外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2022年2月8日(火)

外交・安保カレンダー (2月7-13日)

[ 2022年外交・安保カレンダー ]


ロシア軍が「ウクライナ国境周辺に集結し始めた」と報じられてから、早くも2カ月が過ぎた。2月1日に米国務長官が「ロシアがウクライナに重大な攻撃的活動を計画している証拠がある」「プーチン大統領が侵略を決定したかどうかは不明だが、侵略には重い代償を支払わせる用意がある」と記者会見で指摘したのが始まり、と記憶する。

プーチンは本当にウクライナ侵攻に踏み切るのか?「必ず侵攻する」説は少数派だろうが、それ以外にも、これまで内外メディアでは「侵攻の可能性は高い」「NATO側の対応次第では侵攻する」、いや「侵攻はあり得ない」、「単なる陽動作戦だ」等々、数え切れないほどの相反する見解・予測が表明されている。

筆者はロシアの専門家ではないので、断定的予測をせずとも許されるかもしれぬ。だが、ロシア東欧の専門家の方々は今頃大変だろうな、とつくづく思う。炎上を防ぐ最も賢い方法は、「それは私には分からない。プーチン大統領に聞いて欲しい。しかし、プーチン自身も未だ決めていないのではないか?」というものだが、如何だろうか?

原稿執筆中に露大統領と仏大統領がモスクワで会談後に共同記者会見を行い、プーチン大統領が「会談は、有益だった」「事態打開に向け、マクロン大統領から示されたいくつかの提案は実現可能と考える」と述べたと報じられた。他方、独新首相は現在訪米中で、ロシアとNATO諸国の間で虚々実々の駆け引きが続いている。

米露が米露なら、仏独も仏独だろうが、ここで欠けているのが東欧諸国の視点だ。今回は時間の関係で詳細を書くことは出来ないが、東欧、例えば、今回のウクライナ危機で最も危機感を募らせているのがポーランドだ。同国の専門家のインタビュー記事は非常に参考になった。ご関心ある向きは、英語だがこちらをお読み頂きたい。

それにしても、最近米情報機関や政府高官はしきりに「早期のロシア軍侵攻とキエフ陥落」の可能性を喧伝している。これはバイデン政権一流の「宣伝戦」か、それとも「正確な情報」なのか。これら様々な情報は、「侵攻などあり得ない」と言い切った専門家たちの見解も含め、数週間後には、きっちりと、検証させてもらおうか。

一方、東アジアでは北京冬季オリンピックが始まった。日本人選手には申し訳ないが、今回筆者はどうも気乗りがしない。これほど開催前から「ミソの付いた」五輪大会はなかっただろう。しかも、競技会場に雪がない。人工雪を降らすどころか、人工雪を大量生産し固めた会場が多いと聞く。一体、どこが「夏冬五輪開催」都市なのか。

開幕前の日本マスコミの最大関心事の一つが、開会式の聖火最終ランナーにテニスの彭帥選手が起用される可能性だった。でも、それはないだろう。せっかく世界が忘れ始めたのに。彼女を再び世に出せば、世界のマスコミがまた騒ぎ出すだけだからだ。案の定、最終ランナーはウイグル族の女性だったが、これも実に姑息だ。

中国といえば、最近、在米中国人・楊建利の興味深い講演集に目を通す機会があった。楊建利は日本より、米国の方で有名だ。楊は中国人権活動家で、1963年中国山東省生まれ。北京師範大数学系卒業、カリフォルニア州立大バークレー数学博士号、ハーバード大政治経済学博士号を取得した、秀才中の秀才である。

89年の天安門事件時に帰国し民主化運動を支援して当局にマークされ、98年から米国で民主活動を本格化。2002年、秘密裏に帰国し中国国内の労働運動を視察して逮捕、スパイ罪・不法入国罪に問われ、懲役5年の実刑判決を受け服役。07年釈放、国外追放となるが、同年末米国で民主化運動を再開、今も講演を続けている。

その楊建利が過去20年間に行った様々な発言を集めたのが、今回目を通した「中国を変えよう: アメリカ議会を動かした証言」なる本だ。楊の民主主義、人権、天安門事件などに関する発言は、今の中国では決して聞けないものばかり。詳細は今週の産経新聞コラムに書いたが、ご関心があれば、同講演集をご一読願いたい。

