キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2022年1月4日(火)
[ 2022年外交・安保カレンダー ]
謹賀新年、2022年も宜しくお願い申し上げる。今年の年始は三が日で終わり、4日からは通常営業となったのだが、今回は年頭から少しまじめに考えた。過去一年間、もしくはそれ以上の期間にわたり、もしかしたら筆者は「放電」ばかりしていたのではないか、しっかり「充電」ができていなかったのではないか、という反省である。
振り返ってみると、心当たりはある。昨年までは週に数回の原稿を書くために、短期「充電」と短期「放電」を毎週繰り返してきたような気がする。締切日に遅れるのは嫌だから、何とか間に合うよう徹夜してでも原稿は書く。それなりのものは書き上がるのだが、読み直している暇はない。次の原稿の締め切りが近付いているからだ。
そこで今年は考え方を180度転換した。要するに、「充電」なければ「原稿」なし、である。勿論、「充電」したからといって、原稿の質が上がるとは限らない。それでも、これまでより、もう少し余裕をもって考え抜いてから原稿を書いてみたい、そんな気分になってきたのだ。歳を取ったからか、怠け者になったからか、本人にはわからない。
という訳で、今年前半は原稿の数が少し減るかもしれないが、このカレンダーだけは別である。これまで毎週お付き合い下さった読者の皆様方には改めて心から御礼申し上げたい。本年も可能な限り、週一回のペースでこの外交安保カレンダーを書き続けるので、何卒宜しくお願い申し上げる。
さて、新春最初のテーマは「合成の誤謬」だ。英語ではfallacy of compositionといい、元来は「ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、必ずしも意図しない結果が生じること」を意味する経済学用語だった。ところが、この原理、国際政治にも結構当てはまると思っている。
「合成の誤謬」とは要するに、「個々のレベルでは正しい対応をしても、全体で見ると悪い結果をもたらしてしまう」ことだが、これこそ、現在の対中、対露外交の本質を突いている言葉ではないかと思うのだ。例えば、バイデン政権の対プーチン対応は、個々の政策については、決して間違っていないかもしれない。
米軍がウクライナに軍事介入することはないし、ロシアが軍事侵攻すれば、厳しい経済制裁を科す、NATOの同盟国と協議しながら外交的解決を目指す、云々。どれも一つ一つは間違ってはいないが、これを全体的に見れば、バイデン政権の対露政策は「宥和政策」にしか見えない。勿論、「融和」ではなく、悪い意味の「宥和」である。
同様のことは、日本の対中政策についても言えないだろうか。北京冬季五輪への対応は「外交ボイコット」とは呼ばないが、閣僚レベルの代表は送らず、中国の人権問題については強い懸念を表明し続ける。これで北京は困るだろうか?恐らくは、「痛くも痒くもない」のではないか。
今週のJapanTimesコラムはこの点を掘り下げてみるつもりだ。ちなみに、英語のコラムも少し回数が減るかもしれない。これも、一定水準の内容を維持するための試みの一つである。さて、こうやってみて、うまく「充電」できるだろうか。数は減っても、内容は増えたと言われるよう、引き続き精進していくつもりである。
〇アジア
香港の民主派系インターネットメディア「衆新聞」が新年早々運営を停止した。香港国家安全維持法による蘋果日報、立場新聞の消滅に続く悲しい事件である。香港の主要な民主派系メディアはほぼ壊滅状態となったようだが、香港民主主義の復活は難しい。残念だが、元々、民主主義の伝統などなかったからだ。
〇欧州・ロシア
欧州委員会が「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」規則に天然ガスと原子力の投資を含めると決定したそうだ。そりゃ、当然だろう。天然ガスと原子力発電を抜きに、欧州の「脱炭素化」は語れないからだ。ところが、日本では「原子力発電」自体が事実上停滞している。これでどうやって「脱炭素」をやるのだろうかねぇ。
〇中東
スーダンでは、昨年クーデターで軍に排除された後に復帰していた暫定首相が辞任を表明した。「この国の民政への移行期間の残りを他の人に託したい」と述べたというが、やっぱりね。要するに政治力不足で、政権を放り投げた格好だろう。軍が受け入れる人物では民主化など不可能だし、スーダンの苦悩は続きそうだ。
〇南北アメリカ
毎度お騒がせのブラジル大統領が新年早々、腹痛を訴えて入院したそうだ。2018年に暴漢に腹部を刺され、後遺症で何度か入院しており、今回も腸閉塞が疑われているらしい。今年10月の大統領選で再選を目指すが、世論調査では返り咲きを狙う左派の元大統領の方が優勢らしい。BRICS、BRICSと騒いだのも今は昔か?
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
3-6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3-8日 米家電・IT見本市「CES」(一般公開は5日から)(ラスベガス)
4日OPECプラス閣僚級会合(テレビ会議)
4日 東証大発会
5日 豊洲市場初競り
6日 国連軍事参謀委員会 2022会議(ニューヨーク)
6日 米国2021年11月貿易統計発表
6日 ブラジル2021年11月鉱工業生産指数発表
6日 米FOMC議事録(FRB)
6日 インド・モディ首相がUAEを訪問
6日 トランプ前大統領支持者らによる連邦議会襲撃から1年
7日 米国2021年12月雇用統計発表
7日 インド2021年度GDP予測値発表
7日 メキシコ2021年12月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)(場所は未定)
7日 中国・王外相がモルディブを訪問
7-8日 カンボジアフン・セン首相がミャンマーを訪問
8日 北朝鮮の金正恩総書記誕生日
9日 第79回ゴールデン・グローブ賞授賞式(米国)
9-11日 ネパール・デゥバ首相がインドを訪問
<10-16日>
10日 EU2021年11月失業率発表
10-11日 アジア金融フォーラム(香港)
10-12日 インド投資誘致サミット「バイブラント・グジャラート2022」(ガンジナガール)
11日 メキシコ2021年11月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル2021年12月IPCA発表
12日 UNICEF 執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
12日 UNウィメン執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
12日 インド2021年11月鉱工業生産指数発表
12日 米国2021年12月CPI発表
12日 LauncherOne “Above the Clouds” (ADLER-1, PAN-A, B, SteamSat-2, STORK-3)打ち上げ(カリフォルニア州モハべ/ボーイング747-400空中発射)
13日 国連、世界経済状況・予測(World Economic Situation and Prospects)発表
13日 ファルコン9(Transporter-3)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
14日 米国2021年12月小売統計発表
14日 ブラジル2021年11月月間小売り調査発表
14日 中国2021年通年貿易統計発表
15日 Rocket3(S4 CROSSOVER)打ち上げ(アラスカ Kodiac)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問