外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年8月31日(火)

外交・安保カレンダー (8月30-9月5日)

[ 2021年外交・安保カレンダー ]


31日、遂にアフガニスタンに駐留していた最後の米軍部隊を乗せた輸送機がカブール空港を離陸した。米国の20年間の「終わりなき戦争」がようやく終わった、と米国メディアは一斉に報じた。アフガニスタン撤退は戦略的には正しい決定だったが、残念ながら、戦術的には失敗である。筆者はより大きな悲劇すら覚悟していたぐらいだ。
バイデン大統領が「責任は自分で止まる」と大見得を切った以上、大統領に批判が集中するのは当然である。しかし、今回は個々のオペレーションの稚拙さや失敗の原因といった戦術的な話ではなく、過去20年間の戦争が米国にとって、またその同盟国にとって、一体何だったのかという、より戦略的、歴史的な視点から話をしよう。
筆者の結論はこうである。

1、 テロとの戦いの時代の終焉
今回の米軍撤退は、2001年の同時多発テロから始まった『テロとの戦い』という時代の終わりを象徴する出来事である。また同時に、その時代の政策、すなわち、米国の圧倒的な力を民主主義の拡大という大義に使うことは正義だと信じた、いわゆる「新保守主義」の最終的な凋落をも象徴している。

2、 ネオコンの凋落?
しかし、これを「ネオコンの終わり」と切り捨てるのはあまりに単純な議論だ。トランプ政権時代にもこの種の政治家や政治任用の政府高官は致し、今後も絶滅することはないからだ。ブッシュ時代とトランプ時代以降との最大の違いは、いわゆる「ネオコン」的発想の政策が政治レベルの寵愛を得られなくなったことだろう。

3、 中東からインド太平洋へ
米外交安保政策の優先順位の変化については何度も書いているので、ここでは繰り返さない。こうした戦略的優先度の変化はこれまでも何度か起きている。東西冷戦からテロとの戦いへの移行点は1991年の湾岸戦争だったが、そのような移行は必ずしも、「白から黒」のように、素人に分かり易く起きるとは限らない。

4、 中東への揺り戻し?
今回のカブール空港における混乱が象徴したのは、米軍の敗退というより、アフガニスタンの自己統治能力の欠如だった。残念ながら、あの国では全土を制御・統治できる政治的実体が生まれそうにない。逆に言えば、アフガニスタンを起点とする中東、中央アジアの不安定化がこれから始まる可能性もあるということだ
米国の中東における関与はもう少し続くのではなかろうか。

〇アジア
 最近北朝鮮が寧辺の核施設で原子炉を再稼働させた兆候があると、IAEA報告書が書いている。2018年のトランプ米政権との対話以降、中断していた核開発を再開した可能性があるとも報じられた。いずれ北朝鮮が「挑発」を再開するのは想定内だが、このままでは、北朝鮮は名実ともに核兵器保有国となってしまうのだが・・・。
〇欧州・ロシア
 仏大統領が、アフガニスタンで人道支援を行うため、国連が管理する「安全地帯」をカブールに設置するよう求め、英仏独の3カ国で国連安保理に提案するという。間違いだとは言わないが、せっかく米軍を追い出した後に、タリバンがそんな提案に乗るだろうか。提案のための提案に終わらないと良いのだが。
〇中東
 米中外相会談で中国側は、「各関係者がタリバンと接触し、積極的に指導すべきだ」、米軍の「拙速な撤収」により「アフガンを拠点とする各種テロ組織が復活する可能性がある」などと指摘したという。2001年の同時多発テロの際と同様、中国側は巧妙な対米外交を展開している。今回も米国務省が騙されないと良いのだが・・・。
〇南北アメリカ
 米情報機関がまとめた新型コロナウイルス発生源に関する報告書の内容は予想通りに玉虫色だったが、それでも中国外交部報道官は、「発生源解明の看板を掲げ、アメリカ自身のコロナ対応失敗の責任を転嫁する報告、口実をでっち上げて中国に汚水をかける嘘偽りの報告だ」と反発したそうだ。さすが中国は相変わらずである。
〇インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

7月26-910ジュネーブ軍縮会議 third part(ジュネーブ)

10-9月3ニュージーランドAPEC3回高級実務者会合

23-9月3包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)ワーキンググループB及びインフォーマル/諮問グループ(ウィーン)

30日 米ウクライナ首脳会談(ワシントン)

30日 米比相互防衛条約(安全保障条約)締結から70年

30-9月2欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発

31日 インド2021年度第1四半期GDP発表

31日 中国8PMI発表(国家統計局)

31日 米軍、アフガニスタン撤収期限

9月1日 EU7月失業率発表

1日 ブラジル第2四半期GDP発表

1日 韓国通常国会開会

1日 中国の改正海上交通安全法施行

1日 太平洋安全保障条約(米・豪州・ニュージーランドの3カ国)の調印から70年

1日 日本デジタル庁発足

1-2日 一帯一路サミット(香港)

1-11日 第78回ベネチア国際映画祭

2日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表

2日 米国7月貿易統計発表(商務省)

2日 ファイアーフライ・アルファ(DREAM)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)

2-4日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)

3日 米国8月雇用統計発表

3日 中国の抗日戦勝記念日

4-8日 UNHCR 執行委員会 第72回会合(ジュネーブ)

4-8日 国連貿易開発会議(UNCTAD) 総会 第15回会合(オンライン)

5-6日 G20保健相会合(ローマ)

5-8日 化学兵器禁止機関(OPCW)執行理事会 第98回会合(ハーグ)

<6-12日>

6日 メキシコ8月自動車生産・販売輸出統計発表

6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

6日 米国労働者の日(ニューヨーク市場はすべて休場)

6日 長征4C(高分五号02)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)

6-12日 ミュンヘン国際自動車ショー(一般公開は7日から)

6-24日 子どもの権利委員会 第88回会合(ジュネーブ)

7日 EU2021年第2四半期実質GDP成長率発表

7日 中国8月貿易統計発表(税務総署)

7日 EU 4-6月期のユーロ圏GDP確定値EU統計局)

7-10日 UNICEF執行理事会 second regular session(ニューヨーク)

8日 チリ8月CPI発表

8日 ロシア8CPI発表

8日 ベージュブックFRB

8-10日 国際捕鯨委員会(IWC)Virtual Special meeting

9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)

9日 メキシコ8CPI発表

9日 ブラジル8IPCA

9日 中国8CPI

9日 モロッコ議会選

9日 北朝鮮の建国記念日

9日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)

9日 長征3B/E(通信衛星 中星9B)打ち上げ(四川省 西昌衛星発射センター)

9-12日 マレーシア国際ハラル展示会(MIHAS)

10日 ユールグループ(ブリュッセル)

10日 ロシア中央銀行理事会

10日 ロシア8月雇用統計発表

10日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表

10日 ブラジル7月月間小売り調査発表

10日 インド7月鉱工業生産指数発表

10日 谷神星一号(Fangzhou-2F)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)

11日 米同時テロから20年

12日 ドイツ ニーダーザクセン州議会選挙

12日 アルゼンチン中間予備選挙

12日 長征2C/YZ-1S(遥感32号-02A, 02B)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問