやく正常化するそうだ。それにしても、カナダにも「トランプ主義者的」な人々が大勢いるのだろうか。筆者にはそちらの方がショックだった。
〇インド亜大陸
インド外相がクアッド外相会議に参加したことは良かった。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
1月25-4月15日 ジュネーブ軍縮会議 First part(ジュネーブ)
2月4-20日 北京2022冬季オリンピック(中国・北京)
10-20日 ロシアとベラルーシの合同軍事演習
10-20日 ベルリン国際映画祭
13-14日 EU外相理事会(貿易)(マルセイユ)
14日 独ウクライナ首脳会談(キエフ)
14日 イラン・バヒディ内務相がパキスタンを訪問
14日 エレクトロン(BlackSky 16, 17)打ち上げ(ニュージーランド マヒア半島)
14日 PSLV-XL(EOS-04)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
14-15日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(労働・雇用・社会政策)(ボルドー)
15日 独ロシア首脳会談(モスクワ)
14-17日 欧州議会本会議(ストラスブール)
14-18日 東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性に関するレビューIAEA関係者の訪日
15日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-19)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
15-16日 UNウィメン執行理事会 First regular session(ニューヨーク)
16日 EU競争力担当相理事会(宇宙)(トゥルーズ)
16日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
16日 米国1月小売統計発表
16日 中国1月CPI発表
16日 北朝鮮の故金正日総書記の生誕記念日
17日 米国・FOMC議事録(FRB)
17-18日 第1回G20財務相・中央銀行総裁会議(インドネシア・バリ)
17-18日 EU・アフリカサミット(ブリュッセル)
17-18日 IFAD(国際農業開発基金) Governing council 第44回会合(ローマ)
17-19日 ロシア投資フォーラム2022(ロシア・ソチ)
18日 ロシア2021年経済活動別および需要項目別GDP統計発表(速報値)
18-20日 ミュンヘン安全保障会議(ミュンヘン)
19日 旧日本軍による豪ダーウィン空襲から80年
20日 長崎県知事選
20日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機17号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
<21-27日>
21日 EU外相理事会(ブリュッセル)
21日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
21日 ニクソン米大統領訪中から50年
21日 大統領の日(ワシントン生誕日)で米市場休場
21日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星 49機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
21-22日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(運輸)(ル・ブルジェ)
22日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
22日 国連軍縮委員会 organizational session(ニューヨーク)
22-3月19日 ICAO(国際民間航空機関) council phase 225回会合(モントリオール)
23日 EU1月CPI発表
24日 米国2021年第4四半期および2021年年間GDP発表(改定値)
24日 メキシコ2021年12月小売・卸売販売指数発表
24日 ブラジル2021年12月全国家計サンプル調査発表
24日 EU競争力担当相理事会(ブリュッセル)
24日 米国連邦政府による防衛、公衆衛生、情報通信技術、エネルギー、輸送、農産物・食品生産の各産業基盤に関する1年間のサプライチェーン評価報告書の提出期限
25日 1月米・PCE物価指数(商務省)
25日 メキシコ2021年第4四半期GDP発表
25日 ロシア1月鉱工業生産指数発表
25日 ロシア2021年貿易統計発表
25-26日 EU経済・財務相理事会 非公式会合(パリ)
27日 石垣市長選
27日 「核のごみ」最終処分地の文献調査が進む北海道神恵内村で村長選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問