キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年12月28日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
遂に2021年最後の原稿となってしまった。今年も毎週お付き合い下さった読者の皆様方に心から御礼申し上げる。振り返ってみれば、この外交安保カレンダーの第一回原稿は2010年10月18日付であり、あれから飽きもせず11年も書き続けたことになる。飽きっぽい筆者にしては、よくまあ続いたものだと、我ながら(?)感心する。
毎週その時々の気になったニュースやイベントについて、半ば直感的に書くことが多い。だから、当たりもあれば、外れもあったと思う。それでも、こうして10年以上、曲がりなりにも毎回世界一周してきたお陰で、ようやく国際政治とはどういうものか、ほんの少し、以前よりは、分かってきたような気がする。勿論、まだまだ、だが。
筆者にとって最もご縁がなかったのがロシアだ。外務省には強力なロシア語の専門家集団がいる。外務省の外にも、これまた強力なロシア東欧の専門家がいる。筆者の出る幕などなかったし、出たいとも思わなかった。それでも、過去数年で北欧・東欧諸国やバルト海諸国を回り、ようやく欧州国際政治の奥深さが少しわかってきた。
前回は米露首脳会談でプーチン大統領がバイデン大統領に提案した「NATO東方不拡大を約束する米ロ二国間条約の草案」について書いたが、今週はロシアに関する主要日刊紙の最近の社説を読み比べてみた。意見は様々だが、考えてみれば、各社にもそれぞれ一家言ある専門家集団がいるのだから、当然といえば当然だろう。
以上の通り、保守系紙の論調はロシアに対し厳しいが、他の日刊紙の内容は微妙に変わってくる。朝日は意外に(失礼!)ロシアに批判的だが、他のリベラル紙はどこか奥歯に物が挟まっているような論調だ。
日経はロシアには厳しいが、北方領土問題では「日本側の方針のブレ」を指摘している点が興味深い。
なるほど、どうやら日本メディアの対露観は未だ収斂していないようだ。今回のプーチンの動きを元KGB独裁者の「ソ連」復活の野望と見るか、欧州の一員のつもりなのに、決して欧州は受け入れないロシアを救う民族主義者の愛国的行動と見るかによって、今回の米露首脳会談の評価は分かれるだろう。果たしてどちらなのか。
いずれにせよ、最大のボタンの掛け違いは、西側が「東西冷戦に勝利した」と思っているのに対し、プーチンはこれぽっちも「負けた」とは思っていない、もしくは、絶対に負けを認めたくない、だろうことだ。この溝は永遠に続くのだろう。西側は決してロシアを仲間として受け入れない。この点は恐らく、トルコに対しても同様だろうからだ。
〇アジア
オリンピックを間近に控える中国で新規感染者がおよそ1年9か月ぶりに200人を超えたという。ゼロコロナの中国で200人ということは、もしかしたら、実態は2000人はいるかもしれない。これが北京で3年半暮らした筆者の根拠のない実感だ。北京政府は必死で抑え込もうとしているが、完全制圧は難しいのだろう。
〇欧州・ロシア
ロシア外務省は、NATO側から高官協議を来年1月12日に開催するよう打診され、現在検討中だとタス通信に述べたそうだ。恐らくプーチンは「してやったり」と思っているだろう。ウクライナ国境沿いの部隊の一部を撤退させたとも報じられたが、これもプーチン一流の戦術だろう。事務レベルで如何なる議論になるのだろうか。
〇中東
アラブ首長国連邦(UAE)が外交姿勢を変えつつある。昨年のイスラエルとの国交正常化を経て、最近イスラエル首相が同国を公式訪問した。カタールやトルコとの関係改善を進める一方、シリアにも秋波を送っている。この湾岸の大金持ちの小国の動きは米中覇権争いの中で国益の最大化を目指すUAE外交の軌道修正なのか?
〇南北アメリカ
米国の世論調査によれば、「過去40年間、大統領の職務を最も全うした人」はオバマが35%、レーガンが23%、トランプが17%、クリントンが12%だったが、ジョージ・W・ブッシュは4%、父親のジョージ・H・W・ブッシュとバイデンはそれぞれ3%だったという。たかが世論調査、されど世論調査だ。バイデンが最下位なのが気になる。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
27日 イラン核合意交渉再開(ウィーン)
27日 英市場休場(振替休日)
27日 ソユーズ2.1b(ワンウェブ衛生#12 36機)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
28日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア2021年第3四半期需要項目別GDP統計(速報値)発表
31日 中国12月PMI発表(国家統計局)
1月1日 フランスがEU議長国に就任
1日 カザフスタンがCISの議長国に
1日 ニューヨーク次期市長が就任
1日 ロシアで公共サービス提供に関する改正法が発効。これまで登録事務所に限られていた死亡、離婚、改名など市民の法的地位の変更が最寄りの役所で可能に
<2022年1月3-9日>
3-6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 米国2021年11月貿易統計発表
6日 ブラジル2021年11月鉱工業生産指数発表
7日 米国2021年12月雇用統計発表
7日 インド2021年度GDP予測値発表
7日 メキシコ2021年12月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
9-11日 ネパール・デゥバ首相がインドを訪問
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問