キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年12月21日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
今年もあと二回となった。歳をとったせいか、毎年、一年が短くなって行くような気がする。コロナ禍のお陰で家にいる時間が増えたにもかかわらず、こう感じる。今後コロナ禍が一段落したら、時が過ぎるスピードはもっと早くなるのだろうか。いやはや、恐ろしい時代になったものだ。
さて、2021年の回顧と2022年の展望は、一応先週書いたことにして、今週は筆者の専門ではないが、ちょっと気になるニュースを取り上げる。先週内外マスコミは、12月17日にロシアが先日の米露首脳会談でプーチン大統領がバイデン大統領に提案した「NATO東方不拡大を約束する米ロ二国間条約の草案」を公表したと報じた。
案の定、米側は条約草案の内容自体「受け入れない」としたが、ロシアと「協議する意向は示した」という。本邦メディアは、同条約案が米国に対し「NATOに加盟していない旧ソ連諸国の領内に軍事基地を持たないこと」などを求めていると報じているが、そんな簡単な話ではないだろう。
筆者はロシアの専門家ではないが、そんな素人でもこのロシアの提案の意味ぐらいは理解できる。今回ロシア側の態度が従来以上に強硬に見えるのは何故なのだろう。この点については今週の毎日新聞政治プレミアに書かせてもらったが、その「さわり」だけをご紹介しよう。
筆者が最も気になったのは同条約草案の次の部分だ。今回ロシアが提案したのは米露二国間の条約と露NATO間の多国間条約の二つだそうだが、以下の部分はタス通信の報道によるので、どちらの草案に含まれているかは現時点では不明である。内容的に見て、恐らく両方に書かれているのだろう。
「ロシアと1997年5月27日までにNATO加盟国であった諸国は、他のいかなる欧州諸国の領土にも、同日までに配備していた以上の軍隊や兵器を配備しないことを約束する。英語版では
「Russia and all states that were NATO members by May 27, 1997, vow not to deploy their military forces and weaponry on the territory of any of the other European states beyond those deployed by May 27, 1997.」
正直言って、ロシアがここまで図々しく要求してくるとは思わなかった。結構驚くべき内容だが、なぜ1997年5月27日なのだろうか。調べてみたら、その日にはイェリツィン大統領時代のロシアとNATO間で「NATO・ロシア基本文書」が署名されている。なぜロシアこの「基本条約」をわざわざ持ち出してきたのか。
専門家の間では意見が分かれているようだ。その道の専門家たち何人かから聞いてみたが、日本の専門家の中でも、基本条約はロシアがNATO東方拡大に同意したというより、中東欧に核配備がされていない現状の「凍結」を宣言したものとみるべきだ、とする向きもあるという。なるほどね、そういう見方も成り立つかもしれない。
しかし、筆者の見立てによれば、この条約は 「NATO側はNATO新加盟国の領土に核兵器や常駐部隊を配備しないと約束したのに対し、ロシア側はNATOの「東方拡大」を事実上黙認せざるを得なかった」国際合意だったと考えている。 NATO東方拡大を忌み嫌うプーチン大統領にとっては屈辱的な合意だ。
一方、ロシア側は、この「基本条約」でNATOが「核政策を変更しない」「ロシアに対し敵対的行動はとらない」ことなどを約束させたと思っていた。しかし、その後のNATO側の動きはこの条約に反しているので、今回は1997年に戻ることを提案したのだろう。状況はかなり深刻だが、続きは政治プレミアをご一読いただきたい。
〇アジア
香港立法会選挙の結果は、市民の直接投票にもかかわらず当選者20人は親中派一色となったという。認定された「愛国者」しか立候補できないので、投票率も過去最低の30.2%となった。昨年まで我々が見聞きした香港の民主主義は「幻想」だったのか、短命に終わってしまうのか。胸が痛む。
〇欧州・ロシア
ロシアが「領空開放(オープンスカイ)条約」から正式に離脱した。米国が昨年11月、ロシアの条約違反を理由に離脱したのに対し、プーチンは本年6月に離脱法案に署名し、批准国への離脱通告から6か月が過ぎたため発効したようだ。これも、プーチンが悪いのか、トランプが悪いのか、将来の歴史家はどう判断するのだろう。
〇中東
衝撃的なカブール陥落から4か月経ち、世界の関心はアフガニスタンから急速に離れていったが、先週開かれたイスラム協力機構(OIC)外相会合では、アフガニスタンの隣国パキスタンの外相が、アフガンの経済破綻は「重大な結末」を招くと警告したという。ターリバーンを支援した国の外相が「よく言うよ」とは思うが、事態は深刻だ。
〇南北アメリカ
ようやくエマニュエル駐日大使発令が議会で承認されたが、韓国紙は「駐韓米国大使はまだ指名者さえ発表されておらず、11か月間空席になっている。年末が近付くにつれ、駐韓大使の指名は年明けになる可能性が高いと見られている。」とやや自虐的に報じている。どこまでも「日本との比較」が気になる国なのか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
20日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
20日 WTO紛争解決機関会合
21日 日本・臨時国会が閉幕
21日 H-IIAロケット45号機(インマルサット6号機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
21日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン24号機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
21日 H-IIAロケット 45号機(インマルサット6号機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
22日 米国第3四半期GDP発表(確定値)
22日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
22日 ロシア1-10月貿易統計発表
22日 ロシア1-11月鉱工業生産指数発表
22日 アリアン5(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
23日 米・11月個人消費支出(PCE)物価指数の発表(商務省)
23日 メキシコ11月雇用統計発表
23日 LauncherOne “Above the Clouds”(PAN-A, B、SteamSat-2, STORK-3)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
24日 メキシコ11月貿易統計発表
24日 クリスマスの振替休日(米市場休場)
24日 リビア大統領選
24日 アンガラA5/Persei (ワンウェブ衛星#12 36機)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
24日 アリアン5(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
25日 ソ連崩壊から30年
<27日-2022年1月2日>
27日 ソユーズ2.1b(ワンウェブ衛生#12 36機)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
28日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
29日 ロシア2021年第3四半期需要項目別GDP統計(速報値)発表
12月中 中国中央経済工作会議(北京)
1月1日 フランスがEU議長国に就任
1日 カザフスタンがCISの議長国に
1日 フランスがEU議長国に就任
1日 カザフスタンがCISの議長国に
1日 ロシアで公共サービス提供に関する改正法が発効。これまで登録事務所に限られていた死亡、離婚、改名など市民の法的地位の変更が最寄りの役所で可能に
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問