キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年10月1日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンは、一気に秋が到来しました。ほんの2週間前まで真夏の暑さだったのが嘘のようです。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
今週のワシントンは、引き続き、連邦議会が揺れています。木曜日(9月30日)夜にバイデン大統領が、連邦政府の活動予算を今年度の支出レベルで12月3日まで延長する継続決議法案に署名したことで、10月1日の連邦政府閉鎖という最悪のシナリオはギリギリのところで回避されました。ですが、債務上限の引き上げをめぐる交渉は依然として続いており、10月18日までに債務上限の引き上げか、上限の一時的撤廃が合意されなければ、政府が財政破綻に陥るからです。万が一、そのような事態になれば、コロナウイルス不景気からようやく回復し始めたアメリカ経済にとって大打撃となるだけでなく、世界経済に与える影響は計り知れません。このため、バイデン大統領自らが交渉に乗りだし、緊張したやり取りが続いています。
加えて、総額10兆ドルのインフラ投資法案と、総額35兆ドルの「ビルド・バック・ベター法案」と呼ばれる経済政策法案の内容をめぐる交渉もホワイトハウス、上院、下院の3者間でいまも続いています。現在、上下両院でそれぞれ成立した法案の内容をすり合わせる両院総会での交渉に入っていますが、これを書いている最中の9月30日午後10時45分頃に、インフラ投資法案への下院での再投票の時期を遅らせる決定を、ナンシー・ペロシ下院議長がしたという速報が流れてきました。という訳で「ビルド・バック・ベター」法案も、両院協議会における交渉の落としどころが見えない状態です。バイデン政権の内政アジェンダを実現するため不可欠なこの法案が成立しなければ、来年の中間選挙で民主党が苦しい戦いを強いられることは避けられません。
早くも投票日まで13か月余りとなったこの中間選挙の行方を占う重要な試金石になると言われているのが、今年11月に行われるバージニア州知事選挙です。バージニア州憲法が州知事の連続任期を禁じているため、来年に任期満了で退任となる現職のラルフ・ノーサム知事の後任を争うこの選挙、民主党からは、クリントン政権時代に民主党全国大会委員長として選挙で辣腕を振るったあと、2014~2018年までバージニア州知事を務めたテリー・マコーリフ元知事が出馬。対する共和党からはカーライル・グループという投資会社の最高経営責任者を2020年まで務めていたグレン・ヨンキン氏が出馬しています。選挙戦が始まったころは、知名度は全国区、バージニア州知事時代も比較的人気が高く、なんといっても、民主党全国委員会委員長として何度も大統領選挙や中間選挙の指揮を執った「選挙のプロ」であるマコーリフ元州知事が圧倒的に有利だろうと思われていました。ところが、蓋を開けてみると、過去の政治経験ゼロ、州内での知名度ゼロ、あるのは選挙戦を展開するためにテレビ広告などをガンガン流せるだけの財力だけ、というヨンキン氏が、マコーリフ元知事とほぼ互角の争いを展開しているのです。しかも、バージニア州は、大統領選挙の季節になると、かならず注目される「激戦州」の一つ。ここで万が一、マコーリフ元州知事が敗れるようなことがあれば、バイデン政権への不満が高まっている証左となり、中間選挙で民主党が厳しい戦いを強いられる確率が一気に高まります。
唯一明るいニュースは、ファイザー社のコロナウイルス・ワクチンのブースター接種がFDAの承認を受けたことぐらい。バイデン政権にとってはなかなか厳しい日々が今後も続きそうです。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員