キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年11月9日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
今週早くも第二次岸田内閣が発足する。先週は総選挙直後にCOP26が英国で開催され、岸田首相の海外初出張(「外遊」は使わない)も超特急だったに違いない。先週も書いたことだが、総選挙前後のメディアの熱狂にもかかわらず、終わってみれば、衆議院での安定多数は従来通り。必要条件の一つはクリアされたようだ。
今週の最大の関心事はやはり中国である。8日から中国共産党は北京で第19期中央委員会第6回総会(6中総会)を開く。毛沢東、鄧小平時代以来3度目となる「歴史決議」の採択が焦点となる見通しだと報じられた。習近平氏にとっては来年の党大会で3期目続投に道筋を付ける重要会議となるのだそうだ。
習近平氏の続投については様々な見立てがあり、ここでは全てを取り上げないが、筆者はやはり、何か嫌な感じを持っている。それは習近平氏への権力集中がけしからんと思っているからでは必ずしもない。そもそも、今の中国で我々が理解する「民主主義」を期待する方が間違っていると思うからだ。
筆者の懸念は党総書記の三期目、もしくは無期限任期がもたらす中国への悪影響である。今の中国に必要なことは適切な政策変更であると思うのだが、今後習氏の長期政権が続くということは、中国が必要とする政策変更の芽が摘み取られていく恐れがあることを意味する。
中国の政策決定過程が硬直化すれば、柔軟な政策判断の機会が少なくなる。場合によっては、冷静で合理的な判断ではなく、個人的な、もしくは誤算に基づく政策判断の可能性が増えることを意味するかもしれない。その危険性は戦前の日本やサダム・フセイン時代のイラクを見れば明らかだと思うのだが・・・。
ところで、昨日は米国StimsonセンターとCIGSの共催で日本の内政に関するウェビナーを再び開催した。総選挙の結果が「日本メディアの事前予想」に反し、少なくとも今回は日本国民が「変化」を選択しなかったためか、前回のウェビナーような「意外感」はなかったようだ。今後は新内閣の政策の詳細が問われることになる。
それにしても便利な時代になったものだ。出張費も、会場費もかからず、手軽にこの種の会合が開催できるのだから。今後はこの種のウェビナーで取り上げるトピック、出席者、タイミング、そして何よりも内容のレベルの高さが求められる。今後も精進していきたいが、取り上げるべきトピックがあれば、ご要望をお寄せ頂きたい。
昨日夜、「次期外相就任が内定したと報じられている」林芳正議員をゲストに招いたプライムニュースがあった。各関係者や派閥の内政上の思惑などが様々報じられているが、日本の外交という観点から見れば、良かったのではないかと思っている。林氏に限らず、最近の外務大臣は一昔前とは異なり、隔世の感がある。
1980年代、外務省の駆け出し事務官だった頃、宮澤喜一元首相を除けば、首相や外務大臣で英語を喋る人は少なかった。今でも忘れられないのは当時の森山眞弓外務政務次官だった。確か彼女は労働省の元局長だったはずなのに、外務省内で外交団を前に英語で素晴らしいスピーチをされて、舌を巻いたことを覚えている。
しかし、当然といえば当然、彼女は津田塾専門学校外国語学科(現、津田塾大学)に入学後、極東国際軍事裁判で翻訳のアルバイトをしていたのだから。その森山さんが先日亡くなった。心からご冥福をお祈りしたい。昔話はこのくらいにして本題に戻ろう。最近の外相は国際情勢に詳しく、英語にも堪能な人が増えてきた。有難いことだ。
〇アジア
サリバン米大統領補佐官がCNNで、台湾への圧力を強める中国につき、「一方的な現状変更に反対する。安全と安定を揺るがす中国の活動に懸念を抱いている」と述べたそうだ。要するに、「曖昧戦略」には触れなかったが、「戦略的曖昧さ」を維持しつつ、「戦術的明確さ」を前面に出そうとしている、のだろう。要注目である。
〇欧州・ロシア
英国で地球温暖化問題を議論するCOP26が開かれたが、中国は不参加。当然だろう、中国から見れば「温暖化」問題とは中国を狙い撃ちする西側の「陰謀」でしかないからだ。残念ながら、中国が動かない「温暖化議論」では「会議は踊る」だけ。日本も強かに国益を最大化すべく立ち回る必要がある。
〇中東
イラクで恐れていた暗殺未遂事件が起きた。7日、イラクのカディミ首相の自宅が爆発物を積んだ無人機で攻撃されたのだ。ドローン攻撃といえば一昔前は米軍の専売特許だったが、今や中露イランなどの国家だけでなく、恐らくは武装ミリシアでも十分使える兵器になったということ。恐ろしいことである。
〇南北アメリカ
ヴァージニア州知事特別選挙で共和党候補が圧勝した。バイデン政権にとっては大打撃と報じられているが、この現象こそ筆者が過去数年恐れていたことだ。それは「トランプより賢い」隠れトランプ候補の登場である。民主党が内紛を止めなければ、この傾向は必ず拡大し、将来は「トランプの方がマシだった」ということにもなりかねない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10月1-2022年3月31日 ドバイ国際万博開幕
