キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2021年9月7日(火)
[ 2021年外交・安保カレンダー ]
過去一カ月で二度目の米国出張を終え先日帰国した。羽田空港での検査は何と一時間で終わった。週末だからか、到着便が少ない時間帯だからか、8月中旬の成田空港での3時間とは大違いだった。でも、出発前と帰国前のPCR検査、帰りのハイヤー代など10万円以上の追加出費は痛い。仕方がないのは判っているのだが・・。
一方、日本の政局は予想以上に激しく動いている。菅首相の自民党総裁選不出馬発言から数日しか経っていないのに、投票日を月末に控えた永田町は異様な政局モードに沸いている。出発前とはまるで違う国に帰って来たような気分だ。陳腐な知ったかぶりの内政コメントは差し控えたいが、一つだけ気になる記事をご紹介しよう。
某有力全国紙の政治部記者はこう書いている。まずは一読してほしい。
●かつて自民党の派閥は、配下の議員が領袖を総裁に押し上げるため、総裁選で抗争を繰り広げた。しかし、「金権政治」の温床ともされたシステムは、1990年代の一連の政治改革のなかで首相や党執行部の力が強まるにしたがって形骸化。7年8カ月に及ぶ安倍政権は、派閥領袖らを抱え込んで安定を図り、総裁候補を育む活力もそいでいった・・・。
申し訳ないけど、ちょっと違うんだなぁ。若い記者は知らないかもしれないが、自民党の派閥が変質した理由は「首相や党執行部の力が強まった」からではない。それは原因ではなく、むしろ結果である。以前の自民党は、一党独裁どころか、派閥という事実上の半独立「ミニ保守諸政党」による保守連立政権だったのだから。
以前の派閥が半独立のミニ保守政党であり続けた理由は中選挙区制だ。総選挙の際は各派閥に独立の選対が置かれていたぐらい。ところが、政治改革と称して中選挙区制を廃止し、代わりに小選挙区+比例代表制を導入したため、当然、公認権を持つ「党執行部の力」は強まる。自民党は、ようやく単一政党になったのだ。
このシステムを最大限活用したのが、小泉政権と安倍政権である。この二人の傑出した総理大臣は、派閥の力ではなく、リーダーとしてのカリスマ的パワー、というか、個人の力によって政治的求心力を創造し、強化された自民党総裁のパワーを推進力に変えたのだ。だが、もしこの仮説が正しければ、その結論は恐ろしいものとなる。
第一は、今のシステムが続けば、この種の傑出したリーダーを選ばない限り、自民党による長期政権は難しくなることだ。小選挙区制度の下で、派閥は「半独立した政治マシーン」にはなり得ない。特に、総選挙が逆風で、誰もが自らの再選を懸念し始めれば、組織としての「政治マシ―ン」が機能しなくなるのも当然だろう。
第二の結論は、派閥の人材育成機能が一層劣化する可能性である。冒頭の記事には安倍政権が「総裁候補を育む活力もそいでいった」とある。だが、そもそも、半独立の政治マシーンでない派閥の長に、時の総理総裁と「喧嘩」する気概を求めるのは無理だし、派閥を維持する調整能力と「発信力」「カリスマ性」とは全く別物だ。
第三の結論が最も恐ろしい。それはシステム自体に「ナショナリスト」「ポピュリスト」のリーダーを輩出する機能がビルトインされている可能性があることだ。簡単に言えば、見栄えが良く、サウンドバイトが得意であれば、無責任で、あまり中身はなくても、一般大衆の人気の高い政治家が総理総裁になり得るということでもある。
あれあれ、外交安保のカレンダーであるはずなのに、ちっとも外交の話がなかったばかりか、最後は陳腐な知ったかぶりの内政コメントになってしまった。心よりお詫び申し上げる。それでも、今回の自民党総裁選は今後10年の日本の方向性を決めかねない重要なものだ。来週は今の日本外交に必要な人材について書くことにしよう。
〇アジア
習近平国家主席が「貧富の差を是正しすべての人が豊かになる『共同富裕』を目指し、高すぎる所得の調整や高所得層や企業に対して社会への還元を促す方針を打ち出したと報じられた。もし「共同富裕」が、税や社会保険料に代わり、政治的手段で富の再分配を図ることだとすれば、これは何かの「終わりの始まり」となるだろう。
〇欧州・ロシア
独総選挙が26日に予定されているが、メルケル現首相の保守与党CDU・CSUが苦戦する一方、中道左派・社民党が支持を伸ばし、同党中心の左派政権誕生の可能性が出てきたという。「ポスト・メルケル」のドイツが混乱すれば、それは即、EUの混乱に繋がる。ドイツの総選挙の行方には最大限の注意が必要だ。
〇中東
アフガンのマザリシャリフ空港で、チャーター便の離陸をタリバンが許可せず、米国人やアフガン人協力者ら約千人が5日間も足止めされているそうだ。アフガニスタンの現状を象徴するようなニュースだが、この種のことは「これが最後」ではなく、恐らくは単なる「始まり」に過ぎないだろう。タリバンの統治能力は恐ろしく低い。
〇南北アメリカ
バイデン大統領の支持率が急落したという。アフガン駐留米軍撤退プロセス、新型コロナ感染再拡大、甚大なハリケーン被害という三重苦に直面し、各種世論調査の平均で不支持率が上回ったそうだ。それでもまだ46%もある。レバノン撤退後のレーガン大統領支持率は39%にまで急落したが、同大統領は再選された。ここで一喜一憂するのは如何なものか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
7月26-9月10日 ジュネーブ軍縮会議 third part(ジュネーブ)
