キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年9月21日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
振り返ってみれば、8月中旬以降、様々なことが起きた。アフガニスタンではカブールがあっけなく陥落、8月30日には米軍が完全撤退を完了した。9月に入ると菅首相の総裁選不出馬声明があり、それからというもの、日本のマスコミは自民党の準広報機関のように、総裁選関連報道を連日垂れ流している。
そうしたフィーバーの中で、今週筆者が注目したのは中国内で最近起きている二つの大きなニュースだ。一つは「恒大集団」の破綻という経済現象、もう一方はIT長者や芸能人セレブなどのスキャンダルという政治現象である。これらは一見、相互に関連のない個別の事件に思えるかもしれないが、実は相互に関連しているようだ。
まずは、中国の不動産バブルの行方から。先週、各国市場では、巨額の負債を抱えた中国の不動産開発大手「中国恒大集団(China Evergrande Group)」の経営危機の噂が駆け巡った。負債総額30兆円、債務超過2兆円弱という大型破綻になる可能性があるらしい。投資家や金融業界にとっては重大ニュースだろう。
一方、最近中国では、有名芸能人の摘発やIT企業や学習塾への締め付けなど富裕層を狙ったとみられる当局の動きが目立っている。複数の中国大手IT企業が突然各種慈善事業に巨額の寄付を始めたり、人気俳優がドラマ出演料の脱税容疑で巨額の罰金支払いを命じられた。「共同富裕」と呼ばれる新政策の結果だと噂されている。
これらを如何に読み解くべきか。結論を急げば、筆者はこれら二つの現象が、より巨大な同一現象の一部分に過ぎないと考え始めている。政治と経済が一体化し、純粋の経済活動が存在し得ない不思議な国、中国において「政治的経済現象」を如何に深読みすべきか。詳細は今週の日経ビジネスオンラインをご一読願いたい。
結論の一部を明かせば、習近平の本年8月17日のいわゆる「共同富裕」演説は金融市場の安定化についても詳しく言及しており、IT企業の突然の寄付行為も、芸能人の脱税事件も、中国恒大集団の取り扱いも、全てはその習近平演説を受けたものと考えるのが自然だ、ということだ。
筆者が中国政治の分かるエコノミストであれば、直ちに同演説の原文を再度精読し、 経済原理ではなく、政治的必要性の観点から、中国政府による「恒大集団」問題の処理の行方を占うところだが、生憎、筆者にはその種の能力がない。中国とは、全ての経済活動が政治的意味を持ち、14億人の「政商」が生息する不思議な国なのである。
〇アジア
米英豪がインド太平洋地域を念頭に、AUKUSなる新たな安保の枠組み作り、手始めに米英が豪の原子力潜水艦建造計画を支援するという。それにしても、原潜技術を提供するとは相当の決断だ。豪州は「ルビコンを渡った」というのが筆者の印象である。これを中国が座視する筈はないが、急所を突かれたのではないか。
〇欧州・ロシア
急所といえば、豪原潜計画ではメンツを潰されたフランスが激怒している。それまで進んできた仏製潜水艦計画が御破算となり、完全に梯子を外されたからだ。豪州にも言い分はあるようだが、結局はディーゼルエンジンの潜水艦では、中国海軍に対する抑止力にはならないと米国が腹を括ったのだろう。可哀想なのはフランスだ。
〇中東
先週アフガニスタン東部でターリバーン関係者を狙った爆破テロが相次ぎ、「イスラム国ホラサーン州」が犯行を認めたという。爆破はジャララバード市内で4件起き、民間人を含め4人が死亡したそうだ。これは単なる序曲に過ぎない。悲しいかな、アフガニスタンでは「テロで笑う者は、テロで泣く」のである。
〇南北アメリカ
中米ハイチ出身の移民希望者が米テキサス州メキシコ国境に大挙押し寄せている。不法移民は過去20年で最多の水準だそうだ。トランプ政権は「壁を作る」政策で厳しく対処したが効果はなく、バイデン政権にも特効薬はない。そりゃそうだろう、メキシコとの国境はあまりに長い。そもそも、物理的に食い止めるのは不可能なのだから。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
6-24日 子どもの権利委員会 第88回会合(ジュネーブ)
13-10月1日 ICAO(国際民間航空機関) Committee Phase 第224回会合(モントリオール)
14-10月9日 国連人権理事会 第48回会合(ジュネーブ)
16-23日 トルコ・チャヴシュオール外相がニューヨークを訪問
19-21日 中秋節休暇(中国)
19-22日 トルコ・エルドアン大統領が米国を訪問
20日 カナダ下院議会選挙
20日 RCEP暫定合同委員会会議
20-24日 IAEA 総会 第65回会合(ウィーン)
20日 長征7(天船三号)打ち上げ(海南省 文昌衛星発射センター)
21日 RCEP閣僚会議
21日 OECD経済見通し発表
21日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
21-22日 米国FOMC
21-22日 ブラジル中央銀行、Copom
21-23日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(クラーニ)
21-26日 北米国際自動車ショーがコロナで屋外イベント「モーター・ベラ」に変更(一般公開は23日から)(ミシガン州)
21-27日 第76回国連総会一般討論(ニューヨーク)
22日 ロシア1-8月鉱工業生産指数発表
22日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会 非金融政策(フランクフルト)
22-24日 茂木外相がニューヨークを訪問
23日 欧州中央銀行(ECP)一般理事会(フランクフルト)
23日 マン島ハウス・オブ・キーズ(下院)選
23-24日 EU雇用・社会政策・保健・消費者問題担当相理事会 非公式会合(消費者保護)(クラーニ)
24日 国連フードシステムサミット(ニューヨーク)
24日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表
24日 独立国家共同体(CIS)経済理事会(ロシア・モスクワ)
24日 ニュージーランドAPEC女性と経済フォーラム
24日 インド・モディ首相がクアッドに参加するためにニューヨークを訪問
25日 国連総会でエネルギーに関するハイレベル対話(ニューヨーク)
25日 アイスランド議会選挙
25日 台湾最大野党・国民党主席選
25日快船1号甲(吉林一号高分02D)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
25-29日 英国労働党大会(ブライトン)
26日 ドイツ連邦議会選挙
26日 ベルリン州議会選挙、メクレンブルク=フォアポンメルン州議会選挙
<27-10月3日>
27日 IAEA理事会(ニューヨーク)
27日 メキシコ8月貿易統計発表
27日 ナゴルノ・カラバフをめぐる軍事衝突から1年
27-29日 第26回ASEAN社会文化コミュニティ評議会(ASCC)会議
27-30日 国境を越えた犯罪に関する第15回ASEAN閣僚会議(AMMTC)とその関連会議
28日 EU競争力担当相理事会(ブリュッセル)
28日 メキシコ8月雇用統計発表
28日 ロシア1-7月貿易統計発表
28日 アトラスV(Landsat 9, CUTE, CuPID, 2機のCesium Mission1)打ち上げ(ヴァンデンバー
グ空軍基地)
28-10月1日 WTOパブリックフォーラム
30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
30日 EU 8月失業率発表
30日 米国第2四半期GDP発表(確定値)
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
9月中 インド外国貿易政策2021-2026発表
10月1日 ロシア2021年第2四半期需要項目別GDP(速報値)発表
1日 米国8月PCE(商務省)
1-7日 国慶節休暇(中国)
3日 岡山市長選
3-6日 英国保守党大会 (マンチェスター)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問