25-11月12日 ICAO Council Phase 第224回会合(モントリオール)
31日-11月12日 国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)(英・グラスゴー)
2-14日 ILO (国際労働機関)理事会および委員会 第343回会合(ジュネーブ)
2-19日 INCB(国際麻薬統制委員会)第132回会合(ウィーン)
5-10日 第4回中国国際輸入博覧会(上海)
7-10日 米・クリテンブリンク国務次官補(アジア・太平洋担当)が訪日
8日 ユーログループ(ブリュッセル)
8日 メキシコ10月自動車生産・販売輸出統計発表
8日の週 APEC閣僚会議、APEC首脳会議(バーチャル)
8日 米国入国者のワクチン接種義務化
8-9日 APEC閣僚会議(バーチャル)
8-9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8-11日 中国共産党第19期中央委員会 第6回総会(6中総会)(北京)
9日 メキシコ10月CPI発表
9日 EU経済・財務相理事会(ECOFIN)(ブリュッセル)
9日 ファルコン9(SpaceX社 クルードラゴン宇宙船運用3号機)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
9-12日 2021年IAEAが、福島第1原子力発電所近傍における海洋モニタリングの実施
10日 ECB(欧州中央銀行)政策理事会 非金融政策(フランクフルト)
10日 ブラジル10月IPCA発表
10日 米国10月CPI発表
10日 中国10月CPI発表
10日 ロシア10月CPI発表
10日 第2次岸田内閣発足
10-11日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
10-12日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CNTBO) 第57回会合(ウィーン)
10-12日 米・クリテンブリンク国務次官補(アジア・太平洋担当)が訪韓
11日 EU外相理事会(貿易)(ブリュッセル)
11日 欧州委員会秋季経済予測発表
11日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル9月月間小売り調査発表
11日 米・ベテランズデー(退役軍人の日)(外為、債券市場が休場。株式、商品市場は通常取り引き)
11日 中国・「独身の日」ネット通販バーゲンセール
11日 エレクトロン ‘Love at First Insight’ (BlackSky 10, 11)打ち上げ(ニュージーランド・ マヒア半島)
11-12日 EU司法・内務相理事会 非公式会合(内務)(クラーニ)
11-12日 米・ハリス副大統領がパリを訪問
12日 APEC首脳会議(バーチャル)
12日 EU経済・財務相理事会(ECOFIN)(予算)(ブリュッセル)
12日 CIS首相会議(キルギス・ビシュケク)
12日 インド9月鉱工業生産指数発表
12日 EU経済・財務相理事会(ECOFIN)(ブリュッセル)
14日 アルゼンチン中間選挙
14日 広島県知事選
14日 ブルガリア・大統領選および総選挙
<15-21日>
15日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
15日 中国10月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15-16日 EU外相理事会(防衛)(ブリュッセル)
15-19日 WFP執行理事会 second regular session(ローマ)
16日 米国10月小売売上高統計発表
16日 ヴェガ(3機のCERES)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
16-17日 第11回ASEAN海事フォーラム、第9回ASEAN拡大海事フォーラム
16-17日 UN人間居住計画 執行理事会 second regular session(ナイロビ)
17日EU10月CPI発表
17-28日 米・ロサンゼルス自動車ショー(一般公開は19日から)
18日 EU一般問題理事会(結束)(ブリュッセル)
18日 対日理解促進交流プログラム・日中教育関係者オンライン交流の開催
19日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
21日 チリ国政総選挙(大統領、上院、下院、州議会)
21日 福島市長選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問