キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年12月1日(水)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
今年もあと一ヵ月。これでは来年も海外出張は難しいかもしれない。外交評論家が海外出張できないなんて、洒落にもならない。早く自由に行きたい国に行って、何の憂いもなく帰国できる日が来ることを待ち望んでいる。これは多くのビジネスパーソンも同様であろう。恐ろしい時代になったものだ。
さて、恐ろしいといえば、中国人にとって今は受難の時代かもしれない。先週末ソロモン諸島の首都で暴動が起き、略奪や放火の標的になっていた同市内の中国人街で焼失した建物の中から焼死体3体が見つかったという。首相の辞任などを求めたこの抗議デモの逮捕者は100人以上、首相の内政運営への不満があるらしい。
具体的には、経済開発の停滞やマライ他州の自治権の軽視への不満に加え、台湾との2019年の断交や中国との国交樹立への反発もあるという。だが、いくら反政府デモとはいえ、対台湾国交断絶と対中国交樹立に反対する人々がチャイナタウンの中国人を襲ったとは思いたくない。恐らく別の理由もあったのだろう。
もう一つ、今週気になったのが米軍に関するGPR(地球規模での軍事態勢見直し)だ。米国防総省はGPR作成作業を完了し、インド太平洋地域を「最重要」と位置付けたという。中国による軍事侵攻や北朝鮮の脅威を抑止するために「域内の同盟・パートナー諸国との軍事面での連携強化を図る」と強調しているらしい。
報道によれば、国防長官が部隊の展開場所や戦力、戦略などにつき検証を指示したそうだが、世界に展開する米軍の体制見直しだから、その範囲は極めて広い。インド太平洋では豪州に巡回駐留する米航空兵力の規模拡大と韓国への攻撃ヘリコプター部隊常駐などが含まれるというが、対象はインド太平洋だけではないのだ。
欧州方面では、ロシアに対する抑止強化やNATOの活動効率化を、中東では核開発の加速や域内の武装勢力支援を続けるイランやイスラム過激派によるテロに対する国防総省の取り組みを再評価すると報じられた。しかし、あれもこれもと言っている時代ではない。優先順位付けはワシントンで最も難しい仕事だが、大丈夫なのか。
更に、気になるのが「イラン核合意正常化」関連交渉だ。米国とイランは中断していた間接協議を今週ウィーンで再開したようだが、両国の隔たりは変わっておらず、歩み寄りは容易ではない。イラン側は無条件で全ての制裁解除を求めているが、バイデン政権はイランの「テロ活動」や人権侵害に関する制裁を維持したいからだ。
筆者は最初からこの「イラン核合意」には懐疑的だった。最終的にイランの核兵器開発の「芽」を取り除くことができなかったからだ。しかし、だからといって、この合意から一方的に離脱するのは如何なものか。この合意が不完全であることを認めた上で、更なる交渉をするのが常道である。その意味でトランプ政権の罪は大きい。
〇アジア
韓国の大統領選まであと3カ月になった。与野党の候補が出揃いつつあり、事実上の一騎打ちになるらしい。報道によれば、与党有力候補の「外交ブレーン」は日韓のGSOMIAにつき、「国家間合意はむやみに破棄はできず、尊重しなければならない」と述べたそうだ。おいおい、それなら、まずは1965年の国家間合意から尊重しては如何だろうか。
〇欧州・ロシア
大統領選といえばフランスでも来年4月に投票がある。最近「イスラム文明がフランス国民に置き換わろうとしている」などと主張してきた極右系論客が立候補を表明したそうだ。再選を目指すマクロンに加え、極右候補が二人も立候補することになる。これが欧州にとって何を意味するのか、単なる偶然なのか、詳しく分析する必要がある。
〇中東
トルコが近年緊張関係にあった湾岸アラブ諸国との関係改善に本格的に乗り出し、中東地域での「米国抜き」の秩序形成が加速する可能性もある、などと某通信社が報じた。でも、そうかなあ。トルコはそれを望んでいるかもしれないが、湾岸アラブ諸国が「米国抜き」の国際秩序で生き残れないことは、彼ら自身良く分かっている筈だ。
〇南北アメリカ
ホンジュラス大統領選で「当選したら中国と国交を結ぶ」と発言した野党候補が優勢となっているらしい。実際に断交するかは未知数だそうだが、最近中米ではエルサルバドル、パナマ、ドミニカ共和国が台湾と断交し、中国と国交を樹立している。ホンジュラスをめぐる米中の競争がどうなるか、興味津々だ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
11月26-12月12日 ILO総会 第109回会合を再開(ジュネーブ)
29日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
29日 EU教育・若者・文化・スポーツ担当相理事会(教育と若者)(ブリュッセル)
29日 メキシコ10月雇用統計発表
29日 WTO紛争解決機関会合
29日 イラン核合意の再建に向けた協議の再開(ウィーン)
29日 スイス国民議会議長、全州議会議長選挙
