キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年2月14日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
米国東海岸は、先週、南はフロリダから北はマサチューセッツ、メイン州に至るまで、大寒波と積雪に襲われたと思ったら、今週は例年以上の暖かさ。久しぶりに日中、外出時に冬用のコートが必要ない日がここ数日続いています。ですが、また週末からはドーンと冷え込む模様。先週、北京で開幕した冬季オリンピックは、時差の関係で全ての種目が録画でしか見ることができないため、リアルタイムで見ることができる日本ほどの盛り上がりはありませんが、それでも、2010年バンクーバー五輪以来アメリカ人としては初めて、ネイサン・チェンが男子フィギュアスケートで金メダルを獲得したニュースは大きく報じられました。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
先週に引き続き、今週もアメリカ外交は、ウクライナ情勢をめぐるロシアとの対決が最大の話題です。先週は、国連安保理で米ロがガチンコ対決しましたが、今週に入り、「米ロ」というよりも「米・NATO対ロシア」の色彩がより色濃くなってきました。7日(月)にはオラフ・ショルツ独首相が、首相就任後初の訪米、バイデン大統領との米独首脳会談に臨みました。首脳会談後の記者会見では、両首脳揃ってロシアがウクライナ軍事侵攻に踏み切った場合は共同歩調で対応する意思を強調。ですが、ロシアからの天然ガス輸出に依存する西欧諸国にとって、ロシアから独経由で欧州につながる天然ガスパイプラインの「ノード・ストリーム2」の遮断を、対ロ制裁パッケージに加えるかどうかについては、米との間に見解の相違がある問題です。ショルツ独首相も、共同記者会見の質疑応答の中でこの問題について再三聞かれたものの、「米国と共に行動する」と答えた以外は詳細を語らず。「(ノード・ストリーム2を)終わらせる。約束する」と言い切ったバイデン大統領との違いが明らかになりました。10日には、ロシアとベラルーシがウクライナ国境付近で大規模な共同軍事演習を開始したことが報道され、バイデン大統領がウクライナ在住の米国人に、至急、ウクライナから出国するように呼びかけたこともあり、ウクライナ情勢はますます、目が離せない状況になっています。
内政では、2月6日に、保守派の法学者や憲法学者が集う「フェデラリスト・ソサエティ」の会合で基調講演をしたマイク・ペンス前副大統領が、ついにトランプ前大統領に反旗を翻したことが話題を集めました。トランプ政権期間中だけでなく、政権移行後も、トランプ前大統領を表立って批判することは徹底的に控えていたペンス前副大統領。ですが、いまだに選挙で敗れたことを本気で受け入れられないのか、2024年大統領選挙に向けて支持者にテコ入れを図りたいのか、理由は定かではありませんが、トランプ前大統領が「マイク・ペンスは1月6日の選挙結果をひっくり返す権限があった(のに、選挙結果に異議を唱えなかった)」!とペンス前副大統領を名指しで非難するツイートをくり返し出したことで、ペンス前副大統領の堪忍袋の尾が切れたようだ、というのがもっぱらの噂です。しかも、ペンス前副大統領のもとには、2月6日の演説後、共和党系のドナーから支援の申し出がひっきりなしに来ているとか。2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件については、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務も、「我々があの日目撃したのは、選挙結果に基づく平和裏な権力移行のプロセスを妨害しようとする行為だった」と、トランプ大統領に批判的なコメントをしています。トランプ前大統領が出馬に意欲を見せている2024年大統領選挙に向けて、元上司の対抗馬として自らを位置付けようとするペンス前副大統領の意図も見え隠れしているようで、今後は、共和党内の内紛にも目が離せなくなっていきそうです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員