外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年10月29日(金)

デュポン・サークル便り(10月29日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、すっかり涼しくなりました。日中は秋晴れが続き、それなりに暖かいですが、朝晩は一気に肌寒くなります。秋にしかリリースされないビールのオクトーバーフェストと共に、こちらもハロウィンぐらいまでしか出回らないパンプキン風味のビールやサイダーがどこに行っても人気です。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけて、アメリカではいろいろな出来事がありました。先週の大きなニュースは、コリン・パウエル氏(元統合参謀本部議長・元国務長官)がコロナウイルス感染が原因で死去したというニュースでした。ニューヨークのハーレムでジャマイカからの移民の両親の下に生まれた同氏は、陸軍軍人として35年のキャリアを積む中でレーガン政権時代に国家安全保障担当大統領補佐官を、ブッシュ(父)政権では統合参謀本部議長を務めました。また、ブッシュ(子)政権では同政権第1期で国務長官を務めています。

このすべてのポジションに黒人として初めて就いたパウエル氏は、国務長官の職を最後に公職にはついていません。2008年の大統領選挙では、ジョン・マケイン上院議員が彼を副大統領候補として選ぶ可能性が高いと言われていたにも拘わらず、バラク・オバマ民主党大統領候補への支持をいち早く表明しました。トランプ政権時代には、同政権の外交政策の諸決定を次々に批判し、202116日には「無党派に鞍替え」することを決定するなど、同氏の一挙手一投足が何かと注目を集めてきました。公の場に姿を見せなくなってからも、共和党エスタブリッシュメントの間ではもちろん、民主党内でも広く尊敬を集めていました。同氏が死去した後、バイデン大統領がいち早く、哀悼の意を表す声明を発表したことからも、パウエル氏を偲ぶ人がどれくらいいるかが分かります。唯一の例外は、メディアがパウエル氏死去に伴うニュースの中で、同氏を「あまりにも美化して報じている」と批判したトランプ前大統領ぐらいでしょうか。。。。

もう一つの大きなニュースは、数週間前から断続的にお伝えしている大型経済支援法案、所謂「インフラ投資法案」の行方と、「ビルド・バック・ベター」法案の歳出規模やその内容をめぐるホワイトハウスと議会の間の交渉です。通常このような大型歳出法案の場合は、「ホワイトハウス・民主党・共和党」の3者協議となりますが、今回は、共和党が完全に知らんぷりを決め込んでしまったため、「ホワイトハウス・民主党中道派・民主党左派」3者協議という組み合わせの交渉になっています。それだけでも異例なのに、この交渉がこの数週間、難航していることも異例です。しかも、気候変動会議への出席を含む欧州外遊に出発する直前の1028日午前に、バイデン大統領本人が議会を訪れ、下院民主党議員に、「ビルド・バック・ベター」法案の内容と規模についてすぐに合意に至ることが難しければ、せめてすでに上院で可決されているインフラ法案を可決してほしいと訴えたにも拘わらず、インフラ投資法案の下院本会議での投票は再び延期されてしまいました。

果たしてバイデン大統領は、肝いりの経済支援2法案を、何らかの形で成立させることができるのでしょうか。国内がこんな状況では、外遊していても気が気ではないでしょう。。。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員