29-12月2日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29-12月2日 米・ブリンケン国務長官がラトビアとスウェーデンを訪問
29-12月2日 林外務大臣がスイス・ジュネーブを訪問
29-12月3日 国連工業開発(UNIDO)総会 第19回会合(ウィーン)
30日 EU若者・教育・文化・スポーツ担当相理事会(スポーツと文化)
30日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
30日 インド2021年度第2四半期GDP発表
30日 バルバドス・サンドラ・メーソン総督が初代大統領に就任
30日 ミャンマー・アウン・サン・スー・チー氏の初判決
30日 立憲民主党代表選
30日-12月3日 第12回WTO閣僚会議(スイス・ジュネーブ)
12月1日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会 第156回会合(ナイロビ)
1日 ベージュブック(FRB)
1日 敬宮愛子さまの20才の誕生日
1日 オーストラリアで日本人の入国規制緩和
1日 ソユーズST-B(Galileo FOC 23,24)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
1-3日 国際中小企業エキスポ(香港)
2日 EU10月失業率発表
2日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
2日 OPECプラス閣僚級会合
2日 ブラジル第3四半期GDP発表
2日 ファルコン9(スペースX社スターリンク衛星 53機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
2日 ソユーズST-B(Galileo FOC 23, 24)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
2-3日 アジア知的財産ビジネスフォーラム(香港)
3日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ブリュッセル)
3日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
3日 米国11月雇用統計発表
3日 LauncherOne “Above the Clouds”(PAN-A,B、SteamSat-2、STORK-3)打ち上げ
(カリフォルニア州モハベ/ボーイング747-400空中発射)
4日 ガンビア大統領選挙
5日 敬宮愛子さまの成年の行事
5日 アトラスV(STPSat-6、LDPE-1)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
<12月6-12日>
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(雇用と社会政策)(ルクセンブルク)
6日 メキシコ11月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 ロシア・プーチン大統領がインドを訪問、モディ首相と首脳会談
6日 ロシアとインドの「2+2」対話(外務・防衛の閣僚協議)(デリー)
7日 EU 2021年第3四半期実質GDP成長率発表
7日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(保健)(ブリュッセル)
7日 米国10月貿易統計発表
7日 中国11月貿易統計発表
7-8日 ブラジル中央銀行、Copom
7-8日 東京栄養サミット2021
8日 ブラジル10月月間小売り調査発表
8日 スイス連邦大統領、連邦副大統領選挙
8日 ロシア11月CPI発表
8日 ギリシャ・ミツォタキス首相がモスクワを訪問
8日 前澤友作氏が宇宙旅行に出発(カザフスタン・バイコヌール)
8日 ソユーズ2.1a(国際宇宙ステーション第66および67次長期ミッション滞在用)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
9日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
9日 中国11月CPI発表
9日 メキシコ11月CPI発表
9-10日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
9-10日 民主主義サミット(オンライン)
10日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
10日 米国11月CPI発表
10日 ノーベル平和賞授賞式(オスロ)
10-12日 G7外相会合(リバプール)
11日 中国がWTOに加入20年目
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問