外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年10月8日(金)

デュポン・サークル便り(10月8日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、どんどん秋の気配です。毎年、10月は、ハロウィンに向けて各地の農場で「秋祭り(fall festival )」が行われます。パンプキン狩りのほか、農場で飼育されている動物に触れるミニ動物園、パンプキン型の巨大トランポリンや、超巨大滑り台などが出現し、農場が巨大遊園地化するこの季節は、子供たちにとっても楽しい季節です。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

今週のワシントンは、引き続き、予算をめぐる折衝が最大の焦点です。101日付のデュポン・サークル便りでもお伝えしましたが、債務上限の引き上げをめぐる交渉がなかなか妥協に至りません。この2週間近く、ジャネット・イエレン財務長官は、米国の財務破綻がいかに米国経済だけでなく世界経済にとって「壊滅的な打撃」になるかをいろいろな場所で必死に訴えていました。イェレン財務長官は、クリントン政権時代に経済諮問委員会(CEA)議長を、オバマ政権時代に連邦銀(FRB)副総裁を4年務めたのち、同総裁を2018年まで務めた、米国の経済・財政政策界の重鎮。そんな彼女が「債務上限が引き上げられなければ、米国は建国史上初の財政破綻に陥るだけでなく、米国経済が景気後退に突入する、と警鐘を鳴らしているのですから、事態は深刻です。しかも、通常であればこの手の話題には全くコメントしないロイド・オースティン国防長官まで、「1018日までに債務上限引き上げ合意が成立しなければ、軍人の給料や、退役軍人の年金なども払えなくなる」と発言する異常事態に発展しました。

イェレン長官のそんな警告を横目に、議会との直接交渉に乗り出したはずのバイデン大統領、ナンシー・ペロシ下院議長、チャック・シューマー民主党上院院内総務、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務の4名は、誰一人妥協する姿勢を全く見せないチキン・レースを展開。特に、20年近く上院で共に勤務し、オバマ政権時代には、当時副大統領だったバイデン大統領が議会対策の最前線に立ち、予算をはじめとする重要法案でマコーネル共和党上院院内総務と交渉を行い、超党派の合意に達した例がいくつもありました。しかし、今回に限っては、バイデン大統領もマコーネル共和党上院院内総務も、直接対話を頑なに拒否。マコーネル共和党上院院内総務からの公開書簡に対して、バイデン大統領が記者会見の席上で応答するという、まさに「空中戦」を展開している様子は、政治記者に「奇妙」と言わしめる状況でした。

ですが、107日夜にようやく、上院民主党が、マコーネル共和党上院院内総務が提案した「12月中旬まで、緊急避難的に債務の上限を引き上げて当座をしのぎ、本合意を目指して交渉を続ける」案を受け入れたため、米国が建国史上初の財政破綻に陥る事態は何とか回避されました。

ですが、9月以降、断続的にお伝えしている、総額10兆ドルのインフラ投資法案と、総額35兆ドルの「ビルド・バック・ベター法案」と呼ばれる経済政策法案の内容をめぐる交渉は、ほとんど進展を見せていません。この2つの法案の内容をめぐる交渉については、上下両院で過半数を持っている民主党が、数の力に物を言わせて上下両院で法案を可決したことで、共和党側は完全にへそを曲げています。「民主党が、共和党との交渉に応じることなく、自分たちだけで通した法案なんだから、両院総会での内容のすり合わせも、民主党だけで勝手にやれば。でも、共和党がある程度飲める法案が出てこなければ、上院で審議妨害して、本会議で投票にできないようにするから、そのつもりでいてね」という立場から一ミリも動いていないため、落としどころすら見えてきていない状況です。審議妨害については、上院では本会議での法案についての討論を打ち切って投票に付すための動議を可決さえるためには3分の2の賛成票が必要なのですが、現在の上院では、共和党議員の一部が民主党と一緒に投票しない限り、3分の2の賛成票には到達できません。

こんな状況で、バイデン大統領の支持率も急落。ただでさえ、米軍のアフガニスタンからの撤退をめぐる大混乱で支持率に陰りが見えていましたが、昨日、政治トピックでの世論調査でアメリカの中では「知る人ぞ知る」的な存在のキニピアック大学が発表した最新の調査の結果によれば、バイデン大統領の支持率はなんとたったの38%。先月、同大学が実施した世論調査時のバイデン大統領への支持率は、すでに42%でしたが、わずか一か月でさらに4%も下落。中間選挙に向けて、不穏な雲行きになってきました。

政権発足から1年も経たないうちに、早くもレイムダック化が心配されるバイデン政権。お膝元の国内政治がこれでは、「米国の国際舞台への復帰」を宣言したバイデン政権が、どこまで外交政策で頑張れるでしょうか・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員