〇アジア
北京五輪では、コロナ感染で隔離された選手たちから、施設での食事のひどさや隔離条件の不透明さを批判する声が上がっているそうだ。具体的には、食事の量が足りず、まともに食べられるものがない、隔離条件も不透明だという。おいおい、何の文句があるのか。ここは「ゼロコロナ」の国だぞ。感染者には人権などないのだから。

〇欧州・ロシア
北京五輪の初日、早速オランダ人TV記者の生中継が中国側当局により物理的に妨害される事件が起きた。今大会でメディア関係者の行動範囲は制限されているそうだが、詳細は不明。同記者は「ここ数週間、何度か警察から妨害されたり止められたりした」ことがあると述べているが、そこは北京、「これが最後の妨害」の筈はない。

〇中東
2日夜、米軍部隊がシリア北西部で対テロ急襲作戦を実施し、「イスラム国」最高指導者を殺害したそうだ。ヘリコプターで現場に到着した米軍特殊部隊は民間人に退避を呼び掛け、その後、同最高指導者の自爆で子供と女性を含む家族が巻き添えになったという。ビンラーデイン殺害作戦を思い出すが、米特殊部隊の作戦は続くだろう。

〇南北アメリカ
ペンス前副大統領が、選挙結果を覆す権限がペンス氏にあったと主張するトランプ前大統領は「間違っている」と述べたそうだ。ペンスは共和党良識派の支持を狙うのだろうが、共和党を「乗っ取った」トランプを正面から批判して大丈夫か。良識派の逆襲の始まりなのか、それとも負け犬の遠吠えなのか。全ては11月に判明する。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕

1月18-2月12日 国連子どもの権利委員会 第89回会合(ジュネーブ)

1月25-4月15日 ジュネーブ軍縮会議 First part(ジュネーブ)

1-12日 国連子ども権利委員会 第89回会合(ジュネーブ)

4-20日 北京2022冬季オリンピック(中国・北京)

6-8日 スリランカ・ピーリス外相がインドを訪問

7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

7日 仏露首脳会談(モスクワ)

7日 米独首脳会談(ワシントン)

7-8日 EU農水相理事会 非公式会合(農業)(ストラスブール)

7-8日 フランス・ル・ドリアン外相およびドイツ・ベアボック外相がウクライナを訪問

8日 米国2021年12月貿易統計発表(商務省)

8日 人間の安全保障に関する特別報告書グローバル・ローンチの開催(オンライン)

8日 仏・マクロン大統領がウクライナを訪問

9日 メキシコ1月CPI発表

9日 ブラジル2021年12月月間小売り調査発表

9日 ロシア1月CPI発表

9-10日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会 非公式会合(保健)(グルノーブル)

9-12日 UNICEF執行理事会 First regualr session(ニューヨーク)

10日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

10日 米国1月CPI発表(労働省)

10-20日 ロシアとベラルーシの合同軍事演習

10-20日 ベルリン国際映画祭

11日 インド2021年10月鉱工業生産指数発表

11日 メキシコ2021年12月鉱工業生産指数発表

11日 ロシア中央銀行理事会

11日 ソユーズST-B(ワンウェブ衛星#13 34機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)

13日 ドイツ大統領選

13-14日 EU外相理事会(貿易)(マルセイユ)

<14-20日>

14日 エレクトロン(BlackSky 16, 17)打ち上げ(ニュージーランド マヒア半島)

14日 PSLV-XL(EOS-04)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)

14-15日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(労働・雇用・社会政策)(ボルドー)

14-15日 ドイツ・ショルツ首相がウクライナとロシアを訪問

14-17日 欧州議会本会議(ストラスブール)

15日 ソユーズ2.1a(ISS無人補給機プログレスMS-19)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)

15-16日 UNウィメン執行理事会 First regular session(ニューヨーク)

16日 EU競争力担当相理事会(宇宙)(トゥルーズ)

16日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)

16日 米国1月小売統計発表

16日 中国1月CPI発表

17-18日 第1回G20財務相・中央銀行総裁会議(インドネシア・バリ)

17-18日 EU・アフリカサミット(ブリュッセル)

17-19日 ロシア投資フォーラム2022(ロシア・ソチ)

18日 ロシア2021年経済活動別および需要項目別GDP統計発表(速報値)

18-20日 ミュンヘン安全保障会議(ミュンヘン)

19日 旧日本軍による豪ダーウィン空襲から80年

20日 長崎県知事選

20日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機17号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問