9月1-11日 第78回ベネチア国際映画祭
2日 米国7月貿易統計発表
2-7日 中国国際サービス貿易交易会(北京)
3日 米国8月雇用統計発表
4-8日 UNHCR 執行委員会 第72回会合(ジュネーブ)
4-8日 国連貿易開発会議(UNCTAD) 総会 第15回会合(オンライン)
5-6日 G20保健相会合(ローマ)
5-7日 EU農水相理事会 非公式会合(クラーニ)
5-8日 化学兵器禁止機関(OPCW)執行理事会 第98回会合(ハーグ)
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 EU経済・財務省(ECOFIN)理事会 非公式会合(オンライン)
6日 メキシコ8月自動車生産・販売輸出統計発表
6日 エチオピア6月21日未実施選挙区における投票と南部諸民族州から別途、南西州を設置する住民投票
6日 米国労働者の日(ニューヨーク市場はすべて休場)
6日 長征4C(高分五号02)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
6-12日 ミュンヘン国際自動車ショー(一般公開は7日から)
6-24日 子どもの権利委員会 第88回会合(ジュネーブ)
7日 EU2021年第2四半期実質GDP成長率発表
7日 中国8月貿易統計発表(税務総署)
7日 EU 4-6月期のユーロ圏GDP確定値(EU統計局)
7-10日 UNICEF執行理事会 second regular session(ニューヨーク)
8日 チリ8月CPI発表
8日 ロシア8月CPI発表
8日 ベージュブック(FRB)
8日 モロッコ衆議院選挙
8日 AEM-第35回ASEAN自由貿易協定評議会会議
8-10日 国際捕鯨委員会(IWC)Virtual Special meeting
9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
9日 メキシコ8月CPI発表
9日 ブラジル8月IPCA発表
9日 中国8月CPI発表
9日 北朝鮮の建国記念日
9日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
9日 第65回ASEAN統合イニシアティブ(IAI)タスクフォース会議
9日 長征3B/E(通信衛星 中星9B)打ち上げ(四川省 西昌衛星発射センター)
9-12日 マレーシア国際ハラル展示会(MIHAS)
10日 ユールグループ(ブリュッセル)
10日 ロシア中央銀行理事会
10日 ロシア8月雇用統計発表
10日 ロシア2021年第2四半期経済活動別GDP統計(速報値)発表
10日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル7月月間小売り調査発表
10日 インド7月鉱工業生産指数発表
10日 第13回CLMV経済大臣会合
10日 谷神星一号(Fangzhou-2F)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
10-11日 EU経済・財務省(ECOFIN)理事会 非公式会合(クラーニ)
11日 米同時テロから20年
12日 ドイツ ニーダーザクセン州議会選挙
12日 アルゼンチン中間予備選挙
12日 マカオ議会選
12日 長征2C/YZ-1S(遥感32号-02A, 02B)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
<13-19日>
13日 ノルウェー議会選挙
13日 中国・ASEAN経済相会合
13-16日 欧州議会本会議(ストラスブール)
13-16日 エネルギーに関するASEAN高官会議
13-17日 IAEA 理事会 (ウィーン)
14-10月9日 国連人権理事会 第48回会合(ジュネーブ)
14日 第76回国連総会開幕(ニューヨーク)
14日 米国8月CPI発表(商務省)
14日 ソユーズ-2.1b(ワンウェブ衛星#10 34機)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
14-16日 第29回税関能力開発ワーキンググループ
14-16日 第3回西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)鉱業・石油フォーラム・見本市開催(ニジェール)
15日 東アジアサミット(EAS)経済大臣会合
15日 ファルコン9(Inspiration4)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
16日 米国8月小売売上高統計発表
16日 中国8月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16-17日 上海協力機構首脳会議(タジキスタン・ドゥシャンベ)
17日 EU8月CPI発表
17日 南北朝鮮、国連同時加盟30年
17-18日 G20農業相会合(イタリア・フィレンツェ)
19日 ロシア下院選挙・統一地方選挙
19日 ハバロフスク地方知事選挙(ロシア)
19日 快船1号甲(吉林一号高分02F)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
19-21日 中秋節休暇(中国)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問