外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年8月23日(月)

デュポン・サークル便り(8月20日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、相変わらず、蒸し暑く、夕方になると雷雨に見舞われる日々が続いています。暑さに強いアメリカ人の友人も、さすがに、「早く秋が来ないかな」と口走り始めました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

今週の最大の話題はなんといっても、アフガニスタンの国家崩壊です。バイデン政権による「8月31日までに米軍撤退を完了させる」という期限が近づくにつれ、アフガニスタン情勢は急速に悪化。タリバンが文字通りアフガニスタン国軍をなぎ倒して、わずか9日で首都カブールを制圧してしまいました。この予想外の展開に、当然、現地は大混乱。首都カブールの空港では、国外退避する米国人とその家族を乗せた米軍機にすがりつくアフガニスタン人で溢れかえる様子がメディアで全米のお茶の間に放映されました。その様子は、さながら、1975年、ベトナム戦争で南ベトナム政府の首都サイゴンが陥落した当時の混とんとした状況を彷彿とさせるものでした。

バイデン大統領は、アフガニスタン情勢について8月16日にホワイトハウスから直接国民に語り掛ける演説を行いました。この中で「アフガニスタン人自らが戦おうとしない戦争のために、米軍兵士の命を犠牲にすることはできないし、すべきでもない」と述べ、アフガニスタン撤退の判断は正しいという立場を訴えました。また、数日後にはABCニュースとの単独インタビューに応じ、この中で、米軍撤退期限の8月31日を過ぎても、アフガニスタン国内に滞在するすべての米国人と米軍に協力してきたアフガニスタン人やその家族を無事に出国させる目的で米軍を現地に残す意向を示しています。

ただ、やはり、米軍機にぶら下がって、何としても米軍機に乗り込もうとするアフガニスタン人の映像が強烈過ぎて、メディアでは、今回のバイデン政権の対応について否定的な反応が殆ど。しかも、「米軍の撤退を邪魔しないでね!よろしく!」という合意をタリバンと結んでおいて、あとのフォローアップを何もしなかったトランプ前大統領まで、鬼の首をとったようにバイデン大統領を共和党支持者の集会で批判しています。バイデン大統領は「お前が言うな!!」と思っていることでしょう・・・

そんな中、今後、議会では、「なぜ、米軍撤退に当たり、ここまでの大混乱を招いたのか」について、多くの公聴会が開かれることは確実です。特に、アフガニスタン国軍がここまで脆いという情報がなぜ、政権中枢に届いていなかったのか、届いていたとすれば、大統領がなぜ、それでも早期の米軍撤退にこだわったのか、が焦点になるでしょう。

また、過去20年間、米軍に通訳や情報提供者など、様々な役割で協力してきたアフガニスタン人とその家族の身の安全をどうやって守るかも重要な問題です。ベトナム戦争終了直後も、米軍協力者だった南ベトナム人やその家族が多数、米国に移住しました。その彼らのコミュニティを中心に「米軍に協力したアフガニスタン人を見捨ててはいけない!」という強い声が上がり始めています。この点についても、移民政策の観点からどのような手当がされるのか、今後が注目されます。

そんな中、ワシントンではなんと今日(8月19日)、トラックで議会図書館の前に乗り付け「このトラックごと自爆する!」と主張する男性と議会警察が6時間近く対峙するという事態が発生。最終的には、議会警察の説得に応じ、男性が自首することで事態は収束しましたが、このため、議事堂や議員会館、議会図書館周辺はロックダウン状態に。付近は大混乱となりました。

これまで「外交政策のプロ集団」を自認し、危なげなく外交政策を展開してきたバイデン政権がいきなり直面してしまった外交政策の試練。大チョンボになりかねない今回の事態から、この外交チームが立ち直ることはできるのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員